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はじまりはじまり~
桜の花びら舞う道を、少女が駆けて行く。
桃色の頬、赤い唇、黒い髪。少女の容姿は、人形が如く端麗で、白磁の肌が一層目を引く。滑らかなその肌は、肩まで広げた着物の襟から覗く、胸元まで続いている。
笑みをこぼしながら、少女は、走る。綺麗な足で地面を蹴り、跳ぶ。
短くたくしあげた着物と肩からさげた袋が揺れる。
少女が跳んだ先、十数メートルのところに人がいた。いい仕立てのブランド物のスーツを着込んだ紳士だ。白髪混じりで猫背、暗い印象がある。
少女は、ふっと笑うと足音もなく紳士の方へ、飛ぶように駆け抜け跳躍した。その様子は、スローモーションの様に見えた。
グシャッ ― 。
少女は、跳躍した後にさげていた袋から刀を抜き、右肩から左脇腹まで大きく切り裂いた。
吹き上がる血の臭いが、鼓動を早める。トクン、トクンと。
いっそう、桜の色が濃くなる道で、俺は彼女の秘密と出会った。たぶん…一生忘れない。