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みっしょん、かもしれない・4

「さて、皆の果たすべきみっしょんじゃが、我が力を全き形でこの地にもたらすためには、神社と寺が切り離されているのは不都合じゃ。我が全き姿は寺にある三面六臂さんめんろっぴ辰狐王しんこおうそのままなのじゃが、そのためには『日の宝珠』『月の宝珠』『摩尼宝珠』の三つが必要じゃ。他でもない。皆に願うのは三つの宝珠を取り戻す事じゃ。それがかなえば、寺と神社の有様も良き方向に向かおう」


 小さくなったおキツネ様は尻尾をゆらゆらさせながら、皆にこう述べた。


「一体それらはどの様な宝珠ですか? 」

 皆を代表する形で芳樹が尋ねる。


「日の力を宿し金色の光を放つのが『日の宝珠』、月の力を宿し銀色の光を放つのが『月の宝珠』、福徳の気を湛え大願成就の力を秘めるのが『摩尼宝珠』じゃ。人の目には時にキツネの姿に見える事も龍の姿に見える事も有るというぞ」

「では、宝珠がキツネや龍の姿に見える事が珍しくないのですな? 」

「そうじゃ。じゃがいかなる姿でも三つの宝珠は金・銀・金剛石に似た色を示すはずじゃ」

「金剛石とは、我々が普段ダイヤモンドと呼ぶ宝石でしょうが、色が無い澄んだものから、色々な色味を帯びたものもあります。どの様な色でしょうか?」

「そうじゃなあ。色らしき色は無い。ただ光り、きらめくだけじゃ」


「おお、そうじゃ、こうすればよいのじゃな」とおキツネ様は巨大な玉のようなものを本殿の部屋の中空に打ち上げ、そこに金色、銀色、無色透明のまぶしく光る宝珠、次に金色・銀色・無色で光る三匹の狐、さらに同様の色目の三匹の龍の姿を映しだし、全員に見せた。


「これでわかってくれたかの?」

「姿かたちはわかりましたが、何か手がかりは御座いませんか? 」

「お前が大学とやらに預けてしまった文書と、寺の辰狐王しんこおうを祭った堂のあたりかの? 我も手詰まりなのじゃ。じゃからこうして力添えを願っている。では、皆の者頼むぞ」


 おキツネ様は言いたい事だけ言うと、例によってバチン!と大きな音を立てて、消えてしまった。


「芳樹さん、その古文書を閲覧させて貰わねばならないですね」

 金髪碧眼男は芳樹が名乗りもせぬ内から名前を呼んだ。

「ああ、失礼。人間の意識を読み取るのは、僕らの特殊能力の一つでして、よほど特殊なブロックでもかけられていない限り簡単に読めてしまうのです。あと、これから美穂ちゃんのお祖父さんに全員で会いに行きましょう。あちら様もさっきのおキツネ様からの接触は有ったようですから、その三面六臂はちめんろっぴ辰狐王しんこおうがお祀りしてある御堂に入れて頂けそうです」


 気が付くと芳樹自身も含めて全員が、マークと名乗る男の言葉に従って、美穂の家でもある寺に向かっている。

「不思議だ。なぜ何となく皆が反対意見も述べないでマークさんについて行くのでしょうね?」

「龍は狐より格上だとされるせいかもしれませんね」

 芳樹もその説は承知していた。あのおキツネ様が認めるかどうかは分からなかったが……


 すると、またいきなりおキツネ様がバチン!と音をさせて姿を見せた。

「我は並みの龍よりも上の位に有る神じゃ。はよう寺におもむき、三面六臂の辰狐王を皆でよく見て来るのじゃ」

 それだけ言うと、また音を立てて消えた。


「ハハハ、これは驚いた。まあ僕らは龍ですら無いですけどね」

 確かに芳樹も中学生四人もおキツネ様の幼稚さ加減にあきれていた。

「まあ、ともかくもその辰狐王様を見に行きましょう」

 フェリシアの言葉に、皆はまた気を取り直して、寺に入った。


「お邪魔致します」

 神主の装束のままの芳樹に、住職である美保の祖父・正覚しょうがくが一瞬驚いた表情を浮かべた。

「今日はこっちの方の御用でお願いに上がりました。三面六臂の辰狐王様を拝ませて下さい」

「あの、白いおキツネ様の御用ですやろ? 辰狐王堂なら、今、掃除して風を通しましたさかいに皆さんどうぞ。おや? こちらの方は? 杏ちゃんのそっくりさんもいてはるし」 

「このお二人さんもおキツネ様の御依頼に大いに関係の有る方たちです」


 芳樹の言葉に正覚しょうがくは要領を得ない顔つきになったが、マークとフェリシアが名を告げて、正覚しょうがくに折り目正しい挨拶をすると、驚嘆していた。


「見事な日本語ですなあ。それにしても……こちらは杏ちゃんによう似てはる方やなあ」

 眼ぇがホンマに赤いなんて、びっくりやわ……と言う言葉は初対面で失礼かと思い、飲み込んで口にしなかったが、正覚しょうがくは驚きいぶかしく思っていた。

「色々複雑ないきさつがあるようです。美穂ちゃんから、またお聞きください」

 芳樹はともかくも、目的を果たす事を促した。話好きの正覚は、横道にそれるとおしゃべりが長いのだ。


 案内された辰狐王堂は、小さな方丈の建物だった。四畳半程度しか無さそうだ。普段は忘れられた状態らしい。


「辰狐王菩薩、はあ、菩薩さんなんですか」

 芳樹が問うと正覚は逆に尋ねた。

「創建当時ここの寺は密教系で、おたくの神社を境内に構える形だったみたいや。それは知ってはるやろ? 」

「いや、最初から禅宗やったんかと思ってましたわ」

「おやまあ、そうかいな」

「つまりは禅宗が成立する以前の時期の創建だと言う事ですか? 」

 金髪で外人面のマークからなかなかに鋭い指摘を受けて、正覚はまた驚いた。

「仰るとおりですねん。まだ禅宗の影も形も無い古い時期から建ってる言う事みたいです。もっと言うなら、密教が成立する以前で、寺も無い頃から此処には何がしかの御堂が有ったようですねん。ウチには古い記録は何も無いのやけど、大学の先生に教えてもらいましたんや」

「最初は何が祀られていたのでしょうか? 」

 マークは非常に気になるようだった。

「さあ? 廃仏毀釈で全部の記録がおかしな事になってしもうて、手がかりなしですわ」

 


 中学生四人もこのなじみの薄い菩薩さんを観察していた。


「中央は金色、左面は白色、右面は何色なんかなあ、剥げてる」

 美穂は保存状態に眼が行った。余り良好でもないかもしれない。おキツネ様の探し物の手がかりが朽ち果ててしまっていないか心配になって来たが、口にはしなかった。

「三面六臂って聞いたけれど、羽まで生えて、なかなかにぎやかだねえ」

 龍生は予想よりにぎやかなデザインに驚いていた。

「中央の金色の顔、象さんみたい」

 杏のコメントは少々幼稚くさいかもしれないが、それなりにポイントはついている。

「象と言ったらガネシャ、シバ神の息子で、日本の仏教だと聖天さんかな?」

 弘樹はなかなかに博識なようだ。


「なぜ此処にこの像が祀られているのですか? 」


 マークは正覚に核心に迫る質問をした。


「代々の口伝ですけどな、何や大変な祟り神さんが出て、それが天竺あたりのおキツネ様だったらしいんですわ。それをどこからとも無く現れた名も知らぬ強い神力の神様が封じてくれた言いますねん。この像は封じられた後、改心して守り神に変じた後の、元祟り神さんらしいですわ」

「ならば、なぜ、その名無しの神の方は祀らなかったのでしょう? 」

 芳樹は驚いてしまった。

「大仰な事は自分は好かん、それに自分は元来この地に有るべき神ではない。祟り神は尊んで祀ってやれば、やがて五穀は豊かに実り、子供らが健やかに育つようになる、そない言い置いて、この地を離れられたそうですねん」


 元が祟り神と聞いて、芳樹は先ほどの幼稚な反応が似つかわしく感じた。


「なあ、元来この地に有るべきではない神さんて……どこの神さんですやろ? 」

「さあなあ、せやけど奇妙な話やろ? どこからおいでになって、どこに行ってしまわれたものやら」

「異世界の神……かもしれませんな」


 呟くマークの顔を、芳樹と正覚ははっとして、思わず見つめるのだった。

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