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えらいこっちゃ・4

「なあ、芳樹、桜丸山古墳は色々とけったいなんや」

「どう、何がけったいなん?」

「あの古墳の玄室の格好が奇妙と言うか珍しいんや。日本の古墳では唯一とちがうかな?」

「それからほかに?」

「あの中から出てきた瓶や壷のかけらやけど、北は青森辺りから、南は九州南部までのものが含まれている。特に量が多いのが吉備と尾張と越のものだが……それに、あの年代の剣と、古すぎる特殊器台がちぐはぐなんや。で、鏡が本物の中国製で超高級品や。鏡が副葬品に含まれない方が普通の年代に、あないに凝った細工の物が副葬されてるのもなあ……」


 一般的に古墳の副葬品の鏡は日本製のものが多いそうで、中でも特に三角縁神獣鏡と言う型式のものが多いらしい。時代が下って五世紀ごろの巨大古墳の時代になると中国大陸製の画文帯神獣鏡の比率が高いという。


「この鏡は一応、双龍文鏡と言うカテゴリーで考えるんやけど……デザインがホンマに珍しい。割れたかけらから推測される模様の龍の絡み方が、ギリシャ神話のケーリュケイオンそっくり、ケーリュケイオンやで。その時期の中国製の鏡では、まずありえんデザインやな。しかも画像分析して、偶然見つけたんやが、二匹の龍はそれぞれ金と銀で象嵌されていたようなんや。それがホンマならこれまた奇妙やでぇ……」

 

 芳樹は母校の大学で考古学の教授をやっている人物の研究室で、いろいろ話を聞いた。概ね知りたいことは知り得たような気がする。考古学的なことはピンと来なかったが、古墳の墓室が鎌倉期に盗掘を受けるまでは、中国風のレンガで作ったなかなかにしっかりした物であった事。日本の古墳と言うより、小アジアから中央アジア方面の墓を連想させる構造であったらしい事、被葬者は副葬品のかけらから察するに九州から東北までの広い地域と何がしかの重要な結びつきを持っている特殊な位置にいた人物であったらしい事、などは理解できた。


 元々は三面六臂さんめんろっぴ辰狐王しんこおうの像と芳樹の所の神社と隣の寺に関する古文書についての意見なり見解なりを聞かせて欲しいと研究室まで押しかけたのだが「僕は文献史学は専門とちゃうねん。通り一遍の事しかわからんわ」とか、「古文書や神道・仏教がらみなら芳樹自身が考えた方が話が早いんと違うか?」と言われ、「大学博物館収蔵に伴って問題の古文書を全文読み取れるように撮影した画像」の入ったフロッピーディスクを渡された。芳樹は家伝の古文書を大学博物館に預けている。古文書の安全管理と、学問の世界で何がしかの役に立てば家に死蔵しているより有意義だと考えての事だった。


「芳樹は霊感も有るやんか」

「まあな」

「そういうものは、学会では口にしただけで爪弾きやけど、芳樹のは本物やと思うで」

 この教授となった同級生自身も以前、悪霊の魔の手から救われた事が有り、芳樹の特殊能力の確かさを認識していたのだ。

 

 考古学的な事なら、全面的に協力すると言う約束を取り付け、芳樹は大学を出た。


「二匹の龍の、それも金銀の龍の姿が刻まれた鏡かいな…… 金銀の龍って……まさか……にしてもなんで、ギリシャ神話のケーリュケイオンの格好に絡まってんねん……」


 芳樹はぶつぶつ独り言を口走りながら、大学のキャンパスを突っ切って、正門に向かっていた、とそこへ、急に肩をたたいた人物がいた。


「芳樹さん、桜丸山古墳について、興味深いことが分かったようですね」

「おおっ、びっくりした……マークさんかいな」


 目の前に「異世界の龍の器」だと名乗ったマークがにこやかな表情で立っていた。

「ケーリュケイオンがどうしたのです?……なるほど」

 どうやら、すぐに思考を読み取られたらしい。これでは隠し事なんぞ出来はしない、と芳樹は思った。

「思考をブロックする方法も有るのですよ。すみません。芳樹さんはまっすぐな方で、とても思考が読みやすいので、つい、と言いますか、読まないようにする方が難しかったりします」

 マークは、少しすまなさそうな顔つきになった。

「ケーリュケイオンと言えば、これをご覧ください」

 いきなり、何も無いように見える虚空から、大ぶりの剣、それも西洋風の剣を掴み取って、芳樹に見せた。

「この鞘の模様なのですが、僕が知る限りつい最近浮き出てきたのです」

「まさに……」

 金と銀の龍が、ケーリュケイオンの二匹の蛇と同じ形で絡み合っている。

「これは僕が今皇帝をやっている世界の宝剣です」

「不思議な強い波動が感じられますね」

「こいつは自分で空を飛んで移動するのです。そして持ち主を強い力で守護するとされています」

 鞘の模様を芳樹が確認し、マークに剣を返すと、マークは一瞬でどこかに剣を隠した、あるいはしまったようだった。

「あちらの世界なら、帯剣していても自然なのですが、日本では銃刀法違反だとか言われちゃいますからね」

「地球に居る間も、さっきの様に必要とあればいつでも手になさることができるのですね」

「そうなんです。妻もこれと対だとされる剣を持っています。そして妻の剣の鞘にも同じ模様が出てきました」


 マークの剣も、フェリシアの剣も、同じ模様が出て来たと言うのだ。 


「ケーリュケイオン、と言う事は、日本から見てうんと西の方と何か関係が有るんでしょうかねえ」

「僕が今いる世界の開祖皇帝は地球人で、恐らくは日本よりうんと西の地域の出身だったと僕は推測しています。先ほどの剣はもともとは、開祖皇帝の愛剣だったらしいのです。不老不死で、自分一人の体に金銀二匹の龍を受け入れることができたと言いますが、結局何がどうなったものやら、行方が知れません。記録も無いのです」

「マークさんは……桜丸山古墳が、何かその開祖さんに関係してるとお考えなんですか?」

「ええ。そう考えるのが自然な気がします」


 マークは宮龍生の力を借りて、桜丸山古墳の奇妙な波動について探りを入れた話をした。


「ほお……龍生君の波動が、あの場所の奇妙な波動と馴染み、互いに増幅したのですか」

「ええ。龍生君の波動は、あの場所に受け入れられたと感じました。あの時僕と龍生君が見た血みどろの惨劇を引き起こしたのは、かつての祟り神、つまり今のおキツネ様ではないかと感じたのですが、あの血みどろの惨劇を押しとどめた強い波動は……強いて言うなら……僕自身の波動に似ています」

「つまり、マークさんは、あの古墳の被葬者が開祖皇帝自身か、生まれ変わりか、そんなものではないかと考えられたんですか?」

「そうですね、そこまではっきり断定できませんが、少なくとも魂の波動が似ているのは確実ですから」


 芳樹には、このマークと名乗る神出鬼没の謎の人物の言う事が真実を突いている……と感じられたのだった。

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