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はじまりのはじまり・2

 気がつけば俺はいつもきょうの姿を視線で追って居る。

 俺達の付き合いは大阪府下のある町の保健所で、互いの母親が六ヶ月検診に俺と杏を連れて行ったことから始まっている。当時、杏の家族は祖父母が残した家に住んでいて、その家と俺の家族が住んでいた社宅は眼と鼻の先だった。


「保健所の待合室で順番を待っている間も、あんた達、互いをじっと見てたのよ」

「それがきっかけで、私たちお互いに話をし始めて、近所に住んでいるって分かって」

「互いの旦那が同じ大学の出身で職場も同じだってわかって」

「共通点が多くて、びっくりしたのよ」


 どちらの家族も転勤が多かったが、どう言うわけか社宅内で割り当てられる住まいがすぐ隣か真上、真下と言う事の連続で、九州・中国・四国・中部・関東どこでもご近所さんで、下手な親戚よりもよほど親密な関係を続けてきた。幼稚園や学校の休みで父親が居ない日の昼食は、大抵いつも一緒だった。夏休みなどは社宅の他の仲良しを巻き込んで、昼食は常にホームパーティー状態だった。


「社宅って狭いけれど、仲良しが居ると楽しいわよね」

「ご近所トラブルで大変なんて話も聞くけれど、私たちはラッキーだわ」


 母親同士も不思議なほど馬が合うらしい。互いの母親同士が「親兄弟よりも先に心配事の相談をする相手」「実の姉妹より近い関係」と言っている。そんな母親達は、どうやら俺と杏がくっついてしまえば良いと昔から考えていたようで「杏ちゃんを大事に思うなら、中学生としての節度は弁えなさいよ」「二人が結婚してくれたら嬉しいとは思っているから、皆に祝福して貰えるように、軽はずみな事はしないでね」などと言う。


 屋上で互いの気持ちを告白し合って、互いにとってのファーストキスを交わした訳だが、実はここから先がまだまだ長いのだと俺は感じていた。


「キスどまりで、高校卒業までは我慢しなくちゃいけないんだろうな 」

「いやだぁ、龍生、エッチしたいの? 」

「そりゃあ、したいけれど、杏が大事だから我慢するよ。だから、杏も用心しろよ」

「用心って? 」

「お前を狙ってる男どもに、油断するなよ。自分は婚約者が居るってはっきり言っておけ」

「これって、婚約なの? 」

「俺としては婚約のキスのつもり。御了承頂けましたか」

「了承いたしました」

  

 更にもう一度、キスをしようかと思った瞬間、異様な人物に気がついたのだった。


 杏と瓜二つの顔なのに、眼が赤い女の子が空中に浮いている。浮いている? 眼が赤い? 通常の地球の人類ならば有りえない。続けて姿を現した背の高い金髪で緑の眼の男が、その女の子の腰を抱きかかえている。この子は自分の物だって言う、激しい自己主張にも見える。 


 空中から現れた二人の言葉によれば、女の子はフェリシアと言い、その魂が杏のお祖母ちゃんの京子さんのものなのだと言う。しかも杏とは肉体と魂を交換してるのだそうな。って、それ……


「そうなの。杏ちゃんはもともと、今ダーリンと私が暮らしている世界で生まれた子だったの」


 そうそう、そのダーリン、名前はマークと言うらしい。俺の魂は、このマークって男の弟にあたる人間のものなんだそうだ。その「弟にあたる」って言う言い方に、何か引っかかりを俺は強く感じたんだが、その勘は正しかった事が、随分と後になって明らかになるのだったが、この時は何がなにやらチンプンカンプンだった。


「(龍生君、君は前世の記憶は丸で無いのか? )」

 な、なんだなんだ? これは?

「(一種のテレパシーだ。君はそれなりに霊的な力の強かった人物の生まれ変わりだから、僕やフェリシアのこうした話しかけが理解できるんだな)」

「(その力って、杏には無いのか? )」

「(どうも目覚めてはいないようだ。杏ちゃんの魂はまっさらで穢れが無い。だが、未熟でもある。大きな可能性は感じられるけれどな)」

 お? 俺、テレパシー使ってる? 

「(使ってるな。とても初めてとは思えないスムーズさだ)」

「(で、こんな形で話しかけるって、杏には内緒の何事かが有るのか? )」

「(さすがだ。察しが良いぞ)」


 金髪男は妻だと言う抱え込んだ赤い眼の少女に、キスを繰り返しながら、一瞬鋭い視線を俺に向けた。何と言うか裏表の多そうな、油断のならないおっさんだ。腰つきはエロいし、無駄にイケメンで気に入らない。


「(気に入らなくても、色々と因縁が有ってね。それに、僕とフェリシアは君の恋路をがっちりサポートする事に決めたんだから、そんなに睨むなよ)」

「(がっちりサポート? 変な手出しは無用にしてくれ)」

「(何、危険人物の接近を未然に排除する、双方の意思疎通を円滑にする、その程度だよ)」

「(肝心な部分は、あくまで龍生君と杏ちゃんの意思を最大限尊重するから、心配しないで)」

「(なあ、あんたは本当に杏のばあちゃんだったのか?)」

「(ええ、私の魂は伊丹京子であったものよ。まあ、その後色々有りすぎたけれど)」

 こいつら、チュッチュッチュと色ボケ馬鹿ップルを装いながら、あれこれはかりごとを巡らせるなんて、おっそろしい連中だな。

「(そうだな、龍生君、君のお見立ては正しいかもな。君、前世より魂がバージョンアップしてるよ)」

「(結構色々と妨害を試みる人間が出てくるとは思うけれど、頑張ってね。杏は私の孫なんだからちゃんと幸せにしてやってよ。そうじゃないと祟るわよ)」

 

 大丈夫さ。俺は、絶対に杏を幸せにするために全力を尽くすよ。


 そう思った瞬間、怪しい二人の姿は消えていた。

龍生の自称は基本的に「俺」です。一箇所訂正しました。すみません

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