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第9話「......」

 王都の城門が近づくにつれ、馬車の周囲は次第に賑やかさを増していった。

 商人の掛け声、街路を行き交う人々の談笑、馬のひづめが石畳を叩く音――。


 王国の中心地にふさわしく、活気に満ちた空間が広がっていた。


 馬車の窓から外を眺めていたレオンとリリアは、その壮大な景色に息をのんだ。


「……すっごい!」


 リリアが思わず声を上げる。


 これまでに訪れたどんな町とも違う。

 建物はすべて整然と並び、石造りの立派な屋敷が立ち並んでいる。

 通りには貴族らしき人物が馬車で行き交い、従者を連れた上品な服装の人々が歩いている。


「これが……王都か」


 レオンも感嘆の声を漏らす。


 貴族の屋敷が立ち並ぶこの区域は、まさに彼らが住む世界そのもの。

 レオンとリリアのような平民が、こんな場所を堂々と歩く機会はまずなかった。


 それだけに、圧倒されるような感覚があった。


「すごいね、兄さん。こんなに立派な街並み、見たことないよ」


「ああ……正直、場違いな感じがするな」


 二人が驚きに目を見張る中、ルシアが穏やかに微笑んだ。


「王都は広いけれど、すぐに慣れるわ。学院の周りには商業区もあるから、平民の学生も珍しくないのよ」


「そ、そうなんですか?」


 リリアが目を瞬かせる。


 確かに、試験を受けるために王都に来たときは、そこまで格式ばった雰囲気ではなかった。

 だが、今馬車が通っている区域は、明らかに貴族の住まう場所。


 道行く人々の視線もどこか冷ややかで、見慣れぬ者を値踏みするような雰囲気があった。


(……王立学院に入るって、つまりこういう世界に飛び込むってことなんだよな)


 レオンは改めて、王都での生活がこれまでと違うものになることを実感した。


 そんな中、リリアはふとレイヴンの方を見た。


(この人は、こんな世界が当たり前なんだろうな)


 彼はずっと窓の外を眺めていたが、その表情に特別な感情は浮かんでいなかった。

 まるで見慣れた景色をただ確認しているだけのような、淡々とした仕草だった。


「学院へはこのまま向かうわ」


 ルシアがそう言うと、馬車はさらに奥へと進み、王都の中心部へと向かっていった。



 馬車がゆるやかに減速し、大きな門の前で停まった。


「……ここが、王立学院」


 リリアが窓の外を見て、小さく息をのむ。


 学院の正門は荘厳な装飾が施された鉄製の門で、その奥には広々とした敷地が広がっていた。

 石畳の道がまっすぐ続き、その先には白亜の学舎が堂々とそびえ立っている。


 王国で最も格式高い学び舎――その名に恥じぬ壮麗な佇まいだった。


「すごい……」


 リリアが思わず呟く。


 学院の周囲には、すでに多くの学生たちが集まっていた。

 貴族と思われる者が従者を連れて談笑していたり、平民らしき者が緊張した様子で立っていたりと、さまざまな人々が入り混じっている。


「学院には、貴族だけでなく平民の学生もいると聞いていましたが……本当に混ざっているんですね」


 レオンが感心したように言うと、ルシアが頷いた。


「ええ、実力があれば身分に関係なく学べるのが王立学院の特徴よ。ただし、現実にはいろいろあるけれど」


 そう言って、ルシアはちらりと学院の門付近を見た。

 そこでは、貴族らしき数人が、平民らしい学生と距離を取るように立っていた。


 確かに、形式上は身分を問わないと言っても、実際のところはそう簡単にはいかないのだろう。


「まあ、平民で学院に入れるのは優秀な人たちばかりだから、すぐに実力は認められるはずよ」


 ルシアはそう言って、馬車の扉を開けた。


 レオンとリリアもそれに続き、学院の空気を直接肌で感じながら、ゆっくりと馬車を降りた。


(……始まるんだな)


 レオンは学院の大門を見上げながら、静かにそう思った。

 ここから始まる新しい学び舎での日々。

 未知の環境、新たな出会い、そして――どんな試練が待っているのか。


 一方、リリアは横目でレイヴンを見た。

 彼は学院を一瞥すると、何の感情も見せずにそのまま歩き出した。


(この人、本当に何を考えてるのか分からないなぁ)


 学院に対して驚きもなければ、緊張も感じていないように見える。

 平然とした態度は、貴族らしいと言えば貴族らしいのかもしれないが――


(……もしかして、ちょっとは楽しみだったりするのかな?)


 無表情のまま学院へと足を進めるレイヴンを見て、リリアはそんなことを思った。


◇レイヴン視点


 馬車を降りた瞬間、周囲の喧騒が耳に届いた。


(……相変わらず、賑やかだな)


 王立学院の正門前には、すでに多くの学生が集まっていた。

 貴族らしい華やかな衣装を纏った者もいれば、質素ながらもきちんとした服装をした平民らしき者もいる。

 だが、両者の間には目に見えない壁があった。


(見事に分かれているな)


 学院は「身分に関係なく実力で学べる場」とされている。

 それは制度上の話であり、実際には貴族と平民の間には歴然とした境界線が引かれているのが現実だ。


 門の近くでは、すでに貴族同士の挨拶が交わされていた。

 対照的に、平民たちは少し離れた場所で静かに佇んでいる。


(まぁ、そうなるだろうな)


 幼少期から貴族社会に身を置いていたレイヴンにとって、この光景は見慣れたものだった。


 だが、ふと隣を見ると、レオンとリリアは違う視点でこの光景を見ていた。


「……すごいな」


 レオンが目を細める。

 彼は王都の貴族街を見た時と同じように、学院の雰囲気に圧倒されているようだった。


 一方、リリアはやや緊張しつつも、どこか好奇心を滲ませている。


 そんな二人の反応を横目で見ながら、レイヴンは学院の建物へと視線を向けた。


 白亜の学舎は、壮麗でありながら重厚感もある造りだった。

 何度か訪れたことはあったが、正式に生徒として足を踏み入れるのはこれが初めてになる。


(……いよいよ、学院生活が始まるわけか)


 ゲームの知識とは違う、未知の世界。

 すでにゲームとは異なる要素が多くなっている以上、油断はできない。


(何が起こるか分からない。慎重にいくべきだな)


 そう思いながらも、レイヴンはどこか自分の中に小さな期待があることを感じていた。


(この学院で、俺はどう生きることになるんだろうな)


 無言のまま、レイヴンは学院の門をくぐった。

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