9 マジックマスター
城に到着したあと、俺は城にいた騎士の人に訓練場の場所を聞き、訓練場へと向かった。訓練場は城の外にあり、俺はそこにあったベンチに座ってノエルが来るのを待つことにした。
ベンチに座って空を見上げて一息つく。
思えば今日は色々なことがあった。まず、ノエルに会って、そこからこの街に来て王様との謁見、今までの俺の生活では決してあり得なかったことの数々だ。そしてこれから魔法の特訓と、人生とは一日でこれほど劇的に変わるものなのだと物思いにふけているとノエルの声が聞こえた。
「ユニ君、ちゃんと来れたんだね、よかった。あっ、この子は私が魔法を教えている子でヒナちゃんって言うんだよ」
ノエルの隣には女の子がいた。髪は青っぽい色をしていて、顔には若干の幼さがあるが、身長はノエルより少し高い、おとなしそうな子だ。
「俺はユニって言うんだ。よろしく。お互いに魔法が上達するようにがんばろう」
ヒナは小さくよろしくお願いしますと言い、お辞儀をした。若干のぎこちなさががあるが、初対面だから仕方ないだろう。
「ヒナちゃんはすごいんだよ。魔法の上達も早いし、それにね、貴族なの。貴族らしくお淑やかでかわいいんだよ」
「そんなことないですよ。魔法だってノエルさんのほうが上手ですし、貴族って言っても親がそうだったから私もたまたまそうなっただけですし」
貴族と言ったらもっと高慢な感じを想像していたから、ヒナの言動を聞いてこんな控えめな貴族も存在するのだなと感心する。貴族というものについてもっと詳しく聞きたくなる気もするが、今は魔法だ。使えるのなら早く使ってみたい。
「さっ、その魔法を教えてくれるんだろ?どうやったら使えるようになるの?」
「ユニ君はせっかちだね。でも、そうだね、魔法の練習を始めようか」
俺たちは訓練場の真ん中辺りまで移動する。ノエルは大体この辺でいいかなとつぶやくと魔法についての説明を始めた。
「魔法を使うには、まず自分の中の魔力を感じることが大事だよ。ユニ君は今まで魔力を意識したことないと思うからここが一番大変になってくると思う。それで、魔力を意識できたらあとはそれを使いたい魔法をイメージして魔力をコントロールすると魔法が使えるよ。要は想像力が大事って感じかな」
想像力か、正直もっと複雑なものを想像していたから思っていたよりも抽象的で拍子抜けする。
「それじゃあ、まずはお手本を見せるね。ヒナちゃん、ファイアボールお願いできる?」
ヒナは頷くと右手を前にかざして集中する。すると、かざした手の先に直径五十センチほどの火の玉が形成された。ヒナはそれを訓練場にある的めがけて打ち出した。玉は見事に命中し、的は跡形もなく燃え尽きてしまった。
「というわけで、ユニ君にはまずこのファイアボールを使えるようになってもらいます。がんばっていこー」
ノエルの指導で魔法の特訓が本格的に始まる。俺はまず魔力を意識すること、ヒナはより高度な魔法を使えるようにしようとノエルが目標を掲げてけくれた。ヒナは一人でもだいじょうぶなようでノエルは俺につきっきりで教えてくれている。
「魔力の意識って言われてもなー」
俺はさっそく壁にぶち当たっていた。街に住んでいる人たちは幼い頃から魔法が身近であるが故に、魔力を意識することは難しくないらしいが、俺の場合は魔力や魔法とは無縁の生活をしてきた。特訓を開始して数十分、進展があまり見られない。
「私はユニ君のガーゴイルを倒したときのすごい身体能力って魔力を使って威力とかを上げてると思ってたけど違ったんだね」
「ああ、あれは本当にただ純粋な力で殴っただけだからね。魔力なんて一切関係ないよ」
「それはそれですごいけどね」
ノエルは少々呆れた様な顔でそう言った。
ノエルが言うには人には多かれ少なかれすべての人に魔力はあるらしい。そして、俺にもちゃんと魔力はあり、その総量は普通よりかなり多いらしい。とは言っても使えなければ宝の持ち腐れだ。
特訓を続けているとどうにか直径三センチ程の非常に小さな火球を生み出せるようになった。その頃にはもう日が暮れようとしていた。ノエルはヒナを呼び、とりあえず今日の特訓はここまでにしようということになった。
「魔力も知らなかったのに一日でそれだけできたのはすごいと思うよ」
「そうなのかな。ヒナはファイアボール覚えるのにどれくらいかかったの?」
「私は一日でほぼできるようになりました」
俺はがっくりと力が抜けてしまう。
「明日からも頑張ればいいよ」
「私もユニさんのこと応援します。がんばってください」
二人に励まされ、なんとか立ち直る。あと、避けられてるような気がしてたヒナからも声をかけてもらえて少し嬉しかった。
ヒナが帰ったあと、俺はノエルの案内で夜ご飯、お風呂を済ませて用意してもらった部屋のベッドに寝転んでいた。
このままでいいのだろうかと思い悩む。俺は一応は戦争の戦力として招かれた身だ。戦争は避けたいがやはり戦いは避けられないと思う。そうなったら俺だけが戦う、または俺が最前線で戦って最小限の戦いで戦争を終わらせたいと思っていた。
しかし、今の俺にそれが可能だとは思えない。力は多少は普通より強いが、ユニークスキルは微妙だし、魔法もからっきしだ。戦場で役に立つとは思えない。
「このままじゃ、ダメだよな」
俺はベッドから起き上がるとすでに真っ暗となった訓練場へと向かった。
昼の間に魔力の意識は少しはできたと思う。この意識をさらに強くしてヒナが見せてくれたようなファイアボールにしようとする。しかし、火球は三センチから五センチになったくらいの成長しか見られない。この程度では真っ暗な訓練場を歩くための明かりにするにも心許ない。
駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、このままじゃ何の役にも立てない。俺は自分自身の力の無さに嫌気がさす。
そのときだった、突然頭痛がしたのは。意識を保つのもやっとな程の頭痛だ。
「この頭痛・・・・・、どこかで・・・・・」
俺はこの頭痛を前にも感じたことがあった気がしたが、その答えを出す前に俺の意識は暗い闇の中に沈んでいった。
「ユニ君、ユニ君」
声が聞こえる。誰の声だろう。目を開けるとそこにはノエルの姿があった。
「よかった、目が覚めて朝起きたらいないから探したんだよ。一人で魔法の練習でもしてたのかな?あれ?ユニ君、どうして泣いてるの?」
俺の目からは涙が流れていた。なぜかは分からない。だけど、目の前にノエルがいることがたまらなく愛おしく感じられる。俺は我慢できずにノエルに抱きついてしまった。
「ユニ君、怖い夢でも見たのかな。大丈夫だよ。私はここにいるよ」
ノエルは俺のことを優しく励ましてくれた。ずいぶんと長いこと俺はノエルに抱きついていたと思う。
「ごめん、なんかよくわからないけど、ノエルがいることがたまらなく嬉しく思えちゃったんだ。変なことして本当にごめん」
我に返ると本当に恥ずかしいことをしてしまったと反省する。
「ううん、私は大丈夫。あとユニ君、私に言ってくれたよね。一人で無理しなくていいって。それはユニ君もだからね。何かあったら私が力になるよ」
感謝と申し訳なさの感情で俺の心はぐちゃぐちゃになりそうになったが、どうにか抑える。こんな訳の分からないことでこれ以上ノエルに心配をかけたくない。
「ありがとう、じゃあとりあえず、また魔法の練習につきあってもらっていいかな?」
「もちろんだよ」
再び魔法の練習を始めようとしたら、ちょうどよくヒナも訓練場に来た。
「おはようございます、今日も魔法の練習を見てもらっていいですか?」
「ヒナちゃん、来てくれたんだ。もちろん大丈夫だよ。じゃあまずは、夜通し練習してたみたいのユニ君の上達ぶりを一緒に見よう」
俺は大いに焦る。なぜなら昨夜は早い段階で頭痛によって気を失い、上達なんてろくにしていないからだ。だが、言われたからにはやるしかない。
「言っておくけど、あんまり期待しないでね。練習してたらすぐに気を失っちゃったから」
「ユニ君なら大丈夫だよ」
「ユニさん、がんばってください」
ノエルからの根拠のない言葉とヒナからの声援を一身に受けて。魔法を使おうとすると変な感覚に襲われる。なぜかできそうな気がするのだ。
口が勝手に動く。
「ファイアデビル」
その瞬間、俺の前に巨大な炎の柱が渦を巻いて出現する。俺もノエルもヒナも驚いて身体が硬直する。
このままでは近くに燃え移って火事になってしまう。消さないと、と思っているとまた咄嗟に口が動いた。
「アトランティス」
大量の水が出現し、炎の渦を消すことができた。辺りは水浸しになり、俺たちもずぶ濡れになってしまったが。
ノエルとヒナは未だに呆然としたままだった。俺は二人に話しかけようと思ったとき、ふと気づいた。あの頭痛は言葉を覚えたときや服の時と一緒だと。俺は思うことがあり、自分のスキルカードを取り出した。
スキルカードは昨日と違う箇所があった。「マジックマスター」そのスキルがレガシースキルに追加されていた。




