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みっしょん、かもしれない・2

「(美穂の婿は弘樹に確定らしいで。オッチャンに向かっておキツネ様がお前の小倅こせがれと、寺の小娘こむすめを娶わせよ、と言わはったからなあ)」

「(そんなあ。めちゃめちゃやわ)」

「(美穂は僕と結婚するの、イヤなん? )」

「(私ら中学生やで、そんな藪から棒に神様に言われても、途方に暮れるわ)」

「(美穂、とりあえず、イヤなんか、そうでもないんかだけ弘樹にはっきり言うてやれ)」

「(龍生君、私の気持ち、知ってるやろ? いけずやな)」

「(俺の気持ちは、杏一筋。誰がなんと言うても変わらんで)」



 杏は、あっけに取られていた。


 実は古墳だと言う中学の裏庭の丸い小山の前で、龍生と美穂と弘樹が難しい顔をして顔を見合わせたり、時折視線を外したりしてじっと黙り込んでいるのだ。無言なのに、何らかの暗黙の了解と言うか、そうした雰囲気がある。無言なのに意思の疎通が出来ている? あれは、一体何なのだろう?


「なに、あれ、何や深刻な、重苦しい感じで……傍によう行かんわ」


 バチン!


 驚く程大きな音が響いたと思ったら、目の前に巨大な白いキツネが居てじっと自分を見下ろしている。六畳間がこのキツネ一匹で埋まりそうなサイズだ。


「に、にゃン○先生! 」

「それはお前の好きな漫画のキャラクターだろう」

「ゆ、友人帳に出て来るような方なのかな~と思ったんですけど、何でここに? 」


 杏は、妖怪たちと友達付き合いしている男子高校生が主人公の、その少女マンガのファンだ。そこに出て来る主人公と行動を共にする『先生』と呼ばれる妖怪の姿と大きさが、このキツネと感じが似ている。


「我は一応『神』とされている。異界の神の眷属、お前こそ、ここで中学生をやっているのはなぜだ? 」

「何です? イカイノカミノケンゾクって」

「お前、自分が何者か覚えておらぬのか? ほう、面白い。龍の心願と分かちがたく結びついておるのか。異界の神は面白い事を考えるものだな」


 真っ白いふさふさの尻尾をゆっくり揺り動かしているのは、どうやら機嫌の良い証拠らしい。 


「お前、あの三人とは気心が知れた仲のようだ。杏よ、学校が終わったらあれらと共に我が下に来い」


 バチン!


 ふたたび大きな音がして、杏は思わずしりもちをついた。


「おい、杏、大丈夫か! 」 

「ああ、龍生……」

 気がつくと、杏は龍生に抱きかかえられていた。

「お前、素であのデカイおキツネ様と会話できるんか? 」

「あ、あの、龍生も見たの? あのデッカイ白狐さん」


 あの大きな白狐が龍生の夢に現れた事、弘樹の父親と弘樹の三人で聞いた「お告げ」の内容、そして今朝美穂と、美穂の祖父の夢に出てきた事、などなどを龍生はかいつまんで話してくれた。


「へえ、なに、あの裏山の前で三人はテレパシー使っていたって事? 」

「そうや」

「ほんでもって、神様の都合的には美穂ちゃんと弘樹君に結婚してもらわなくては困るん? 」

「寺と神社を一体化したいらしい」

「そんなん、横暴やわ」

「でもオッチャンは、やる気満々みたいや。何より弘樹は美穂が好きなんやし、おキツネ様も横暴で言うてるのと違う気がする」



 もふもふのおキツネ様に召集をかけられた杏、龍生、弘樹、美穂の四人は弘樹の父親である芳樹の帰りを、本殿の縁側に腰掛けて待っていた。四人の視線の先には、上空にふわふわ浮かんでいるおキツネ様の姿が有る。


「弘樹も美穂も見えるんやな、おキツネ様」

「龍生君は弘樹君より先に見えたんやね」

「それはそうなんやが、俺はおっちゃんの祝詞がないと、うまい事意思疎通ができん。それやのに杏は最初からおキツネ様と普通に会話してた」

「でも、あんたら三人みたいなテレパシーは使えんのよ、私は」


 つい先ほど、杏はおキツネ様と龍生たち三人の前で会話していた。

 三人には杏の「ええ、いやそうでしょうか? 」「はい」などという受け答えの声だけが聞こえて、おキツネ様の言葉はまったく感じ取れないようだった。


「弘樹君のお父さんが戻って来はったら、みんなにお話が有るんやて」

 

 おキツネ様の言葉を受けて、こうして四人そろって待つ間、左から順に弘樹・美穂・杏・龍生という具合に座っていて、弘樹と美穂は会話は交わさないがぴったり寄り添っている。気のせいか美穂の顔が赤らんでいるように見える。


「ねえ、ねえ、弘樹君と二人でテレパシーでなんか話してる? 」


 そう杏が聞いても、美穂は肯定も否定もしない。龍生は「知らん」と言うのみだ。微妙に自分だけが除け者になったような、ちょっと不愉快な気分になってきた。


「杏、お前だけが素でおキツネ様といきなり話ができる。これは一体何を意味するんかな? 」

「なんか知らんけど、私はイカイノカミノケンゾクって言うものらしいわ」

「イカイって、異なる世界、異界だろ? たぶん」

「ああ、そうなん。じゃあ、カミは神様? それでええかな? ケンゾクって何? 」

「神の眷属、眷属という言葉は、身内とか一族っていう意味もあるけど、子分とか家来という意味も有る」

「ふーん、神様の身内なら偉そうやけど、子分ならつまらんわあ」

「そうか? 俺は異界の龍の生まれ変わりなんやて」

「なあ、じゃあ、ひょっとして龍生と杏はおんなじ異世界から生まれ変わってきたんか? 」

 弘樹の指摘は鋭い、と杏は感じた。

「ああ、それ、そうなんやろうな……あのな……」


 龍生も弘樹の言葉に思うところがあったのだろう。つい先日、京子ばあちゃんの魂の持ち主とその旦那だと言う二人連れがいきなり屋上に現れた時の話を、かいつまんで弘樹と美穂にした。無論キスに関しては話をしなかったが……


「異界の龍の前世の心願ってなんやろうな……よほどの事のようやけど」

 龍生は空に浮かんでいるおキツネ様を見つめてつぶやいた。

「シンガンって何? 」

 杏はこの所、自分のボキャブラリーが相当に貧困だと意識させられている。特に古めかしい言葉には弱い。

「心からの願い、強い願いやな」

 弘樹も龍生も当たり前のように理解できるようだ。もうちょっと勉強しないと「アホ」と思われそうだ。


 杏は問題の本筋と関係の無いそんな事が、気になってならなかった。



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