【第三話】優しさに触れたことのない少女。
ゴブリン(仮)から逃げながら親の事を考えていたら、いつの間にかジャングルの中にある、大きな洞窟みたいな所に来てしまっていた。
私の体力はもう限界だったし、外も真っ暗だったので、この洞窟で休むことにした。
それに、ゴブリン(仮)から逃げてる途中、ゴブリン(仮)に似てる奴を数体見かけたし、このジャングルの大樹よりも大きい、黒いドラゴンみたいな奴も見かけたので、正直、外にいると殺されそうで怖いのである。
私はゴブリン(仮)に攻撃くらって、すでに瀕死なのだ。これ以上傷を作ったら、ころっと死にそうである。
というか、モブキャラで知られているゴブリン(仮)に殺されかけるって、どういう事なのか。
私異世界から来たのに、全然強くないじゃないか!
あの王、嘘つきやがったのか!?
一度そう思ったら、もう王のせいにしたくなった。
もしかしたら、前の異世界から呼ばれた奴が強くて、私が弱いだけなのかもしれないけど。
もしかしたら、私たちが認識してるゴブリンよりも、この世界のゴブリン(仮)が強いのかもしれないけど。
でも、そこから疑い始めたらキリがないし、何より、この世界の事を全く知らないという事実に、絶望したくなってくる。
だから、これから悪い事が起きたら、全部王のせいにしようと思う。
そうしないと、いつか心が折れてしまう気がするのだ。
なんか、王に申し訳ない気もするけ、、、いや、申し訳ない気持ち湧かないな。
そもそも、身勝手極まりない国の事情で私召喚された訳だし。
しかも、ちょーっと見た目変わっちゃって、闇属性ってだけで殺そうとしてきた訳だし。
うん。王に関係ない事だったとしても、この世界に私を召喚した時点で全部王の責任です。
私は王を恨み続けまーす。
心の中でそう宣言しながら、暗い洞窟の中を壁伝いに進んで行く。
外は月明かりがあったからどうにか過ごすことができたけど、洞窟の中は本当に真っ暗で、何がどうなっているのか分からない。
この暗闇に魔物が潜んでいたら、絶対即死だ。
私は、周囲を警戒しながら洞窟の中を進み続けた。
洞窟の中に入って、10分くらい歩き続けただろうか。
これ以上奥に行くと出れなくなるかもしれないと思って、歩みを止めた時。
後ろから、小枝を踏んだ音がした。
やばい、殺される。
そう思って、咄嗟に後ろを振り向く。
だが、洞窟の中は真っ暗だ。右も左も分からない。
真っ暗闇の中で、どうにか敵を探そうとする。
このまま見つからなければ、本当に死んでしまう。
だって、ゴブリン(仮)とか、デカいドラゴンみたいな怪物たちが居るジャングルの中の洞窟に、人がいるとは思えない。
さっき潰してしまった人も、きっとゴブリン(仮)の仲間だったのだ。
だから、あんなにゴブリン(仮)は怒っていて、殺気立っていたんだ。
あぁ、もしかしたら、ゴブリン(仮)の仲間が私を殺しにしたのかも。
焦って探すあまり、つい壁から手を離してしまった。
「う、あ。」
唯一の頼み綱だった壁がなくなってしまって、全てが全くわからない状態になってしまった。
私は、生まれたての子鹿みたいに足が震えている。
どうしよう。どうしよう。
今さっき声を出してしまった。
私の位置が相手にバレてしまったかもしれない。
そう思ったら足がすくんで、体勢が崩れてしまう。
何かに掴もうと手を伸ばすも、壁に当たらず空を切る。
そして、思いっきり後ろに転んでしまった。
ドスン、という大きな音が、洞窟内にこだまする。
それに加えて、ゴブリン(仮)に殴られた背中から激痛を感じる。
もうこれ、骨数本折れてるだろっていう痛みだった。
目から涙が出てくる。
「う、うぐ、ゔ、、、」
必死に唇を噛んで耐えるけど、もう心も体も限界で、一度泣いたら、堰をきったように涙が溢れてくる。
だって、魔王になって復讐するって決めて、何度か死にかけても、諦めないで頑張ったのに。
私の、初めてできた目標だったのに。
「ごんな所で、殺されだぐないよぉ」
思わず声に出てしまった。
そして、悔しくて泣いてしまう、自分の無力さを思い知った。
やっぱり、こんな私が魔王なんて、無理があったんだ。
転んだ態勢から上半身だけ起き上がった状態のまま、みっともなく泣き続けた。
目が腫れるまで泣き続けた。
鼻が痛くなるまで泣き続けた。
泣き続けたのだ。
、、、、、あれ!?!?
ぜ、全然殺されないんだけど!!
どうなってんの!?
もう、泣きすぎて顔痛いんだけども!!
も、もしかして、小枝踏んだ音聞こえたの気のせいだったとか!?
風吹いただけだったとか!?
それはそれで恥ずかしすぎて泣いちゃうんだけど!!
そんな事を思っていたら、前方から「コツコツ」と足音が聞こえてきた。
その足音は、どんどん近くなってきて、私の目の前で止まった。
え?あ、ど、どういう事だ??人なのか?
そ、それとも私とかゴブリン(仮)みたいな人型の怪物?
というか、私がわんわん泣いてるのに気を遣って、泣き止むの待ってくれてたっぽいんだよなぁぁぁ!!
恥ずかしいなぁぁぁぁ!!!!
それに、怪物だった場合理性あるって事か!!!!
い、今から勘で攻撃したら当たるかな?
私が色々考えている間に、パチン、という音と共に炎が浮き出てくる。
炎の光で照らされて、真っ暗だった洞窟内がくっきりと見えた。
そして、目の前にいるのは、私を見下ろす赤いコートを着た男。
その男は、前髪にだけ赤いメッシュが入った真っ黒な髪を後ろで結っていて、どちらかというと女性らしい、端正な顔立ちをしていた。
そして、額から2本のヤギのようなツノが生えている。
ツ、ツノの生えたイケメンだぁぁぁぁぁ!!!!
えっ!!凄い!!ツノの生えたイケメンだよ!!!
生で見れるとは!!!
私が顔面偏差値の高さとツノに気を取られていると、男が自分の羽織っていたコートを、私の膝にかけた。
え?え?えっ?
私は状況が理解できずに、男とコートを交互に見た。
コートに毒でも塗ってあって、私を殺そうとしたのかと身構えたけど、ただ暖かいだけでなにもなかった。
では、コートがいらなくなって捨てたのか?でも今は結構寒いから、コートを脱ぐ意味がない。
この男には損しかなくて、私が得をするだけ。
しかも、私の膝は血まみれなのである。
自分のコートをわざわざ汚すなんて、どういう神経しているのだろうか。
私は訳がわからず、男の事を見続ける。
そしたら、男は気まずそうな顔をした。
そして、一度咳払いをしてから、私の方を向く。
『だ、大丈夫?立てそう?』
そう言って、男は心配そうに右手を差し伸べる。
私は、一瞬思考が停止した。
こ、この手は、何???
えっ、ええええええぇ!?!?!?
な、何これ何これ何これぇぇ!!!!!!
本当になにこれぇぇぇぇ!!
どうすればいいの!?何するのが正解なの!?
わ、分からないよぉぉ!!
こ、この手ぇ本当に何ぃぃぃ!?!?何すればいいのぉぉ!?!?
誰かぁ!!助けてえええ!!!!!!
そして、私がぐるぐる考えている間に時間だけが過ぎていく。
それからどれぐらい経っただろうか。
男が、行き場の失った右手を自分の方へ回収する。そして、顔を青くしながらボソボソと言った。
『エット、、、け、怪我、治療できるんですけド、、、良けば、ち、治療しましょう、カ、、?』
もう気まず過ぎて死にそうだったので、男の言葉を理解するより早く、首が取れそうになるくらい頷いた。
最後まで読んでくださり、大変感謝です。
暇で死んじゃいそう!!って時にでも、次の話を読んでくださると、ただただ自分が喜びます。