第101話「買い物に行こう」
食べ終わったら、コーロの町を観光することになった。姉が、
「時間あるし、見て回ろうよ。クソオヤジの方は、まあ別にいいって。遅くなるとか言ってるし、早く着いて待ってるのはしゃくだからさ。てか、もう会わなくてもいいかもしんない」
と言い出したからである。
「そんなんでいいの? お姉ちゃん」
ラミは姉の適当さ加減を危ぶんだが、
「いいの、いいの。ラミの服でも買おう」
姉は上機嫌でそう言った。
「女の買いものかー。オレ、パスな」
ゾウンが言う。
「そうはいかないわよ。荷物持ち」
「荷物持ちだと?」
「じゃなきゃ、その馬鹿力、いつ活かすのよ?」
「……たく」
「安心して。財布になれとは言わないわ」
「当たり前だ」
「アレスになら言ってたけど」
「お姉ちゃん」
ラミは、姉をたしなめた。
「ゾウンに持ってもらわないといけないほど買ったら、無駄遣いになっちゃうよ」
姉は、ちっちっと指を振って、
「女の子はね、例えちょっとした荷物であっても自分で持っちゃいけないの。できるだけ、男に持たせる」
言う。
ラミは姉の男女関係に関する持論は尊重しながらも、その考え方では男女は奴隷と女主人の関係であって、とてもラブラブなカレシとカノジョ関係にはなれないのではなかろうか、と思った。
「じゃあ、財布役にはわたしがなりましょうか」
サイは、ラミにプレゼントすることを申し出た。
「ええ! そんな悪いよ」とラミ。
「たまにはいいじゃありませんか。確かに、マナの言う通り、美しい女性にプレゼントするのは男の義務でしょうから」
サイがそう言って、ふくふくと笑うと、マナエルは、妹を守るようにして立ち、
「二つ言いたいことがあるわ、サイ」
静かに言った。
「なんでしょう?」
「まず一つ。ラミに言い寄るなら、あたしと戦うことになるってこと」
「マナとは戦いたくありませんねえ。命がいくらあっても足りない」
「次に、美しい女性にプレゼントするのが男の義務なら、どうしてあたしにプレゼントしないのかということ」
「失礼。では、可憐な女性と言い換えます」
「そうして最後に一つ。あたしが言ったのは荷物を持てということで、プレゼントをしろということじゃない」
「二つと言ったのに、三つ言ってますよ」
「もう一つ。男は小さいことにこだわらないようにすること」
ジアも同行を願い出たので、結局みんなで出かけることになった。
宿の外に出ると、朝と同じ爽快な空である。
青空から降る光が、心地よく熱を生む。
大路は、人と馬車の通行でかまびすしく、活気に溢れていた。
ヴァレンスとは違って、空気が生き生きとしているように、ラミには感じられた。
服飾店の一つに入ると、ラミは、カジュアルな衣服に魅了された。街路で、ここコーロの若者が着ているような服である。
「ラミならどれも似合いそうだね。どれにする? 試着してみる?」
姉の言葉にラミは、「んーん」と首を横に振ると、カジュアルコーナーを通り抜けて、より実用的なコーナーへと足を向けた。何やら暗い色合いの服ばかりであるが、それもそのはず、そこは旅行者向けのグッズが置かれている一角だった。
ラミは丈夫そうなブーツと、厚手のマントを手にとってしげしげと眺めた。
「なんて不憫な子なの……」
姉が顔を隠すようにして、「う……う……」と嗚咽のようなものを漏らす。
ラミは姉の小芝居を気にかけず、色合いの乏しいそれらに心を決めた。
「お姉ちゃん、これ、いい?」
「可愛い服も買いましょう」
「要らない。だって着る機会がないもん。持ち物が増えれば邪魔になるだけだし」
「……せめて、もうちょっと可愛いデザインのものがあればいいんだけど」
しかし、そういうものはこの店では扱っていないようだった。旅に飾り気は必要ないということだろう。姉はため息をつくと、ラミが選んだ物に決めた。
「やったあ! お姉ちゃん、ありがとう!」
ラミが心からはしゃいだ声を上げる。
「うう……」姉は口元を押さえるようにした。
「なら、アクセサリーはどうです? それなら邪魔にならないでしょう?」
サイが申し出た。
「衣服の代わりにプレゼントしましょう。他意や下心はありません。友人としての贈り物です。それならいいでしょう? マナ、ラミ」
ラミは、アクセサリーという言葉に、心が鳴るのを覚えた。そうして、姉を上目遣いで見る。姉は肩をすくめるようにした。OKということだ。
「やった!」
「オレにも剣の一本でも買ってくれよ、ダチのよしみで」
ゾウンが言うと、
「わたしはサイ様の友だちにはなれないでしょうか?」
ジアが悪乗りした。




