異世界召喚されました。
むかーしむかし、あるところに『クラビ』と呼ばれる王国があった。国土は雄大で、人々は健やかに育ち、平和な王国だった。
ある時、クラビは周囲の国から突然の襲撃を受け、戦が始まった。戦場は各地へと広がり、おかげで国内の兵隊は減り、国内の治安が徐々に悪化していった。治安を回復させたいが、兵士たちは当面戦場へと出払ってしまうため、人手が足りない。放っておくと国土全体が荒んでいってしまう。頭を抱えていたクラビの王に、一人の大臣が進言した。
「兵が足りぬのであれば増やせばいいのです」
「しかしこれ以上国民を兵に駆り出すのは難しいぞ」
「ならば、それ以外のところから呼び出せばいいのです」
大臣が連れてきたのは、黒いローブと白いローブに身を包んだ『魔術師』の二人組でだった。クラビは魔法が当たり前に存在している世界で、攻撃に特化したもの、占いに特化したものなど様々な種類の魔法があった。また、それを生業にしている人間を『魔術師』と呼んでいたのだ。
まず黒いローブの魔術師が名乗り出た。
「私の魔法は並行するもう一つの世界から望みのものを召喚する魔法です。王が望めば、屈強な兵士すら呼び出して見せましょう」
優しき王は、他国民を借り受けることに一瞬動揺したものの、クラビの現状を思うと背に腹は代えられぬ、とその提案を承諾することにした。
許可を得た黒いローブの魔術師は、部屋の中心に魔法陣を描くと召喚の儀式を始めた。
「おお、神よ。我らが神に御願い奉ります。この地に生きる民を守る戦士をこれに、遣わし召さるることを!!!」」
そう叫ぶと、陣は白く輝き、青い粒子が宙に舞った。
*
眩い光に目が慣れた頃、王は召喚者の姿に愕然とした。並行世界から召喚されたのは、数十名にも上る少年少女の姿だったのだ。
「おいおい……、なんだここ……」
「お城みたいな内装……資料として写真撮ってもいいかな?」
動揺が残る少年少女をどこ吹く風に、魔術師達は喜びの声をあげた。
「おお! 召喚魔法は無事成功だ!」
「お呼び立てして申し訳ございません。早速ですが皆様にはこの国の兵として働いていただきます」
蚊帳の外になりつつある王は、そんな急で無茶な提案に乗るはずがないと項垂れたが、1人の少年がスッと手を挙げ発言した。
「すんませーん、これって質問ありっすか?」
「認めましょう」
「俺……っていうか、ここにいるほとんどが夏の大会に向けて練習中だったのに、どうしてくれるわけ?」
拍子抜けするほど呑気で、やや怒気をはらんだ質問に王は危うく玉座から陥落したような心地になった。先ほどまでの動揺はすっかり落ち着き、少年少女は自分たちの置かれている立場に怒りを滲ませていたのだ。
それもそのはず、クラビの魔術師が召喚したのは、並行世界のとある島国にある、部活動強豪校・『鳳高校』の生徒たちだったのだ。
鳳高校は、ここ数十年で急激に成長し、今やタイトルのない部活動はないほど『部活』に力を入れている。多くのアスリート、アーティストを輩出し、企業からのスカウトが絶えない。中でも各部の主要生徒たちには既に国を背負って戦う生徒もいる。部内での争いに勝利してきた生徒たちの精神面の強靭さは、すでに歴戦の戦士をも凌ぐほどだった。
『部活』なんて知らないクラビの人々には「なんと屈強な戦士たちだ」と頼もしさに映っていることを生徒たちは知る由もない。
「すべてが終われば、お望みの時間軸にお返しいたします。元の世界や変える方法に関しての心配は無用です」
「私たちただの一般人で未成年なんですけど」
「治安維持にご協力いただけるのであれば、手助けとして各々の特性に合わせた【スキル】をお渡しいたします」
白のローブの魔術師の魔法は『相手に魔法能力を付与』するものらしく、手のひらに魔法陣を描くと、生徒たちに向けた。
「神よ、我らが神に御願い奉ります。この勇敢なる戦士たちに、正義を通す力をお恵みください」
白いローブの魔法使いが呪文を唱えると、生徒たちそれぞれの脳内に摩訶不思議な文言が流れてきた。
「今皆様に届いた『神のお言葉』は【スキル】と呼ばれる特別な能力です。個々に違った魔法能力ですので、使い方は各自で修練が必要となります。まぁ、皆様は屈強な戦士様であられるのでそのような行為は不要かもしれませんがね」
「帰り道は保証します」
「魔法もございます」
「「共に戦っていただけますね?」」
魔術師たちの嫌とは言わせぬ笑顔での依頼に、生徒たちは「まぁ……その分他の奴らより練習出来るって事なら……」と渋々承諾した様子だった。どこまで行っても部活最優先の脳に、王は一抹の不安を抱いたが、ここは彼らに頼む他ないと見ないふりをした。
「異世界の戦士たちよ、我が国を頼んだぞ!」
鳳高校の生徒たちは無事クラビの民を守りきることができるだろうか。少年少女の『練習へ戻るため』の戦いが始まる。
こちらは不定期連載となります。
作者が強いキャラクターを書くための練習作品となっておりますので、拙い部分があると思います。
これから頑張って成長していこうと思いますので、温かく見守ってやってください。