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第1話 そうだ、僕も家出しよう!

 

 ずっと夢だった。

 魔法使いになることが。

 

 皆だって一度くらいは掃除の時間ホウキにまたがってみたり、箸を魔法の杖に見立て振ってみたり、ノートの端っこに魔法の呪文を書いてみたりしたのではないだろうか?


 誰もが憧れ使いたいと懇願する。

 それこそが魔法であり、魔法使いなのだ。



 だが、誰だって分かっている。

 魔法とはフィクションの中の力であり、現実では絶対に起こりえない超人的な力なのだと。


 しかし、僕は諦めなかった。

 魔法書とか魔法の杖とかポーションとか、国内だけじゃなくて海外にも足を運んで買い集めた。中には数十万もする高価な品もあったがアルバイトを頑張りお金を貯めたのが懐かしい。

 しかし、努力虚しく、どれもハズレだったとしか言いようがない。なんたって、地球には魔法を使うためには欠かせない魔力がないのだから。



◇ ◇ ◇



 どうしても諦めきれなかった僕は高校最後の夏休みに最後の賭けに出た。

 それは僕が一番信用している魔法書に書かれていた禁忌の術(ラグナロク)を試すことだ。

 

 それは自分の命を代償に悪魔を召喚し魔力をこの世界に放出するというもの。少し考えれば僕は死んでいるので、悪魔がこの世界に来たところで魔法を使えない。

 だが、そんな分かり切ったことすら気づかない程、僕は魔法に憑りつかれていた。そして、この計画は夏休みの最終日に予定通り実行された。



 まぁ、なんだ。結果から言おう。

 

 ――僕は死んだ。



 あの後、地球に悪魔が召喚され魔力が放出されたかは、すでに故人となった僕には分からない。

 それに今思うとコイツ頭おかしいと自分でも思う。

 だが、失うモノはあれど手に入れたモノもあった。

 それこそが……



◇ ◇ ◇


 

「おぎゃおぎゃ……」


 わざとらしい産声が屋敷中に響き、僕を抱きかかえる母親と近くで心配そうに見守っていた父親は笑顔を見せる。さすがに生まれてきた赤ん坊が泣かないとなると焦るのも無理はない。

 

 しかしだ。

 僕はプライドを捨ててでも赤ん坊に徹することができるほど、心が浮足立っていた。なにせ、僕は魔力が豊潤に溢れる異世界に転生していたからだ。

 つまり、実験は成功したのだ。たぶん……



 魔法以外はかなり適当な僕が生まれた家はアナスタシア王国と呼ばれる巨大な王国にあるアークベル家という剣士の家だった。

 家族構成は父親のライト、母親のラミエラ、兄のヨハン、僕と双子の姉のラナーの5人家族。ちなみに、この10年後に妹がもう1人生まれるが今の僕に知る術はない。


 

◇ ◇ ◇



 8歳になった。

 いや、8歳になったからなんだよと言われるかもしれないが、8歳になったのだ。

 

 僕は異世界に来てから8年間、死ぬ気で魔法の練習をした。汗と涙と血を流し、寝る間も惜しんで魔法を体に刻み込んだ。

 時に、自分を実験台にもしたし、山を吹き飛ばしたりもした。

 その結果、僕は卓越した魔法を手に入れることに成功したのだ。使える魔法は軽く2000を超える。そして、無詠唱での魔法の発動もできるようになった。これならもう、魔法使いと名乗っても良い頃合いだろう。


 しかし、ある問題が僕の魔法使いへの道を閉ざした。



「ね、姉さんっ! ちょ、ちょっとタイム!!」


 僕は模擬剣を振り上げる双子の姉のラナーにタイムを表すジェスチャーをする。しかし、姉さんはそんなジェスチャーは知らんとばかりに容赦なく僕目掛けて剣を振り下ろした。



「タイムなんてあるわけないでしょ!!」


「いや、こんなにボコられたら死ぬって……グハッ!!」


 僕は5メートル近く吹き飛ぶと庭の門に頭をぶつける。

 目の前にヒヨコが5匹ほどピヨピヨと僕の頭の周りをまわり、僕は死なない程度に回復魔法をかけておく。すると、姉さんは僕の喉元に模擬剣を突きつけて声を荒げた。



「剣士の息子が剣も持てないなんて笑わせないでちょうだい。さぁ、立ちなさい!!」


「剣士の息子だからって剣士になる必要なんてないじゃないですか……」


「いいえ、ルーク。あなたが剣士になるのは生まれたその日から私が決めたの。魔術師なんかにはさせない」


 姉さんは自分の言う通りにしろと命令してくる。僕よりほんのちょっと早く生まれただけなのに……

 僕は相変わらず理不尽な姉さんにため息をつくと、なぜ姉さんが僕を剣士にしたいのか尋ねる。



「なぜ、そこまで僕を剣士にしたいのですか?」


「決まってるでしょ? 剣士と魔術師はライバルなの。それなのに私達の兄、ヨハンは魔術師になるために家出した。お父さんとお母さんがどれだけ悲しんだか分かるでしょ?」


 姉さんは僕の目の前に兄の顔の部分だけが黒塗りとなった家族写真を見せる。



「いや、兄様は魔法大学に行っただけで家出はしてないと思いますが……。それに、父様も母様も頑張って来いと応援してたじゃないですか」


「それは表向きの理由。心の中では剣士の家系を継いで欲しいと思ってるのよ。思ってるの! 分かった? 返事!!」


「はい……」


 僕は姉さんに模擬剣を突きつけられると首を縦に振る。すると、姉さんは10分だけ休憩と言って屋敷の中に入って行った。


 

「はぁ……おっかない」


 僕はため息をつくと回復魔法で完全に体の傷を回復させる。


 正直言えば、僕は魔法以外はさっぱりだ。

 頭も良くないし、運動音痴だから剣なんて振れもしない。カリスマ性とかコミュニケーション能力ももちろんない。いわゆる魔法がなければただの社会不適合者なのだ。剣士なんて冗談じゃない。



 僕はそう愚痴をこぼすと覚悟を決めるように空を見上げる。空には見たこともない奇妙な鳥が飛んでいるが鳥は自由だ。


 

「家出するか……」


 姉と言う鳥かごに囚われた僕は脱獄を決意した囚人のようにそうつぶやくと、どこでもいいから姉と会わなそうな場所を頭に浮かべながら瞬間移動した。


 それは僕が魔法使いとしてこの世界を羽ばたく最初の一歩なのだ!!


――次回に続く。

 


 

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