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「私の国では近い未来に戦争が起きます。戦争が起きれば多くの国民が犠牲となってしまいます。私たちの国を救うために人々を守るためにユニさんの力を貸して頂けませんか」

 戦争か、ユニは内心そうつぶやく。戦争は好きではない。理由は分からないが心の奥底の本能のようなものが戦争を嫌う。

 しかし、彼女は「守るため」と言った。これは推測だが恐らく彼女の国は戦争を仕掛けられている側だ。戦争を仕掛けるような国だったら俺のような噂だけの存在の守護者なんかに助けを求めないだろう。

 もしかしたら騙されているのかもしれない。でも俺はこの目の前にいる少女のことを信じたい、助けになりたいと思わずにはいられなかった。先ほど死にそうな目に遭ったにも関わらず毅然としながら俺の前に立つ少女のことを。

 数秒の沈黙のあと俺は答えた。

「わかった、俺がどこまで助けになるのかはわからないけど、力になれるのなら協力するよ」

 ノエルはその返答に驚いた。

「いいんですか?、こんな見ず知らずの人間に協力することをそんなにあっさりと決めてしまって」

 戦争に協力して欲しいということをあっさりと承諾されたのだから彼女の意見は最もだろう。

「うん、いいよ。俺は君のことを信じたいと思ったんだ。君はたぶんすごく優しい人なんじゃないかな。戦争に勝つことよりも守ることを優先してる。それにいるかどうかも分からない守護者なんてものを探すために1人でこんなところまで来ている。優しくなかったらそんなことまでしようとは思わないでしょ」

「私はそんな,,,、」

「いいんだよ、もう決めたことだから。それで、協力するために俺は何をすればいい?」

 否定しようとする彼女の言葉をさえぎって話が進むように彼女を促す。

「ありがとうございます。それでは、そうですね、まずは私たちの国に来て頂けませんでしょうか。すぐそこに馬車も待たせていますので。詳しい話も馬車の中でしましょう」


 少し歩くとノエルの言うとおり馬車があった。馬車には想像していたのより三回りくらい大きい馬のような生き物がつながれていた。

「この馬大きいね。馬車も始めて見ることができて感動だけど馬が思っていたより大きくてびっくりしたよ」

「この子、実は魔物なんです。でもすごく良い子で人なつっこいんです。それにすごく頭もよくて騎手がいなくても目的地までいってくれるんですよ。あ、どうぞ中にお入りください」

 馬のことを誇らしげに語るノエルがすごくかわいく見えた。

 馬車の中に入り、ノエルと向かい合うように座る。馬車はたまに大きく揺れることもあるが心地のよいリズムを刻みながら走って行く。ノエルの国までは一時間ほどかかるらしい。それはつまり、これから一時間この少女と一緒なわけで、間が持つのかと少し心配になる。

「それでは、戦争について詳しいお話をしますね。どこから話せばいいでしょうか。ユニさんは森の中で住んでいたから、もしかしたらここ最近の歴史をご存じないかもしれないので、歴史からお話してもいいですか?」

「それでいいよ。たしかに歴史とかはあまり知らないから助かるよ」

 彼女は語り出した。


 

 彼女の話によると約百五十年前に三人の勇者と呼ばれる存在がいたらしい。三人の勇者はそれぞれ創造の力、調和の力、暗黒の力を持ちこの世界の秩序を護っていた。この世界はゆっくりと崩壊しているが創造の力で崩壊を補い、調和の力で形を整える。そして、創造のときに発生する暗黒物質の制御及び、暗黒物質から形作られる魔界の管理を暗黒の力で行っている。

 それぞれの力を持つ者が現れること自体まれであり、いなければ世界は混沌を極めるため、それらの能力を持った三人が同時にいた百五十年前は奇跡の時代とも言われていたらしい。

 しかし、奇跡の時代はそう長くは続かなかった。暗黒の勇者が裏切ったのだ。暗黒の勇者は力欲しさに他の勇者を裏切り、自らが統治する国を火の海として全ての国民を根絶やしにした。暗黒の勇者を止めるために創造の勇者は戦い相打ちとなった。創造の勇者は命が尽きる直前に創造の力の粒子をこの世界にばらまくことで今この世界の崩壊は食い止められている。

 暗黒の勇者は裏切りと共にこの世界に大きな爪痕を残した。それは暗黒の勇者の死によって暗黒物質が暴走し魔王を生み出してしまったことだ。魔王は誕生と共に多くの魔族を引き連れて魔界へと旅立ち、人間の進入を拒むために人間界と魔界の門をかたく閉ざした。今なお魔王は倒されていない。

 元々、魔族は忌み嫌われるような存在ではあったが魔王の誕生によりそれはより顕著になっていったらしい。


「これらがここ最近の歴史です」

「なるほどね、そんなことがあったんだ。それで、その歴史と戦争がどう繋がってくるの?」

「歴史でもあったとおり魔族というのはそれだけで忌み嫌われる存在となっているのが現状です。しかし、私たちの国では人と魔族が共に歩んできました。国民の中には魔族の方もいらっしゃいますが、それをよしとしない人たちもいます。それが今回戦争をしかけてきた隣国のハーモ二アという国の王です」

 色々と繋がってきたが、俺の中には一つの疑問が生まれた。

「事情は少しずつ分かってきたけど、そもそもなんで魔族はそんな迫害されるようなことになってるの?」

「それはおそらく、魔族は人間よりも強いからだと思います。特に、人間と魔物の血が半々で入ったハーフは互いの血が共鳴し合うのかとてつもない力を持つそうです。ハーモニアの王はそれらを恐れているのでしょう。もっとも、人間界と魔界の繋がりが絶たれて百年以上も経っていて魔族の血はどんどん薄くなり、純血の魔族は人間界にはもう存在せず、そのハーフというのも生まれるはずはないんですけどね」

 そんな風に話す彼女の顔は物憂げな感じであった。

 大体の事情はおおかたつかめた。思っていたとおり彼女の国は戦争をしかけられた側だ。魔族の迫害・・・、世の中にはよくわからないこともあるものだと感じて俺は腕を組んで馬車の天井を見上げる。

「もしも、戦争に負けたらどうなる?」

 ノエルはその質問をされると顔を俯かせてしまったが答えてくれた。

「恐らく、多くはハーモニアの捕虜となり死ぬまで奴隷のように働かされるでしょう。魔族の血が入っている分、普通の人間よりも腕力がある人も多いです。ハーモニアの最大の狙いはそれでしょう。そして,,,,」

 彼女は一度息を整えたあと、消え入りそうな声で続きを話し始めた

「私は、殺されてしまうでしょう」

「どうして!!」

 彼女の言葉に俺は思わず身を乗り出してしまった。

「実は私は、ニルの国の次期女王なんです。戦争に負けてしまったら王族の者は見せしめに殺されてしまうでしょう」

 残酷な現実を突きつけられる。そしてその現実を受け入れようと自分に言い聞かせるように話している目の前の少女のことがたまらなく愛おしく感じられる。

 俺と同じくらい、いや、もしかしたら俺よりも歳が下くらいのようにも思える少女が今、運命に抗おうと戦っている。そして、いるのかも分からない暗黒の守護者を探すためにこんな森まで一人で来た。

 彼女は自分の命よりも国民を守ってほしいと最初に俺に言った。自分の命がかかっているのにだ。

「俺は、絶対に君のことを守ってみせるよ」

 不意にそう言われてノエルは目を丸くして顔が赤くなってしまう。

「それと、もう一つ質問。戦争を回避する方法ってないのかな」

 戦争を回避、それはノエルにとって今まで考えてもこなかったことだ。

「戦争を回避することは今まで考えてはいませんでした」

「それなら、戦争が回避できないかもこれから考えていこう。もちろん、戦争になったらちゃんと戦うけど」

「あの、どうして戦争を回避しようと考えているのですか?」

 俺の発言に対してノエルは多少困惑しているようだったが、俺は構わずに続ける。

「戦争が始めたら多くの人が犠牲になる。ノエル、君は君の国の人たちをとても大切に思っているだろ?。だとしたら、犠牲になる人は少ない方が良い。俺は君にも、君が大切に思っている人たちのことも生きていて欲しいって思ってるんだ」 

 ノエルはその言葉に涙が溢れそうになり、両手で顔を覆った。皆に生きていて欲しい、それはノエル自身が一番に願っていたことだった。しかし無謀であると諦めていた。

 目の前の人はその無謀と思って切り捨てていたノエルの願いを現実にしたいと言っている。その言葉がどれだけノエルの心を安心させ元気づけているのかはユニにはきっと届かない。

 ノエルの様子を見て俺は焦ってしまう。泣きそうになっている彼女を見て何か悲しませることを言ってしまったのではないかと真剣に考える。

「ごめん、俺なんか変なこと言ったかな」

 ノエルは無言で顔を横に振ると、目が少し赤くなった顔をまっすぐにこちらに向ける。窓からの光の加減も相まってその顔はとても美しく見えた。

「ユニ君、お願い、私たちの国を救うために一緒に戦って」

 そう言うと彼女は手を差し伸べてきた。小さくて綺麗な手だ。

「もちろんだよ」

 俺は差し伸べられた手を握った。

 

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