表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

幕間「ヴァルターの陰謀」

 淡い紫の灯火が揺れる静寂の広間。

 漆黒の石壁に囲まれた空間には、無数の魔法陣が淡く輝き、宙に浮かぶ水晶がかすかに脈動していた。


 その中心に立つのは、黒衣の男 ヴァルター 。

 魔王軍の幹部であり、知略を司る彼の前には、王都周辺の地図が魔力によって映し出されていた。


 その隣で、杖を携えた魔道士 エルファリア が静かに目を伏せ、魔力の痕跡を探るように手を翳している。


「……予定よりも早かったですね」


 彼女の声は冷静だが、わずかに意外そうな響きを帯びていた。

 ヴァルターは顎に手を当てながら、ゆっくりと目を細める。


「……ああ。暴食の魔狼は、もっと暴れられるはずだったが、王都に近づく前に討たれた」


「人間側の対応が早かった、ということでしょうか?」


 ヴァルターは静かに手を翳し、水晶に魔力を流し込む。

 すると、王都へ続く街道の一部が光を放ち、先日の魔狼襲撃が起きた地点が浮かび上がった。


「この距離であれば、討伐に動いたのは王都へ向かう貴族か、あるいは騎士団の者か……」


「通常の戦力であれば、あの魔狼を相手に苦戦するはず。それを短時間で仕留めたというのなら……」


 エルファリアはゆっくりと杖を下ろし、思案するように呟いた。


「……いずれにせよ、人間たちは警戒を強めるでしょう」


 ヴァルターは、微かに口元を歪める。


「王国は待ちの姿勢を崩していない。だが、既に防衛の強化は始まっているようだ」


「ええ、王都へ向かう街道の監視も厳しくなっています。魔狼の件で、貴族や騎士団もより慎重になっているのでしょう」


 エルファリアは、冷静に状況を整理した。


「……とはいえ、彼らはまだ明確にこちらの動きを察知してはいません。単なる偶発的な魔物の襲撃と考えている可能性が高い」


「だろうな。だが、これで少しばかり動きが制限される」


 ヴァルターは静かに地図を見つめながら、考えを巡らせる。


「予定よりも早く魔狼が討たれたことで、計画に多少の調整が必要だな。とはいえ、まだ戦の幕は開いていない」


 淡い灯火が彼の赤い瞳を照らし、妖しく輝いた。


「……しばらくは、静観といこう」


 エルファリアは黙って頷いた。


 広間を満たす沈黙の中で、揺れる紫の灯火が、戦の予兆を静かに映し出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ