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彼女を奪われた僕が不幸になるとも限らない

サクッと終了です

もともと短編だったのを伸ばした物なので色々と簡略ではありますが、読んで頂き有難う御座いました


あれから、約10年が経った。





「んぐ!や、めろ!もう、嫌だぁぁぁぁ!ん、っほぉ!?」



目の前で行われる、猿と猿の交尾。

男の方は、勇者。

女の方は・・・なんだっけ、賢者、だったっけ?

あの頃は少女だったが、今ではすっかり大人の体だ。



勇者は絶頂に悶える一方、女の方は澱んだ目で、ただただ涙を流している。

機械的に行われる種蒔きへ、もはや絶望しているのだろう。



『終わりました、アグリカ様』


『ありがとう。少し間をおいて着床してなかったら、またよろしくお願いします』


『はい。妊娠した場合は出産後、プラントへ』


『では、男はいつもの処置をして、冷凍します』


部下が、賢者を自室へと連れていく。

最初の頃はこちらを射殺さんばかりに睨んでいたが、今ではその徒労を理解しているようだ。



「・・・おい」



僕が作業をまとめていると、勇者から声がかかる。

この男も、すっかりおとなしくなったもんだ。



「なぁ、もう許してくれ。悪かったよぉ・・・反省し」


『僕に貴方を許す許さないの権限はないので』


「・・・ぐっ、もう、嫌なんだよぉ!全然時間が経たないんだ、気が狂っちまう!」


『仮に僕が許しても、貴方が女を寝取り傷つけた人達は許さないでしょうから、無理かと』


「たす、けてくれよ!なぁ!なあぁぁ!」


なお縋ろうとし始める勇者を部下達が抑え込み、いつも通りの処置をし始めた。

栄養ドリンク、たんぱく質、睡眠薬・・・多くの薬品が、彼の体へと投与される。

口うるさくこちらを罵る声が次第に弱くなり、勇者は夢の世界へと旅立った。


この後、少しの時間をおいて、彼は冷凍される。

そのせいで、彼に限っては10年前のあの頃のままの姿だ。


楽には死ねない…というより、死ねるんだろうか?

まぁ、下半身だけは立派なので、せいぜい勇者として頑張って貰いたいものだ。

起きては種を蒔いて、の繰り返しで、本人には天国だろうからね。




「いやぁぁぁあぁぁ!もう連れて行かないでぇ!私の、子供返してぇぇぇぇ!」


「ママァー!やだよぉ!やだやだやだぁぁぁ!」




遠くから、女と子供の声が響いてきた。

そうか、今日は出荷が2件あったな。



『では、僕は次へ向かいます』


『はい、後はお任せください』



部下へと頭を下げ、僕は元ホーロビル王国王城・・・現魔王城の中を、彷徨いだした。

途中多くの魔族が頭を下げてくるが、慣れない僕は反射的に、同じく頭を下げてしまう。



(さて、僕の担当はアイツ、か)




僕はふと、ガラスに映った自分を見た。



花崗岩を思わせる肌。

漆黒の目と、髪。

髪は長い為、中央で二つに分け、それぞれ耳の横で括り垂らしている。

昔の僕の面影はあるが、その姿や力は、もはや人間では無い。


数年前、魔王イノウエ様のお願いにより、僕は魔族になった。

正確には、僕達、村の住民全員だ。


僕の種族名はアラハバキという、土属性魔法に特化した体だ。

超硬質の土を纏え、手の形状を自由に変える事ができる。

中でもドリルという螺旋状の武器は、農作業にも適している。

足も変化させればドリルが二倍、浪漫も二倍だ。



人間だった頃僕が提案したのは、勇者を種、女達の体を畑とした、勇者と女達の血肉の生産だ。


勇者は種として冷凍し、必要な時にその種を蒔く。

女達は食べるとそこで終わりの為、勇者との子を産ませ育てさせる。

そして育った子供が収穫され、人肉を好む魔族へと献上される仕組みだ。


なお、人間の子供は成長が遅いため、出産後はヴォラシャスさんが管理する『プラント』である程度成長促進され、夫々の母親の下へと返され、愛を持って育てられる。


自分でもこんな案を出したのは引いたが、食歴のある魔族からは大絶賛だ。

なんでも、食べた後は能力が上がるらしい。

まぁ、腐っても勇者と優秀な女の血、ってところだろうか。


一応、人肉を食する魔族の為に、勇者以外の人間を使っての生産も始まっている。

使われているのは、以前の戦争で戦犯とされた、王族や教会の連中だ。



薄暗い廊下の先。

戦争の爪痕がそのまま残る扉をノックし、僕は一つの部屋へと入る。



『失礼するよ』


「あら、そう…もう、そんな時期なのね」



部屋の中央に鎮座する、王族が使っていた瀟洒なベッド。

スヤスヤと眠る、見た目が12歳程の少女を優しくなでる、ふくよかな女性。

彼女が…バズレーだ。


見た目は変わった…そう、見た目は、だ。

この女も最初の頃は半狂乱に喚いていたが、ある日を境に動じなくなった。

本人曰く「結局は死ぬ運命とは言え、子供を産み、育てる幸せはあるから・・・」らしいが、ね。


この作物は、良い環境で育つと美味しくなる。

その為、彼女達は特別待遇となっている。

それが幸せかどうかは、女性である彼女達にしかわからないけど。



『収穫をさせて貰うよ』


「えぇ、わかったわ。今起こすから待っててね。起きなさい、リマン」



バズレーが女の子…リマンを、やさしく起こす。

その間に、僕の部下が彼女の周りへと陣取った。

勇者の金色の髪を引き継いだ、血の濃そうな作物だ。

あぁでも小さい頃のバズレーそっくりだから、あまり触れたくないな。



「んー・・・、なぁに、お母様」


「リマン、今日でお別れなの・・・ごめんね」


「ぇ・・・?」



少女が、目を見開く。

周りを囲む部下を見まわし、最愛の人から告げられた言葉が嘘ではないと察したのだろう。


少女が母に飛び付く前に、僕は少女を引き寄せ、所謂お姫様抱っこをする。

いつもと違う収穫にバズレーは少し首を傾げたが、いつも通りに悲劇のヒロインを顔へと張り付けた。



「ごめんなさいリマン、母さんが行けないの!魔王様たちに歯向かったから・・・ごめんなさいね!」


「ん!下ろしてよ!っく!…お母様!私は、どうなるの!?」


「行けばわかります、あぁ、愚かな母さんを許してね!…うう!」


「そんな!お母様!嫌!行きたくない!下ろしてよ!下ろしてぇぇ!」



知らない人が見れば、お涙頂戴だろう。

だが、彼女の本質を知ってる僕達は、ただただ白け、収穫を開始する。



『では、今日からこの娘が、この部屋を使う事となる』




「・・・ ・・・ ・・・え?」



呆けるバズレーへ、部下が蔦を飛ばした。

瞬時に蔦に拘束され、バズレーは豚のような声を発する。



「ちょっとアグリカ!どういう事よ!なんで、私が!」


『味が落ちてるらしくてね、畑が悪いと判断して、変える事にしたんだ』



人は、延々と子供を産む事はできない。

年齢もあるが、産みすぎるとやはり体は弱まり、品質が落ちていく。



『今日からこの娘・・・リマンが畑になる。今から何故こうなったのか昔話を聞かせるさ』



「そ、そうなのね・・・解ったわ」



理由を説明すると、バズレーは落ち着きを取り戻し、再び柔和な笑みを浮かべる。

あぁ、これはきっと勘違いしているんだな。






『だから、君を収穫するんだよ』



「・・・え?」



『もしかして、これで解放されるとでも思ったのかい?君は今から、寄生型植物魔族の宿主になるんだ』




バズレーの顔に、恐怖がにじみ出る。

寄生型植物魔族の宿主は、一言でいえば悲惨だ。

魔力を餌に吸われ、止まない痛みがずっと続く。

寄生する側も勝手知ったるで、宿主の魔力を吸い尽くさぬようにする。

ただ、勇者と違って、寿命で死ぬ事ができるのが救いかも知れない、な。



「い、嫌よ!なんでよ!私、一所懸命子供産んで育てたじゃない!助かるために、我慢して育ててきたのに!」


『あぁ、やっぱ本音はそれか。まぁ、解っていたけどね』



大抵の勇者ハーレムは、すでに諦め、心が死んでいる。

その絶望の中で、いつかは離れる運命ながらも、子供という心の拠り所に縋っている状態だ。


だけど、この女は違う。

子供を産んで育てれば、自分だけは嫌な思いをしない。

この女にとっての子供は、嫌な事を全部引き受けてくれる生贄なのだ。

そして、時が来れば許されると・・・甘い考えを持っていたようだ。



『じゃあ、お手数だけど、ヴォラシャスさんのプラントへ連れて行って下さい』


『ははっ!』



部下達が、バズレーを担ぎ上げる。

後はヴォラシャスさんに任せるとしよう。

僕はこの娘・・・リマンに、これからの事を説明しなきゃいけないしね。



「いやぁぁぁぁぁぁ!嫌よ!ずっと我慢してきたのに!なんでよぉ!ねぇ、助けてよアグリカ!なんで私だけこんな目にあうの!私、全然満たされてない!全然幸せになっでいない!こんなのあんまりよぉ!どうしてよぉぉぉ!」






『君が選んだ結果だよ』






あの時、君が僕を選んでくれていれば・・・どうなってたのかな。

ただ、もはや彼女と共に生きたであろう未来が、想像できないや。



離れていくバズレーの狂声に、僕は泣きじゃくるリマンを、優しく撫でた。




■ □ ■ □ ■ □




『ウェーイ、アグリカっち!お疲れちゃーん!』



イノウエ様の弾ける声に、僕は苦笑を浮かべ頷く。

今日は、新商品や新料理のお披露目会だ。




『アグリカ、これはこっちでいいのかな?』


『頼まれてた奴、作ってきたぜ』


『有難う御座います、神父様、先生』



いつもの面子が、皆の目に入るよう、新商品を並べだす。


神父様は悪魔神官となり、邪神を崇めるようになった。

先生は、悪霊使いとなり、呪術方面へ医療を進化させている。


もちろん、2人とも・・・いや、村の皆が納得した結果だ。

人から見れば裏切りだろうが、先に裏切ったのはあちらだからね。




『陛下、夫が丹精込めて作りだした品ですわ。ショーユと、ミソです』


『マジで!?うはー、ダイズからやっと出来上がったか!ヒシオベースだった料理が倍プッシュで美味くなるぜ!』



歓喜するイノウエ様の横では、妻となったヴォラシャスさんが、にこやかに微笑んでいる。

こちらをチラリと見ると、はにかむ様に、蔦を挙げた。


一年前、僕は彼女と結婚した。

格差という壁があったが、二人で何とか乗り越えていけている。

というか、食糧事情を改善した僕は、それなりの地位があるようだった。



イノウエ様統治の下、魔族領はホーロビル王国の領地を吸収し、大きくなった。

当分は周りの人間国とは事を構えず、交流を持とうとしているようだ。

僕達が作った食糧か加工品も売れるし、傭兵業も可能だからね。




『くぅーーーー!ぅんめー!コレだよコレ!かぁぁぁぁぁ!パネぇ!・・・ヴォラちゃん、アグリカっち!プラント拡大ね、コレ決定!』



『陛下、今はオサケとナットウの製造でそれどころでは・・・』


『いいよ、ヴォラシャスさん。少し余裕ができては来てたし、頑張るよ』


『そう言って体を壊しそうになったのは何方かしら?あの時、私がどれだけ心配したか・・・』


『ご、ごめん!だからさ、今回はそうならない様に、一緒に仕事をして欲しいんだ』



あぁ、愛されてるな、と。

僕は嬉しくなり、ヴォラシャスさんの蔦を指へと絡ませる。


彼女と僕との愛の結晶は、聖女・・・バズレーに寄生し、日々成長しているようだ。

腐っても聖女である魔力は、僕達の子供を力強く育ててくれている。

あの女の声は煩いが、僕を父さんと呼んでくれる小さな命が、ただただ愛おしい。




(幸せ、だなぁ)




あの時、勇者に彼女を奪われたが。


奪われたからこそ、今の幸せがあると。



皆の笑顔が零れるこの地で、そう思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 家畜化してて草
[気になる点] 親の方はどうなろうといいが食うために子供産ませてっていうのはなぁ。 まぁそっちは創作の中なのでいいですが、感想欄でスッキリしたとかザマァとか言ってる人たちにドン引きですわ。
[良い点] マジ最高のハッピーエンドですわ。 勇者はクズ、聖女は物欲で救いようなかったし、王国側は開戦のきっかけは勇者が魔族の村を襲うとかありえないし食人とか抜きにすれば見てるこっちが魔族に同情するレ…
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