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第13話「......」

 朝の静寂を破るように、窓から差し込む陽の光が部屋を照らす。

 寮の部屋に設置された振り子時計の針が、一定のリズムで音を刻んでいた。


 レイヴンはゆっくりと目を開ける。

 転生してから迎える、学院生活の最初の朝。


(……今日から授業か)


 深く息を吐き、ベッドから起き上がると、向かいのベッドでガルハートが既に身支度を整えていた。


「お、ようやく起きたか!」


 爽やかな笑みを浮かべ、ガルハートは屈伸運動をしながら気楽そうに言う。


「もうすぐ朝飯の時間だぜ。貴族寮の食堂の飯はうまいらしいからな、さっさと行こうぜ!」


 レイヴンは無言で軽く頷くと、制服に着替え、ガルハートと共に寮の廊下へと向かった。


 貴族寮の食堂は広く、煌びやかな装飾が施されていた。

 朝の時間とあって、すでに多くの生徒が着席し、豪華な朝食を楽しんでいる。


 レイヴンとガルハートが席につくと、給仕のメイドがパンとスープ、ハムやチーズなどを運んできた。

 その中で、一人のメイドが彼らに近づいてきた。


「レイヴン様、おはようございます」


 メイドのアルナ・フィンレイだった。

 彼女は微笑みながら、レイヴンの前に紅茶を置く。


「今朝はよく眠れましたか?」


 レイヴンは軽く頷く。

 アルナは安心したように微笑み、隣のガルハートへと視線を向けた。


「初めまして、私はレイヴン様の身の回りのお世話をさせていただいている、アルナ・フィンレイと申します」


 彼女が丁寧に一礼すると、ガルハートは驚いたように瞬きをした。


「ああ、よろしくな! 俺はガルハート・アーデルバルトだ」


 ガルハートは気さくに笑いながら、軽く手を挙げた。


「アーデルバルト様ですね。お見知りおきくださいませ」


 アルナは優雅に一礼したあと、ふとガルハートに尋ねる。


「ところで、アーデルバルト様にはお付きの方はいらっしゃらないのですか?」


 貴族の生徒は基本的に専属の執事やメイドを伴っていることが多い。

 しかし、ガルハートにはその姿が見当たらない。


「ああ、うちは基本的に自由なんだよ。特に学園ではな!」


 ガルハートはパンを頬張りながら笑う。


「俺は身の回りのことは自分でやる主義だからな。貴族っぽくねぇって言われるけど、それが性に合ってるんだよ」


 アルナは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。


「なるほど……貴族の方でも、そういうお考えの方がいらっしゃるのですね」


 レイヴンはその会話を聞きながら、静かに紅茶を口にした。

 その間も、周囲の貴族たちの視線を感じていた。


(……やっぱり目立つな)


 ちらちらとこちらを見ながら、小声で囁く貴族の生徒たち。

 その中には、昨晩絡んできた貴族の姿もあった。


 レイヴンは気にする素振りを見せず、静かに食事を続ける。

 だが、向かいのガルハートは少し気にしている様子だった。


「なあ、お前、なんか噂されてねぇか?」


 レイヴンは小さく肩をすくめる。


(今に始まったことじゃない)


 彼の態度から察したのか、ガルハートは深く追及することはなかった。

 それ以上の会話はなく、二人は食事を終えて立ち上がった。



 朝食を終えた生徒たちは、それぞれ校舎へと向かっていた。

 貴族寮から学院の正門までは短い道のりだが、そこにはすでに多くの貴族生徒たちが歩いていた。


「おい、あれがクロイツァー家の……」


「聞いたことがあるわ。無口で何を考えているのかわからないって」


 すれ違いざまに、小声で囁く声が耳に届く。

 レイヴンは気にせず歩き続けた。


「お前、結構有名人なんだな」


 ガルハートが隣で苦笑する。


 レイヴンは再び肩をすくめた。


(どうせ、何を言われても関係ない)


 そうして、校舎の前に到着する。

 壮麗な学院の建物がそびえ立ち、石造りのアーチが正門を飾っていた。


 学院の正門をくぐると、広場には多くの生徒が集まり、中央の掲示板に視線を向けていた。

 掲示板には、大きく「新入生クラス分け」と記された紙が貼り出されている。


(……へえ、クラス分けっていう制度があるんだな)


 レイヴンはその光景を眺めながら、内心で納得する。

 日本の学園モノのゲームだからこそ、こういった形式的なイベントも組み込まれているのだろう。

 貴族社会の学院でも、こうしたシステムがあるのは興味深い。


 掲示板に近づいたガルハートが、すぐに自分の名前を見つけたようだ。


「お、俺は……っと、レイヴン! お前と同じクラスだな!」


 その言葉に、レイヴンも静かに掲示板を確認する。


【Bクラス】

...

・ガルハート・アーデルバルト

...

・リリア・アシュフォード

・ルシア・ヴェルディナ

・レイヴン・クロイツァー

・レオン・アシュフォード

...


(……なるほど)


 ゲームでも、主人公(レオンorリリア)は優秀な平民枠として貴族と同じクラスになることがあった。

 その設定が、この世界でも再現されているのかもしれない。


 掲示板を見つめていたルシアが、レイヴンの隣で軽くため息をついた。


「あなたと同じクラスみたいね」


 彼女の口調は落ち着いていたが、表情には微かな複雑さが滲んでいる。

 レイヴンは軽く頷くだけで、特に反応を示さなかった。


 一方、アシュフォード兄妹――レオンとリリアもクラス分けを確認していた。

 リリアが兄の袖を軽く引きながら、少し嬉しそうに声を上げる。


「ねえ、兄さん、私たち、あの方たちと同じクラスだよ!」


「……そうみたいだな」


 レオンは掲示板の名前をじっと見つめたまま、慎重に言葉を選ぶように呟く。


「レイヴン様……昨日の戦闘を見る限り、相当な実力者だ。ただ、人となりまではまだわからないな」


「ほとんど話できなかったもんね」


「貴族だから、そういうものなのかもしれないな」


「うーん……でも、何となく違う気がするんだよねぇ」


 リリアは考え込むように小さく首を傾げた。

 レオンは静かにレイヴンの方を一瞥し、その後、ふっと表情を緩める。


「……とにかく、同じクラスなら、これから何度も顔を合わせることになる。しっかり学ばせてもらおう」



 広場のクラス分け発表を確認した生徒たちは、それぞれの教室へ向かい始める。

 Aクラスの教室は、校舎の中央付近にあった。


 ルシアとガルハートは先に歩き出し、レイヴンもその後に続いた。


「アーデルバルト様」


 不意にルシアが振り返り、ガルハートに声をかけた。


「ヴェルディナ家のルシアです。同じクラスになりましたし、改めてよろしくお願いいたします」


 貴族らしい礼儀正しい挨拶だった。

 ガルハートは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに破顔する。


「おおっ、よろしく頼むぜ! いやぁ、貴族ってちゃんとこういう挨拶するんだな」


「当たり前のことですわ」


 ルシアは落ち着いた表情でそう言ったが、次の瞬間、ガルハートの視線がレイヴンへと向いた。


「ところで、レイヴンとヴェルディナ嬢って、どういう関係なんだ?」


 何気ない問いだったが、リリアが思わず目を丸くする。


「確かにそれ気になってました!」


 レオンも、興味深げにレイヴンの方を見た。


 だが、レイヴンは何も言わない。

 それを見て、ルシアが淡々と答えた。


「彼とは婚約関係にあります」


 その言葉に、リリアが驚いたように声を上げた。


「ええっ!? 婚約者なんですか!?」


 レオンも少し驚いた表情を浮かべる。


「そうだったんですね……いや、貴族の婚約事情ってよくわからないですが」


 ルシアはあまり気にした様子もなく、淡々と答えた。


「家同士の取り決めよ。貴族の婚約なんて、政略的なものがほとんどだわ」


 彼女の口調はどこか割り切ったようだった。

 しかし、その横でガルハートは興味深そうに頷いていた。


「なるほどなー。でも、そういうのって本人の気持ちとか関係あるのか?」


「……場合によるでしょうね」


 ルシアはそれ以上は言わず、前を向いた。


 リリアは何か言いたげだったが、結局それ以上の質問はせずに歩き続けた。


 そうして彼らは教室へと向かい、それぞれの席についた。

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