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婚約破棄を宣言されました

「あなたとの婚約は破棄させていただきますわ!」


 ふらりと立ち寄った学食で、全校生徒の目の前で吐き捨てられた言葉。ジェームズはうんざりとする気持ちを抑えようともせずに、暴言を放った相手を見つめた。


「そうですか。構いませんよ、レジーナ嬢。手続きをしますから、放課後にでも人をうちの屋敷によこしてください」


「なんですか、その態度は!格下の伯爵家のくせに侯爵家の令嬢にその態度。あなた、この婚約のありがたみもわかっていなかったのね」


 ありがたみが分かっていないのは、そちらの方だ。ジェームズはそういいたくなる気持ちをぐっとこらえた。このお嬢さまには理解したくもないことだろう。侯爵家の令嬢という肩書を過信しているのだ、彼女は。実際は、爵位など名ばかり。ランヴァルド侯爵家が財政難に陥り、没落の一途をたどっていることなど知りもしないだろう。自らの父が頭を下げて成立した婚約だというのに。まあ、学園を卒業したらこちらから突き付ける予定だった婚約破棄が早まっただけだ。今さら焦る必要もない。


「お話は以上ですか。では、失礼をいたします、レジーナ嬢」


「お待ちなさい」


 まだか。ジェームズはため息をつきたくなった。しかしここで邪険にして、評判が悪くなるのは得策ではない。事情があろうとなんだろうと、レジーナは侯爵令嬢、ジェームズは伯爵令息だ。残念ながら身分が違う。こんなことになるのでは、今日は学食を避ければよかった。いや、学園に来るの自体、避ければよかった。そうしていれば今頃、ルークとエレナと楽しく騒いでいただろう。


「あなた、わたくしの想い人を卑怯な手で陥れようとしましたわね」


「失礼ですが、あなたの想い人などわたしは知りません。彼を陥れようとも思ってはいませんよ」


 なんなんだ、この女は。想い人がいたなど本人の父親が聞いたら卒倒する。婚約者がいる身でそういうことはご法度だ。いくら愛のない関係でも、そういうものは内々にしておくべきではないのだろうか。事実、この女との婚約が決まってから、ジェームズは恋人を作ってはいない。それ以外の羽目を外したあれこれは追及しないでいただきたいが。


「嘘をおっしゃい。彼が言ったのよ。あなたがいつも彼を輪から外すと。それに悪意がないと言えなくて?ねえ、ウォルト、そうでしょう?」


「わたしは誰かをわざわざ仲間はずれにするような卑怯な真似は致しません。そもそも、すでに卒業資格は取ってある。学園にいることも稀ですから、発言力があるわけでもありません。彼はほかの方々から嫌がらせを受けたのでは?」


「いいや、ぼくを仲間外れにした連中はみな、きみの仲いい者ばかりだ。きみが指示をしてやらせたのだろう?ぼくがきみの婚約者殿と恋に落ちてしまったことに嫉妬して」


「それは友人が悪いことをしましたね。注意をしておきます。しかし、わたしは友人に指図するような人間でも、悪事を扇動するような人間でもありません。カークライト殿、的外れな悪口などおやめください」


「いいや、ぼくは信じないぞ。父上に掛け合って国王陛下に訴えてやる」


「学園内の些事に陛下が介入なさるとは思えませんが…止めることもできないようですのでお任せします。無実の者が恐れる理由など、何もないですので」


「まあ。なんて態度。わたくしからもお父さまに訴えさせていただきますわ。伯爵家ごときがカークライト侯爵家とランヴァルド侯爵家の二つにかなうはずがありませんもの」


 おまえらは当主の立場まで悪くしてどうしたいのか。忠告したくなったが、ジェームズは黙っていた。訴えられたらひと悶着あるだろうが、どうにでもなる。こんなやつら、さっさとくっついてしまえ。実家は黙ってはいないだろうがな。


どう見ても、カークライトはレジーナの持参金目当てだ。ランヴァルド侯爵家が火の車だと気づいていない。しかし、それはレジーナも同じだろう。カークライトが家格の釣り合う、裕福な貴族家だと思っているのだ。しかし、カークライトはもともとそれほどの収入はない。証拠に、宮廷に上がるのも年に数度、両親は領地暮らしだ。息子は学園にいるために、何とか体裁を整えてはいるが、在学中に多額の持参金を持つ娘と婚約を結びたいのだろう。そういった打算的なことが嫌で、婚約者がいるジェームズの友人たちは彼を輪に加えなかったのだ。自分の婚約者がお手付きになるなどたまったものではない。ある意味、これがレジーナでよかったかもしれないな。ジェームズは他人事に考えた。もともと婚約破棄する予定だったのだ。彼女なら自分も友人も痛い思いをしないで済む。多少、不快な思いをするのは心外だが。


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