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新聞部・文岡 春輝

 クラビの中心で人々が集う繁華街『ヘボン』。ここでは今人気急上昇のニュース雑誌があった。



「『マルノ地区の強盗事件、新人兵ノボリ・イッサが撃退!』さすが一砂くん、仕事が早いからネタの提供が早くて助かるー!!」



 書類や写真で溢れかえる編集部。そのフロアで一番目立つ編集長の椅子にふんぞり返り、自作の記事を高らかに読み上げていたのは、一砂と同じ鳳高校出身・3年新聞部の文岡(ふみおか )春輝(はるき)だった。


 春輝は入学直後から無類のワードセンスを有しており、全国の新聞部が参加するコンクールでは全てにおいて最優秀賞を獲得している。春輝の優れている点は、賞を取れる審査員好みな文章構成だけではなく、大衆が思わず惹かれるゴシップ・オカルト記事の文章までもが得意ジャンルであることだ。



「すごいですね……。ハルキさんが来られてから部数が毎週のように伸びていきます!」


「でっしょー!! やっぱ俺って天才だよね!」



 この出版社は何も最初から発行部数が良いわけではなかった。だが春輝がこの世界に召喚され、赴任地の希望を取られた際に指定したのが「大きい街の寂れた出版社で仕事がしたい」とのことだった。



「まぁ、俺のほうもオカルト雑誌の編集長とかやってみたかったし、こちらこそありがとうって感じなんだけどね」


「おかると……? ニュース雑誌ですよね、うちって……?」


「あぁ、こっちの話」



 新人がぽかんとする中、別の社員が息を切らして飛び込んできた。



「ハルキさん! 宝石強盗です! 人質がとられていて、役人たちが動けずにいます!」


「マジで! これは絶好の出動チャンスじゃない?!」



 春輝が勢いよく立ち上がり、余波で椅子がくるくると回る。春輝は本来の務めを果たすため、意気揚々と編集部を後にした。



 *



 宝石店に強盗が立てこもり、逃走経路の確保を求めていた。役人達は要求を呑もうと動くものの、野次馬の数は一向に減る様子がなかった。

 なぜならここにいる野次馬たちは皆、春輝を待っているのだ。春輝の出動は、最早『ヘボン』の一大イベントと化していた。



「明日のトップニュース! 新進気鋭の英雄 フミオカ・ハルキが暴徒を鎮圧!」



 暴徒を前にして、春輝は高らかに宣言した。野次馬の最後尾から聞こえるその声に歓声が上がる。



「大見出しは決まりだ」



 不敵に笑う春輝を見て、強盗団の警戒心は一層強くなった。



「出やがった、アイツが例の『異世界の英雄』だな?」


「なんでも意味の分かんねぇ力を使うらしい」


「だったらその前に止める!!」



 数を武器に攻撃を仕掛けてくる強盗団だったが、春輝は顔色一つ変えず、一本のペンを取り出した。にやりとほほ笑むその顔はまるで悪魔のようだ。




【スキル:現実は空想よりも(メイク アン アー)不可思議也(ティクル)


 春輝の力で造ったペンで仕上げた『見出し』は全て『現実』になる。『見出し』の数に制限はない。ただし自分のことは記事には書けない。他対象のみとなる。




「『摩訶不思議?! 恐怖で足が止まる強盗団!!』」


「な゛っ」


「お、おい、動かねえぞ」


「どうなってんだ!」



 春輝が『見出し』を書くと文字通り強盗団の足はぴたりと動かなくなった。春輝は続けて見出しを書きこんでいく。



「『狂気! 突如踊り狂うデモ隊!』さぁ! 踊れ踊れ!!」


「な、なんだ?! 体が勝手に……!」



 全く動かなかった足が、今度は一人でに動き始めた。必死に足を抑える者もいるが、春輝が神から授かった【スキル】に敵うはずもなく、無様に踊る羽目となった。



「あー、面白かった。でもそろそろお開きにしよう、『役人軍団大手柄!!凶悪犯をスピード逮捕!』」



 ひとしきり強盗団のダンスパーティーを楽しんだ後、春輝は最後の見出しを書いた。その瞬間、何故か大量の非番の役人たちが居合わせ、強盗団は間抜けなダンスを踊っている間にあっさりと縄につくこととなった。


 凶悪犯を相手していたにもかかわらず、あっという間に解決してしまった春輝の仕事ぶりに、観客は沸き立ち、再度春輝に歓声を送った。



 春輝のスキルが解除される頃には、強盗団は時すでに逃げ出せる状態ではなくなっていた。彼らからはクレームの嵐であったが、その言葉は、春輝に微塵も響く様子はないのであった。



「なんなんだ、アイツの能力……! あんなの反則だろ!!」


「ガセネタなんて書くわけにいかないからね、職業柄」



 *



 窓に映る空がオレンジに染まるころ、ネタを持ってきたフリーのライターが、上機嫌に見出しの自分を眺める春輝の背中に問いかけた。



「貴方のスキルがあれば、元の世界に帰ることが出来るのでは? 戦争だってすぐに……」


「ん? んー……そうかもしれないけど、でも大好きなオカルト記事書いてもガセネタにならない世界、満喫しないと損じゃない?」


「ご自分の都合ですか」


「そう。あ、オフレコで頼むね。じゃないと俺、怒りに任せちゃって、どんな記事書くか分かんないから♪」



 編集長の椅子からくるりと振り向き微笑む顔は、人間なのか、怪物なのか。

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