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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
おまけの章「ラミの木刀」
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第100話「渚にて」

 ラミは、その夜、ベッドでぐっすりと寝た。

 ベッドは特に贅沢なものではなかったが、清潔なものであり、何よりベッドであった。ベッドであるというそれだけで、ラミには十分だった。

 寝る前に、宿のお風呂に入った。浴室は宿に付設されたちっちゃな建物であり、浴槽は大きな木の桶のようなものである。年頃の女の子として、汚れた格好でいることには、耐え難いものがあったラミは、二日ぶりのお風呂を、姉とともに入った。姉と自分の肢体を比べて、そのつんつるてんさに、ちょっとがっくりきたが、きっと将来はナイスバディになるだろうという特に何の根拠も無い憶測で自分を慰めた。

「筋肉付いてきたんじゃない、ラミ?」

 姉の言葉に、ラミはびっくりした。「ええっ!」

「何か引き締まって来たみたいだよ」

 そうかなあ、とラミは自分の腕や足を確かめた。「お姉ちゃん、わたし、ムキムキになっちゃったらどうしよう……」

「手に剣ダコとかもできるんじゃないかなー」

「えー……やめようかなあ、剣」

「やめちゃえ、やめちゃえ。ラミは魔導士になればいいんだよ」

「うーん……あ、でも、コウコさんは別にムキムキじゃないし、それにジアさんだって綺麗だし」

「ちぇっ」

「え?」

「何でもないよ。ただ、この頃、お姉ちゃんよりゾウンとサイと一緒にいる方が楽しいみたいだから、ちょっとヤキモチ焼いているだけよ」

「全部言っちゃってるよ、お姉ちゃん」

「言って何が悪いの!」

「ううん、悪くないよ」

「ならば良し!」

 翌朝、その姉とともに、湖を見に行った。他のみんなを置いて、姉妹で宿を出る。

 天気は青空、素晴らしく良い。

 爽快な朝の空気の中を、姉とともに街路を歩いて行くと、しばらくして、街並みが切れた所で、美しい湖面が見えてきた。

 ラミは、言葉を失った。

 こんなに大きな「水たまり」だとは思わなかったのである。

 湖面は穏やかで、朝日を浴びてキラッキラッと光を反射している。

 ラミはその景色に魅了されて、吐息をついた。

「すごいねえ、お姉ちゃん……」

 それしか言葉がない。

「綺麗ね」

 姉が答える。

 ラミは渚へ近づくと、湖の水に手で触れてみた。気持ちよく澄んだ水である。水を弾くようにすると、パシャっという音が耳に心地よい。ラミは姉を近くに呼ぶと、えいっと姉に向かって水をかけた。

「なにするのよー、もう」

「あはは」

「お姉ちゃんは大人だから、やり返したりしないからね」

 そう言ってとり澄ましたような顔をする姉に、もう一度、水しぶきを飛ばしてやると、

「……お姉ちゃんと本気でやり合う気なの、ラミ?」

 怖いことを言ってきたので、ラミは素直に謝った。そのあと、

「お姉ちゃん、わたし、本当に旅に出て良かった」

 まっすぐに姉に言う。

「……そう?」

「うん! 楽しいし、楽しいし、楽しいし、お姉ちゃんと一緒にいられるし!」

「それなら良かったわ」

 姉の言葉に湿り気がある。

「……お姉ちゃん?」

「帰ろうか。みんなを起こして、朝ごはん食べよう」

「うん」

 ラミは、姉の手に自分の手を滑り込ませると、その手がギュッと握り返されるのを感じた。

 宿に戻ると、ゾウンとサイとジアの三人が朝食の席を囲んでいた。

 それに参加するラミとマナエル。

 ラミは、ゾウンが食べているパンを横から取った。

「おい、行儀悪いぞ」

「ゾウンはわたしのこと愛してないんだね」

「何だって?」

「その人に愛されているかどうかを知るには、その人が食べているものを分けてくれるかどうかを知ればいい」

「……誰の言葉だ?」

「さあ」

 ゾウンは頭を抱えた。

 サイが咳払いをしてから、「どうぞ」と自分のパン皿を差し出した。

「ありがとう、サイ!」

 ラミは心からの笑みを与えた。

「マナ、これ、あなたにです」

 サイはメモを姉に差し出した。

 姉が開いたメモを、ラミが隣から覗き込むと、

「マナエルへ。キミの大好きな先生だよ。ちょっと遅れるかもしれないから、会うのはお昼すぎでいいや。昨日の地図のところだからね、待っててね」

 という柔らかな文面が見えた。

「昨夜の符神(ふがみ)がまた来たんです」

「ふーん」

 姉はメモをくしゃっと丸めると、食べ終えられた皿の上にポイっと捨てた。

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