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実験台No.42(Mk.I) ~エレベーターガールがエレベーターガールの格好をしているように見えない~

作者: 栗野庫舞
掲載日:2026/11/05

エレベーターガールの人数は、全盛期から激減したと言われています。侵略者ロシアを擁護する人間が激減または絶滅すればいいのに。

「……えっ?」


 職場がある高層ビルの1階でエレベーターに乗り込んだ時、あなたはとんでもない光景に目を疑った。


 若い女性が、白い下着姿で立っている。


「どうかされましたか? お客様」


「あ、いえ……別になんでもないです」


 青年社会人のあなたは平静を装(よそお)って答えた。


 女性のほうは、自らの姿を一切不審に思っていないらしい。


「では、何階をご利用でしょうか?」


「……あっ、42階でお願いします」


「承知いたしました。ドアが閉まります、ご注意下さいませ」


 両開きのドアが閉まって密室になったエレベーターが、上昇を開始する。


 白い下着姿の女性は操作盤のほうを向いたまま、じっと立っている。応対した様子から、彼女は間違いなくこのビルのエレベーターガールなのだろう。


 それならどうして、半裸でいるのだろうか?


 彼女の背中では、長くて細い三つ編みの黒髪が一本、垂れている。その部分以外は、白いブラジャーの後ろ側が見える。お尻を覆っている白いショーツは丸見え状態だった。体つきはやせ型ではあるものの、太ももがそれなりに太くて素晴らしい。


 なお、彼女は制服を着ていないのに、黒い帽子、白い手袋、黒い靴下、茶色い靴は、しっかりと身に着けている。


 そんな不自然な彼女を見ているあなたは、昨日が初出勤だった。


 その際、この女性とは別のエレベーターガールを目撃しており、彼女達が職務中に青い制服を着ることを知っている。その制服を彼女が着ていないというのが、あまりにも不可解だった。


 このエレベーターガールの大胆な姿を見ると、確かに興奮はしてしまう。けれども、こちらまで恥ずかしくなってしまう気持ちのほうが強いかもしれない。


 あなたはずっと、彼女に言おうか迷う。


 ついには黙っているのが耐えられなくなり、あなたは声を掛けることにした。


「……あの、なんで服を着ていないんですか?」


「えっ? 私、ちゃんと制服を着ていると思うのですが……。ほら……」


 あなたのほうを向いた彼女は、左手を横に伸ばした。胸部に目が行ってしまいそうなのを我慢し、彼女が袖(そで)の下を右手で掴(つか)むようなしぐさを見る。


 しかし、制服自体があなたの目に映っていないため、単に下着姿の女性が動いているだけにしか見えない。彼女が着ているという確証を得られなかった。


「すいません、本当に服が見えないんです……」


 あなたは正直に伝える。


「それなら、私はどんなふうに見えて――」


 ようやく彼女は気づいたようで、彼女がとっさに両手で胸部を隠した。


「もしかして私が裸に見えているのですかっ?」


 警戒した表情が向けられる。


「いや、裸ではなく……白い下着だけの姿で……」


「白……。上下ともに、ということも、分かりますか?」


 着(つ)けている彼女本人の問いに、あなたは頷(うなず)いて答えた。


 エレベーターガールの白い下着は、質素なものだった。上は両手で隠されたままなので、よく見えない。下は、小さなリボンがついているぐらいで、繊細なレースのような装飾は備わっていない。


 彼女の体は十代後半か二十代前半ぐらいに見えるものの、下着や顔はもっと幼く感じられる。


 童顔のエレベーターガールが困惑する中、あなたの職場がある42階に到着し、エレベーターが止まった。


 両開きのドアが自動で開く。


「42階に到着いたしました。いってらっしゃいませ、お客様」


 きちんと仕事をする彼女に申しわけない気持ちを抱きながらも、あなたはエレベーターを降りた。


 少し進んで、振り向く。エレベーターの中で丁重にお辞儀していた彼女は、やはり白い下着姿だった。


   □


「おはようございます、お客様」


 翌日の出勤時に会ったエレベーターガールも、昨日と同じだった。


「おはようございます」


 あなたは昨日同様、彼女の半裸状態を目にしても動じないよう努める。


「本日も42階でよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


 あなたが頼むとエレベーターのドアが閉められ、上昇が始まった。


「……お客様。本日の私の下着は、分かりますか?」


 あなたに正面を見せる彼女は、下着と一部の衣装だけ身に着けている。


「黒ですよね?」


 あなたは即答出来た。白い肌とは対照的な黒い下着を見間違えるはずがない。


「……正解です」


 黒髪の彼女の頬は、赤かった。


「お客様には念のため、ご質問をさせて頂きます。昨日、白で合っていたから今日は黒だと、適当におっしゃっているのではなく、本当に黒い下着が見えているのですか?」


「はい。なんでなのかは分からないんですが……」


「お客様にはお手数ですが、私がどのような黒の下着を着けているのか、ご説明をして頂いてもよろしいでしょうか?」


「……分かりました。そこに、白いリボンがついていて、こっちとこっちには、白い線が入っています」


 あなたは本当だと彼女に証明するため、間近でブラを指差しつつ説明した。ぴったりと言い当てるあなたに、彼女は驚いていた。


「本当に見えているようですね……」


「すいません、ちょっと確認したいことがあるので、腕を触ってもいいですか?」


 あなたは彼女に頼んだ。


「はい、構いませんが……」


 彼女が出してくれた右腕を、あなたは実際に触れてみた。


 素肌の腕にしか見えないのに、制服と思われる生地の感触がある。とても不思議な気分だった。


「やっぱり、俺には下着姿に見えるんですけど、服が見えないだけのようです」


「どうしてなのでしょう……。あっ、あんまり見ないでほしいです……」


 彼女は下着姿を意識して恥ずかしがった。


 あなたとしては、目を逸(そ)らさないといけないのが残念だった。大人っぽい中にもかわいらしさがある黒い下着から。


 確かに彼女は、制服を着ている。


 しかし、その制服が透けていて、目にすることが出来ないのだと、あなたは結論づけた。


 彼女の制服が見えない理由が分からないまま、エレベーターが42階に到着する。


「いってらっしゃいませ、お客様」


 恥ずかしそうな様子の彼女は昨日同様、丁寧に仕事をやり遂(と)げた。


   □


 次に彼女と会ったのは、三日後だった。


「あっ、お久し振りでございます……ではなく、おはようございます。お客様」


「おはようございます」


 あいさつを返したあなたは、担当が彼女で内心嬉しい。下着姿が見られるという理由だけではないけれど、今日の彼女のそれは白だった。


「本日も42階でよろしいしょうか?」


「はい」


 ドアを閉じたエレベーターは密室となり、上昇を始める。


「……お客様。あの黒の日の後は……オレンジ色だったのですが、お見せ出来なくて残念でした……。あっ、見せたかったということでは決してなく、お客様でしたら、言い当てて楽しめるかと思っただけで……見られるのはやっぱり恥ずかしいので……。ということで、本日も、やはり分かってしまいますか?」


「はい。白ですよね?」


「正解です……っ。今日もお客様とはお会いしないかと思い、特に気にしないで、白にしてしまいました。地味なものですみません……っ」


「地味でもかわいいですよ」


 あなたがつい口にしてしまうと、彼女はますます恥ずかしくなったようで、黙り込んでしまう。


「……42階に到着いたしました。本日もいってらっしゃいませ、お客様」


 恥じらいはあっても仕事は丁重におこなう、かわいいエレベーターガール。


 あなたは今日も彼女に見送られる。


   □


 それからも、あなたは下着姿に見える三つ編み童顔エレベーターガールと、エレベーター内で一緒になった。


 連日彼女に会える日は幸運だと思ったし、制服を着た他のエレベーターガールの時は残念だと思うようになった。


 彼女よりも美人のエレベーターガールより、親しく思っている彼女のほうがいい。つらい仕事への出勤前ぐらいは、癒される彼女と一緒にいたい。


 彼女の下着は、白の揃(そろ)いが最も多く、時には薄いピンクや薄い青、薄い緑の縞々(しましま)もあったりして、楽しさも感じてしまう。容姿よりかは大人っぽい黒は、あの後、もう一回あっただけだった。


   □


 ある日、変化が起きた。


 いつものように彼女とエレベーター内で会い、彼女の下着を言い当てる流れになった。


「上は白一色で、下の紺色は、横に細い線が二本入ってますね」


 あなたの説明を聞いた彼女が、途端に嬉しそうな顔を浮かべる。


「お客様、朗報がございます。私は今日、下にブルマを重ね着して来たのですが、ブルマなら透けないようですね」


 どうやら、あなたに見えていたのは下着ではなかったらしい。


「学生時代のブルマならどうなるかを試したお陰で、すごい収穫になりました。これでもう、恥ずかしい思いをしないで済みます。お客様にとっては、残念だったかもしれませんが」


 少々いたずらっぽい微笑みをされた。


 以後、彼女は紺色のブルマを常に身に着けるようになる。


   □


 ブルマによって下半身の防御対策をするようになった彼女は、上の対策も始めた。


 体操着の白い半袖を着ていたらしい日は、あなたには体操着を目視出来ずにブラが丸見えで、白い肌着を着ていた日はブラが隠された。


 つまり、半袖は透けて、肌着は透けない。


 体操着の半袖が透けるのに、同じく体操着のブルマは透けていない。透ける基準が、あなたにはいまいち分からなかった。


 ともあれ、彼女はあなたに一切見えない制服の下に、常に白い肌着と紺色のブルマを着用するようになった。


 彼女は、もうあなたに下着を晒(さら)すことはなくなったと思い込んでいるようで、調子に乗っている。


「お客様ぁ、今日も私、下に着ているので防御は完璧です。残念でした~」


 上から目線の表情で、彼女は大胆に正面を見せた。あなたが下着を見られなくてかわいそう、とでも思っている雰囲気がある。


 しかし、あなたは今の状況でさえ、幸せに思っている。


 彼女は下着を見られないと安心し切っているけれども、実際には全然安心出来ない要素があった。


 まず、紺色ブルマが見られる。あなたとしては、ブルマでもじゅうぶんに嬉しい。


 さらには、ブルマから白い下着がはみ出ている。いわゆるハミパン状態だった。


 それに、白い肌着自体も、肩紐部分が太めのタンクトップ形状で、胸元に小さい白リボンがついているため、実質的にはブラと大差ない。


 袖のない白い肌着の隙間から、白いブラの側面が見える。


 だから結局、あなたは彼女の姿に興奮する。


 白い肌着の裾はブルマの内側に入れられていて、紺色ブルマの存在が目立つ。肩も太ももも晒(さら)されている。


 制服を脱いだ女子学生が、身体測定を受けているような格好。


 そんなエレベーターガールと会う時には、奇妙なことが多い。


 三つ編みの彼女が半裸な姿に見えるのはもちろん、エレベーターの上昇時間がまちまちだったり、時にはやたら長くなっていたりもする。


 今まで他の人が一緒に乗り込んだことはないし、途中の階で止まることもなかった。


 それらのことが気になりつつも、やっぱり一番気になるのは、彼女のことになる。


 あなたは彼女に恋していた。


「いつもご利用ありがとうございます。いってらっしゃいませ、お客様!」


 彼女に見送られながら、あなたは二人っきりだった空間を出て、42階の職場に向かう。通勤で最も好きな時間の終了を残念に思いつつ。


                    (終わり)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。


2026年11月時点の情報によると、今のラノベは、1冊1000円もするそうです。無料で、しかも本作と同じような変な内容の短編作品が、他にも色々あります。『栗野庫舞』で検索して、気になるタイトルを発見出来たら、ぜひお読み下さい。

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