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みっしょん、かもしれない・3

「おう、みんなお揃いで、おキツネ様の御用で来てくれたんか? 」

 芳樹が声をかけると四人の中学一年生は一斉に立ち上がって、息子の弘樹以外の三人は会釈した。先ほどまでうるさいほど帰宅を促していたおキツネ様の「声」と言うか「念」と言うかテレパシーと言うか、は、ぴったりと止んだ。早く身支度をして祝詞を上げろという事らしい。


「(今日は我のための祝詞の後に、龍のための祝詞をあげよ)」

「(龍神様の為の祝詞で宜しいのですか? 異界の龍の為の言葉では無いように思いますが)」

「(気の在り様、力の形が殆ど同じじゃ。日の本に降臨する全ての龍にとって心地良い言葉であれば構わぬ)」


 芳樹は念入りに身を清め清浄な装束をまとい、命じられたように稲荷への祝詞の次に龍のための祝詞を上げた。


高天原(たかまがはら)()()して(てん)()御働(みはたら)きを(あらわ)(たま)龍王(りゅうおう)は 大宇宙(だいうちゅう)根元(こんげん)御祖(みおや)御使(みつか)いにして一切(いっさい)()一切(いっさい)(そだ)て 萬物(ばんぶつ)御支配(ごしはい)あらせ(たま)王神(おおじん)なれば ()()()()()()()()()()十種(とくさ)御寶(みたから)(おの)がすがたと(へん)(たま)いて  自在(じざい)自由(じゆう)天界地界(てんかいちかい)人界(じんかい)(おさ)(たま)う ……



(かしこ)(かしこ)(もう)す」


 祝詞を上げ終わった途端に真後ろの空気が揺らめき、いきなり人らしき気配が濃くなった。中学生四人は板の間に正座しているはずだ。芳樹は恐る恐る後ろを顧みた。何と、すぐそこに人間が二人出現していた。

 手に履物を持った金髪碧眼の美丈夫と、杏に瓜二つの美少女は戸惑い顔で突っ立っていた。が、すぐに気を取り直したようで、芳樹に会釈するとこう切り出した。


「どうも、初めまして。異世界の龍の器をやっております。マークと言います」

 どう見てもヨーロッパ系の顔に完璧な日本語と言う取り合わせは、有り得ない訳ではないが印象的だ。

「妻のフェリシアです。私も龍の器です。あちらに履物を置いて参りますね」

 二人は当然のような顔をして中学生達の脇を通り、皆が置いている隣に履物を並べた。


「その、お二人は異世界の龍の『器』でいらっしゃるそうですが、龍を宿しておられるのですか? 龍神を称える祝詞にあわせてここにおいでになったと言う事は」

「二人で東京に居たのですが、何かに呼ばれたような気がしてここに参りました。我々の世界の龍は、金銀で一対でして、金のほうが私、銀のほうがフェリシアの内側に宿ると申しますか、依り代とすると言いますか、そうした状態なのです。金銀の龍は条件を満たした人間に寄生しないと生き延びれないそうです」

「東京から、ここまで? 瞬間的に移動ですか? 」

「ええ。まあ、そうした力が我々には有ります。今本拠地として暮らしている世界と地球の間も、瞬時に行き来できます」

「その特殊な能力は、生まれついてのものですか? 」

「夫婦で行き来できるようになったのは、つい最近の事です」 


 それにしてもフェリシアと言う少女は杏にそっくりだが、瞳が赤く、黒い髪にところどころ銀色が混じった不思議な色合いの髪をしている。眼と髪の色が、この少女が通常の地球の人類ではない事を示している。


「不思議ですなあ」

 芳樹は二人の少女が背格好も顔立ちもなぜこれ程似ているのか、疑問に思った。


「話せば長いことになりますが、ここに居る人皆さんに御承知おき頂いた方が、どうも宜しいようですね」

 

 マークの説明はにわかには信じがたく、理解しがたかった。まず驚いたのが杏の祖母である伊丹京子の魂が死の直後異世界に呼ばれ、異界の『女神の申し子』である少女の中に宿り、女神の力を増幅し、地球人としての魂から新たに純粋な『女神の申し子』によりふさわしい魂を練成して分割し、一旦は伊丹杏として転生を果たしたと言う事だ。


「普通に地球人の魂が異世界に転生した僕のような形ではなく、新たな魂を作り上げて本来の魂と分割した、などと言うのは、あの世界でも京子さんだけでしょう」


 相当に変則的な転生パターンで、芳樹も四人の中学生も驚いた。特に杏は自分がそのような存在であった事に、驚いたが、先日の屋上での遭遇の後であったから、意外なほど平静に話を聞けた。


「ですが、錬成度の高い強い魂が我々の今居る世界の龍の器には必要なのです。一方で地球の中でも日本は平和な国ですから、生まれたての魂を持った赤ん坊でも安全に庇護されて育つ事ができます。伊丹家の人々は善良ですし、幼い魂に良い影響を及ぼし育つと判断しました。そこで、僕が生まれたての赤子に宿る京子さんの魂を地球に迎えに行き、これまた京子さんと縁の深い幼い魂と入れ替えたのです。異世界に生じた『女神の申し子』の娘の肉体に嘗ての伊丹京子であった記憶を保つ魂を宿すのがこのフェリシアです。そして杏ちゃんは、伊丹京子の孫娘として地球上に生じた肉体に『女神の申し子の娘』の魂を宿しているのです」


「以上で、ご質問は? 」とマークが言ったので、杏は手を上げて質問した。この子には自分の問題でもあるのだ。


「女神の申し子、って女の人が居るんですか?」

「そう。居ます。大人になっていますが、杏ちゃんやフェリシアと顔が良く似ていて、黒い眼・黒い髪です。黒は僕らの今いる世界では女神を象徴する特別な色で、黒眼黒髪の人間は彼女以外いません」

「その人は、言わば私のもう一人のお母さんですよね。なんていう名前ですか? 」

「杏ちゃんの魂とフェリシアの肉体を生み出した人だから、杏ちゃんにとってもお母さんと言えるのかな。彼女の名前はロザリアと言います」


 ロザリアは、異世界に龍が飛来する以前から存在する女神の力を受け継ぐ『女神の申し子』なので、普通の人間には無い様々な特殊技能が有るらしい。


「お前らが神の如き気配を漂わせているのは、色々込み入った事情が有るのだな。お前らのおかげで、我もこうして共に語り合えるようになったぞ」


 おキツネさまは気がつくと、神棚の上に居た。大きさも小型犬程度で少女が抱きしめても具合がよさそうな大きさになっている。


「(それにしても異界の龍どもが一体全体、何の探し物なのかな? 我はそれを聞かせてもらいたいものだ)」


 杏は、ぎょっとした表情に変化した。芳樹の見るところ、今のおキツネ様の大きさの変化よりテレパシーを受け止めて驚いたのではなかろうか?と思われた。


「(杏ちゃんもテレパシーと言うか、この話し方できるようになったんかいな)」

「(どうやら、できます)」


 小さくなったおキツネ様は、尻尾をゆらゆらさせている。恐らく機嫌が良いのだと芳樹は感じた。



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