幸せMAX値の更新が止まらない件
「本当に大丈夫? 一人で行けるの?」
「大丈夫……ですわ、お母様」
「だって場所だって分からないでしょう」
「分かる分か…、りますわ。って、言うかスマホがあるから大丈夫なのですわ」
心配する母親をどうにかなだめて学校へ向かう。
うっかり転落死してしまって、目覚めたら美少女に転生していて、父親の会社が乗っ取られて、母親の実家に身を寄せたら、前世で暮らした地元で、まさか同じ高校に通う羽目になるとは思わなかったぜ、これでクラスまで同じならもうそれはギャグマンガだ。
「櫻川麗華さん、僕が担任の山田です、担当教科は世界史、よろしくね」
同じクラスかよーーー、知ってた、知ってたよ多分こうなるって。
「急な転校で、えと、お父さんのことも含めて大変だったね、まだクラス替えしたばっかりだし、すぐ新しい友達も出来ると思うし、楽しい高校生活にしよう」
「はい、どうかよろしくお願いいたしますわ」
「先に話しておくけど、……実はね、うちのクラスの男子生徒が先日事故で亡くなってしまってね…」
オレーーー
それオレーーー
「若干クラス全体が…」
「悲しんでいる、とか、ですか?」
クラス替えしたばっかりであんまり話したことないやつも多いけど、いい奴らだよなぁ、と仲良かった友達の顔を思い浮かべる。
「いや、それはないんだけど」
ないんかーーーい
もういい、突っ込むのも疲れてきた。
「なんというか、ザワザワしてる感じなんだよね、だからこの機に乗じてサクッと仲間に入っちゃおう」
「は、はあ…」
そして山田に連れられ見慣れた教室へ入る。
途端にクラス中がざわめく。
「すっげー美少女来たーーー」
「え、マジすごくない」
「色白い、顔小っさ…髪キレイ~」
「まつげすごい、あれ地まつげ?クルンクルン、お人形さんみたい」
「げ、芸能人?」
「芸能人より綺麗だってマジで」
「うお~あがる」
「バカ、おまえなんか相手にされるかよ」
お約束のように黒板に名前を書かれ、自己紹介を促される。
「櫻川麗華と申します。皆様どうか仲良くしてくださいませ」
「え、声も可愛い…天使かな」
「学校に来るモチベが劇的にアップ」
「リップどこの使ってるのか教えて欲しーい」
「はいはいはーーーーい、仲良くします、オレ、相沢って言います」
「あ、ずるいぞ、あの僕は村田です」
「麗華ちゃんって呼んでもいいかな?俺は佐藤俊雄、さとうとしお、シュガー&ソルトと呼んでもくれても構わない」
まぁ、こうなるわな。
こんな美少女が転校してくれば
「お前らちょっと静かにしろ~、HR終わるぞー。じゃあ、櫻川の席は窓際のあそこ、な」
担任が指差したのは空席になっていたオレの席
「え、そこって」
「かわいそうじゃない?」
「しっ、櫻川さんは知らないんだから」
いや、知ってるーー
知ってますーーー
二週間前に事故死したのオレだから
別に幽霊になって出てきたりしねーから、その席で全然構わねーんだけど
その時、オレの席の真ん前に座る直人がすっと手を上げた。
「先生、もし大丈夫でしたら俺がその席に座ります。櫻川さんはこちらの席に、ね」
ニコリと微笑む。
直人ってば、おまえやっぱりいい奴だな
「太一は俺の親友でしたし、それに櫻川さんが俺の後ろだと黒板見えにくいかと」
それなーーーオレは直人のでっかい背中に隠れて居眠りし放題の席でありがたかったけど。
「渡辺直人くん、ありがとうございます」
「え? 俺、今、名乗りましたっけ?」
またしてもざわめく教室
やべー、またやらかした。
「きょ、きょ、教室の入口に貼ってある座席表を見たんですわ」
く、苦しい…言い訳…
「なぁ~んだ、びっくりした~」
「エスパーなのかと思ったね~」
「拙者は渡辺直人氏が早くも麗華たんに手をつけたのかと、心配してしまいましたよ、我々のスイートエンジェル麗華たんに手を出す男は何人たりとも許さん、駆逐する」
って信じんのかよーーー
そしてスイートエンジェル麗華たんって
ダメだ、なんかツッコミ不在のボケ天国空間だ
座席につくと、背中をツンとつつかれた。
「きゃっ」
思わず可愛い声が出て良かったぜ。
「うおっ」
とかだとイメージ違いすぎるだろうし。
後ろを振り向くと直人が王子様スマイルで
「さっきは挨拶が途中になっちゃった、渡辺直人って言います。よろしくね」と握手を求めて手を差し出した。
そうだ、直人ってこれだ
自分がイケメンであると自覚あるイケメン
大抵の女子はこれでポーーっとなっちまう。
おまけにマメで、
東に重い荷物を持つ女子あれば
「女の子にこんな重い荷物持たせられないよ」と持つし
西に黒板消しをする女子あれば
「高いところは俺にまかせて」とウインクする
教室のドアは執事よろしく開け閉めしてあげて、寒そうにしている女子には己のカーディガンを脱いで貸しちゃう、しかもそれを特定の女子にではなく全女子に分け隔てなくしれっと行う奴なんだよ、東高の王子様……きっと優奈ちゃんだって直人のことを…と隣をチラリと盗み見る。
死ぬ前のオレが秘かに想いを寄せていた中山優奈ちゃん
直人と席を交換したおかげで初めて真隣の席になれた。
今までは斜め後ろから眺めていただけだけど、これからは隣同士、教科書の見せ合いっことしちゃったりなんかして……はっ、でももしかして、優奈ちゃんが直人を好きだった場合、直人とオレが席を交換したから、隣がオレになってがっかりしてるとかないかな……
「ふふっ、櫻川さんよろしくね、私は中山優奈、私も麗華ちゃんって呼んでもいい? 渡辺くんはちょっと距離が近いけど女の子にはとっても優しいから安心しても大丈夫だよ」
くすくすと笑う……めっちゃ、めっちゃ、めっちゃ可愛いーーー
優奈ちゃんに笑いかけられたの、は、は、初めて……
直人の握手は一時間目の担当教師が教室に入ってきたことでうやむやになった。
授業が終了すると、窓際のオレの席はあっという間に男子生徒に囲まれた。
「良かったら校内を案内しようか?」
要らん、知ってるし
「ハアハア、理科準備室の場所を教えて上げるよ」
おまえ、そんな人気のない場所に連れていって何するつもりだよ、ちょっと息が荒いし、キモキモ
どこから来たの?なんでこんな時期に転校してきたの?どこに住んでるの?部活は入る?
食べ物は何が好き?彼氏はいる?どんな人がタイプ?
あーもー、男どもはひたすらに鬱陶しい……どうしてくれよう。
次の休み時間もこれならたまらんから、この授業終わったらどっかフケるか?
いや、転校早々それはヤバいか?
逡巡するオレの目の前にポトリ
ノートの切れ端を折り畳んだような紙が投げられた。
隣を見ると優奈ちゃんが肩をすくめ両目をつぶる、ああ、可愛いーーー前に「私ってウインク出来ないんだぁ、どうしても両目つぶっちゃう」って言ってたのこれかーーー。
優奈ちゃんの笑顔
優奈ちゃんのウインク
優奈ちゃんからのお手紙
ああ、もう今日一日で人生の幸せMAX値を更新したかもしれない。
なになに……と、教師に見つからないように机の中に手を入れお手紙を開く。
「麗華ちゃんへ さっきの休み時間、男子がいっぱいで話しかけられなかったよ~麗華ちゃんすごくモテモテでびっくりしちゃった。良かったらこれ私のLINE ID、これから仲良くしてね」
LINE ID GETしましたーーー
手紙にはウサギのイラストまでーーー
ウサギ可愛いーーー
優奈ちゃんも可愛いーーー
可愛いと可愛いの夢のコラボレーション
幸せのMAX値、楽々更新しましたーーー
机の中、スマホでLINEを開きID検索する。
そして「よろしくお願いします」のスタンプを送る。
すぐに「わぁい」と喜ぶスタンプが来て
続いて「なかよし」となにやら動物が抱き合うようなスタンプが来た
女の子っていいーーー
これこれこういうの
くすくす笑いながら楽しそうにしている中に、今度からはオレも混ざれるんだ。
あのふわふわといい香りのするパステルカラーの世界に
「帰りもし良かったらお茶しない?」とメッセージが来て、0.5秒で「OK」とスタンプを返した。
デ、デートかな、デートだよな
二人でお茶をするなんてデートとしか思えないシチュエーション
オレと優奈ちゃんがデート
マジか、神様ありがとう、今年の初詣、賽銭ケチってごめん、次100円奮発します。
昼休み優奈ちゃんを含めた女子4人で一緒に飯を食い、放課後、優奈ちゃんと一緒に学校を出た。
当然くっついてくる男どもを
「もぉ、今日は女の子同士でデートなんだから」と優奈ちゃんが追い払う。
やっぱり、やっぱりデートなんだ。
服を見て、プリを撮り、お茶をした。
当然幸せのMAX値の更新だ。
プリを撮る時は優奈ちゃんがオレの腕を取り、肘に胸がちょっとだけ当たった。優奈ちゃんぽよんと柔らかい……それからいい匂いでクラクラしそうになった。
「♪( ´∀`)人(´∀` )♪なかよし、麗華&優奈」と落書きしたプリを半分もらい、財布の中へしまった。家に着いたら宝物箱を作ろう。
今日の手紙と、このプリは永久に我が家の家宝だ。
このあと優奈ちゃんとあんなことになるなんて、その時のオレはまったく想像もしなかったんだ。
櫻川麗華:超絶美少女
オレ、太一:転落死のあと転生、優奈ちゃんが好き
中山優奈:可愛い、おっぱいぽよん
渡辺直人:見た目も中身もイケメン、太一の親友
山田:クラス担任、担当教科は世界史
クラスメイト(モブ):相沢、村田、佐藤俊雄など