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みっしょん、かもしれない・5

「マークさん達、行っちゃったな」

 

 女子二人をそれぞれ家まで送った後、龍生と弘樹は何となく別れがたい気分で話をしていたのだが、たまたま龍生の両親は東京で親戚の法事が有って、今夜は一人で過ごす予定なのだった。それを知った芳樹と弘樹が夕食を食べて行くように誘ってくれたのだ。

 マークとフェリシアを見送ると、龍生は妙に寂しい様な気分になったのが自分でも意外だった。おキツネ様やマークの言葉からすると、自分はもともと異世界の存在であったのだが、地球に転生した、そう言う事らしい。そして杏と魂と肉体を交換した杏の祖母が、マークの妻なのだという。


「本当に瞬間的に姿が消えるんやな。驚いた」

「本殿でいきなり出てきた瞬間は見てたやろう? 」

 龍生は屋上での事も有ったから、余り驚かなかった。あの二人なら似つかわしい気もするのだ。

「いや、僕は見てへんかった。おキツネさんに気ぃとられてたんや。ふっと見たらお二人さんが靴持って立ってはったから、ぎょっとした」


 確かに初めて見たら魂消るだろう。フェリシアさんは目が赤いし……と龍生は思った。


「杏はお前と美穂が何をテレパシーで話しとったんか、酷く気にしとったな」


 おキツネ様を待つ間に杏が自分に向けてきた視線は、思い返すと仲間はずれにされた子供のようで、今ごろになって気になる。弘樹と美穂のデリケートな話題に気を使って杏には思わず「知らん」と言ってしまったが、何か別の受け答えをするべきであったかもしれない。


「杏は僕の事なんて気にしとらんやろ? 龍生がどのぐらい自分の言う事を聞いてくれるか試したかったんと違うか? それとも女同士の友情かいな? それなら美穂に聞けばええこっちゃ」

「ただ単に、仲間はずれがいやだっただけの事やろう」


 自分はいつだって杏を守るつもりだし、一人ぼっちにしたりしないのだから、本筋に関係無い細かい事まで気にしてほしくない。弘樹と美穂の事は二人だけの事で、自分も杏も変に首を突っ込むべきでは無い。幼いころの虫取りや鬼ごっこみたいに四人一緒とはいかないのだ。そう言いたかっただけなのだが、言葉にすると杏が傷ついたような顔になるような気がして、言えなかった。


「それにしても、龍生は杏一筋と決めたら揺るがないのやな。」

「揺らいだら、色々な厄介ごとが出てくるやろう」

「美穂はそれでも、待っとったんやで、龍生を」

「それを弘樹が言うのか。俺は杏一筋。美穂だけやのうて誰に聞かれても、俺の答えは一つや」

「いや、そうなんやけどな。美穂がなんやかわいそうで」

「かわいそうな美穂を慰めればええやんか」

「なんや、いけすかん言いぐさやな。龍生みたいなモテる奴が言うと、なんか腹立つ」

「そんなん、知らん。俺は昔から誰に聞かれても杏が一番だと言っているんや。キスするのも杏だけや」


 龍生が当然のように言い放った言葉に、弘樹はショックを受けたようだった。


「キス、したんかいな」

「そうや、生後六か月以来、杏一筋なんやから、キスぐらい当たり前や」

「それ以上は? 」

「俺としては婚約のキスのつもりと言っておいた。杏も『了承いたしました』と言った。互いのおふくろさんは仲良しで将来的に俺たちが結婚するのは大賛成なんや。せやけど、釘は刺されてる。『中学生としての節度は弁えなさいよ』とか、『皆に祝福して貰えるように、軽はずみな事はしないでね』とか、なかなか煩い」

「そうかあ……キスしたんか……美穂はどうなんやろうなあ」


 弘樹は顔を赤らめ、当惑したような表情を浮かべている。


「きばりや」

「せやかて、拒否られたら、僕、立ち直れんやろうなあ」

「美穂様をお守りするナイトに徹したらええやん。その内、きっとしかるべきチャンスは来るやろう」

「そうかなあ」

「お前だけやろ、美穂を『西洋便器の蓋』って言わんの」

「おい、龍生! お前は言うたんか」

「杏と告白しあってキスした後やったから、泣くかなと思うたけどわざわざ口に出して言うた。『龍生君のいけず』て言うたな。今度からそこですかさず弘樹が慰めればええやん。俺は悪役に徹するさかい」


 龍生の目を見て、弘樹はその意図を理解したものの、美穂が泣いたと聞くとやはり可愛そうでたまらないのだろう。さりとて、龍生の心遣いを有り難いと思わないわけでもないようで……気持ちは揺れているようだ。


「あのマークさん夫婦な、俺と杏が屋上でファーストキスを交わした直後に出現したんやで。しかも『龍生君と杏ちゃん、ファーストキス、おめでとう!』とまで言われて焦った。それやのにあの二人、これ見よがしにエロい腰つきで体を密着させてチュッチュチュッチュキスしまくって、鬱陶しかった」

「そんなバカップルには見えんかったけどなあ」

「確かに今日はえらく折り目正しかったな。あのマークさんは色々と裏表が有りそうで、油断がならん」

「でも、僕思ったんやけど、マークさんとお前の顔、似てるで。どっちも派手なイケメンやけど、その……髪や目の色は違っとっても、基本骨格が似てるいうか、目鼻立ちが似てるいうか、そんな感じや」

「俺、あの人の『弟にあたる人間』の魂の生まれ変わりらしいわ」

「ほお……素直に弟と言わんで、なんでそないに持って回った言い方するのやろうな」

「マークさんの俺を見る視線に、何か微妙に刺々しい雰囲気を感じるんやわ。うんと仲が悪い弟だったとか、複雑な事情の絡んだ異母兄弟とか、そんなもん?」

「なるほどな。それなら有り得るような気がする。きっとその複雑な事情と『異界の龍の前世での心願』とか言うもんが関わるんかな」

「俺も無茶無茶気になってる。どうも俺自身の事らしいし。『異界の龍の前世での心願』……おキツネ様は教えてくれるやろか? ちょっと大人げない神様みたいやけど」

「そうやなあ……」


 二人はしばらく無言で、畳に寝転んでいた。すると、弘樹の母が夕食が出来たと知らせて来たので、二人は返事をして部屋を出た。

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