勇者に奪われた彼女が幸せになるとは限らない
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勇者捕縛。
鳥達の音色が流れる、青い空の下。
ヴォラシャス様の連絡に、僕達は一瞬呆けてしまった。
早熟に品種改良されたコメを収穫していた皆の手が、止まっている。
「えっと、ヴォラシャス様、もう一度・・・」
『いや、信じられぬも無理は無いと思いますわ。えぇと』
『ウェーイ、その件については、俺から説明させてもらいまーす』
ヴォラシャス様の横の空間が歪み、黒い影がゾルリと人型に侵食する。
金色の髪、陽に焼けた肌、ジャラジャラと荘厳な音を立てる装飾品。
ガイアの囁き、という神具に身を包んだ男性が、その圧倒的存在感と共に現れた。
「へ、陛下!」
『イノウエ様!?』
『おおっと、そのままでいいよー。農作業中にごめんなー』
跪こうとする僕達に、イノウエ様は待ったをかけた。
大抵の権力者であればそれは口先だけの寛容誇示だが、イノウエ様は別だ。
この方は、僕達・・・だけで無く、同じ魔族からでも畏まられるのが、苦手らしい。
僕達が頭を上げると、イノウエ様は満足げに頷き、日焼けした指をパチンと鳴らす。
すると、僕達の目の前に、見た事ある風景が映し出された。
んん?ここは・・・。
『ココなー、アグリカっちに超巨大落とし穴掘って貰ったトコな』
そうだった。
あの女達がまた進軍してきた際、少しでも遅延できればと、軍隊・・・ある程度の重さが乗れば発動する罠を仕掛けたんだった。
『これ、ちょっと前の映像なワケ。とりまそのまま見ちゃってよ』
イノウエ様の出した映像を見ていると、大勢の兵士達が映り出す。
先頭には勇者と、あの女を含む約100名近い女達。
全員馬車や神輿に乗っており、兵士への負担がすごそうだ。
・・・って、あれ?
もしかしてそのまま進むのか?
罠、あるのに気づいてないのか?
勇者なのに?
周りに、優秀な部下多そうなのに?
「・・・嘘でしょ?」
僕がそう口に出した瞬間、映像の中の勇者達が、まとめて落とし穴へと落ちて行った。
大きな音と煙が上がり、勇者一行が深い穴の中で蠢いている。
後続の兵士達が助けようとするも時間がかかり、その間に魔族が周りを包囲していた。
『王都に放ってた密偵からさ、勇者達がココに攻め込む聞いたんよ。んで、カきゅー的速やかに駆け付けたらこうなってたワケ』
イノウエ様の言葉に重なるように、小さな地響きが聞こえだす。
この音は魔族が好んで乗る大型魔獣の足音だな。
『マジわりーけど、ちょい勇者達をこの村に置かせて貰うわ。あぁ、アイツ等拘束してるからノープログラムよ』
「は、はぁ・・・。でしたら、旧村区画の広場が丁度良いかも知れません。皆に近づかぬよう伝えます」
『しくよろー!あと、幹部3人もくるんで接待の準備もヨロ!ヴォラちゃんはこっちなー』
『畏まりましたわ!アグリカ、後は頼みましたわよ!』
そう言い残し、イノウエ様とヴォラシャス様が、闇へと消えて行った。
正直僕は、唖然とするしかない。
「あっけ無さ過ぎる・・・」
僕の声に、周りの皆も首肯する。
勇者とその周りが捕縛されたという事は、王国にまともな戦力は無いという事だ。
つまり、戦争が終わる、て事か。
『・・・これ、アグリカの功績、って事になるんだよナ?』
『勇者とその仲間を落とし穴に落とす、大手柄じゃないの?』
「・・・え?いや、そうはならないでしょう!?」
この村に住み、農作業を手伝ってくれる魔族の声に、僕は頭を振った。
いやいや、命懸けで戦ってる魔族軍の人に、それはその・・・アレだろう。
「・・・アグリカ、会いに行っても良いんだぞ」
「こっちは俺達に任せとけよ、最後かも知れねぇしな」
「いえ、大丈夫です。皆で準備をしましょう」
神父様とデスゼ先生の気遣いは嬉しいが、どうなんだろうなぁ。
やはり、あの女・・・バズレーに会いたいって気がしない。
ただ、色んなものを捨ててまで手に入れた彼女の幸せが、終わる。
そう考えると、少し可哀そうだな、と思ってしまった。
□ □ □ ■ ■ ■
黒い檻に、採れたてのアスパラのように詰め込まれた王国の人々。
絶望に顔を歪めながらも、その口からは勇者達への怨嗟が溢れている。
(勇者、人望無かったんだな・・・)
ヴォラシャス様以外の幹部3名を迎え入れる準備をしていた僕だったが、イノウエ様より招集があった。
それで、あまり見たくはなかったが、王国兵が置かれているここへとやってきたのだ。
「ん・・・?」
前方に、魔族の方々が垣根を作っている。
そこには興奮が膨らみ、熱気で空気が震えている様だ。
僕が近づくと、気付いた魔族の方々が何故か道を開けてくれる。
平民なんぞの僕に何故、と戸惑うも、無言で前に進むよう促された。
(イノウエ様、・・・と、勇者!?)
皆が歓声を上げ見守る熱狂の中心で、イノウエ様と勇者が対峙していた。
そして離れた所には、ヴォラシャス様をはじめとした四天王。
その横には黒色の檻が置かれ、勇者のハーレムであろう女達がぎゅうぎゅうに押し込まれている。
「ゼッゲン様勝ってぇぇぇ!」
「勝てば解放、負けたら・・・ううう、いやぁぁぁ!」
「アンタのせいなんだから絶対に勝てよ!勝たないと殺す!」
「アレが勝てるわけないじゃない、私達もうおしまいよ・・・」
何となく察した。
どういう流れでこうなったか解んないけど、一騎打ちして、勇者が勝てば解放されるのか。
だけど、もう結果解ってるだろうなぁ。
勇者、真っ青な顔でカクカク体震えてるし。
ふと、イノウエ様がこちらを向き、Vサインを作った右手を高々と上げた。
『イェーイ!アグリカっち見てるぅ?今からアグリカっちの大事なモノを奪った勇者を、ぶっ飛ばしちゃいまーす!』
「くそがぁ!ふざやがって!俺は勇者だ!全てを手に入れるのは当たり前だろう!」
『そりゃ恋愛は自由だよ。んだけど相手がいる女に手を出して育まれた愛を壊すなっての!てめーが傷付けた奴らに謝罪しろオラ!』
聖剣を片手に、勇者がヤケクソ気味にイノウエ様へと斬りかかる。
イノウエ様はソレをいとも簡単に躱し、右手に黒い瘴気を集め、勇者の腹部へと鋭く放った。
『メンズナッコゥ!』
「ぐっ、ぎぇえええええええええええええええええええええ!?」
湧き上がる歓声の中に、轟音。
勇者は吹き飛ばされ、ハーレム連中が押し込まれた檻へと激突する。
・・・ぴくぴく動いてるから、死んではいないと思うけど。
「ちょっ、何負けてんのよゼッゲン!起きてよ!起きなさいよ!」
「勇者様、嘘、ですよね?回復を・・・あ、あれ?魔法が発動しない!?」
「この檻のせいみたいよ。ぁーぁ、私も終わりか・・・この雑魚勇者が!」
「ごめんなさい貴方・・・、私がバカでした、ごめんなさい・・・」
酷い事言われてるな。
まぁ、自分達の運命が決まったから、無理も無いか。
『いきなり呼び出してマジごめんな、アグリカっち。あと、すまん!アグリカっちの手柄横取りしちまった』
「あ、あぁ、成程。そのための決闘だったんですね」
先程皆が言ってたけど、やっぱり今回のは僕の手柄と言う認識になってしまう。
そうなると、まぁ、いろいろと問題が発生してしまう。
そこで、皆の前でイノウエ様が勇者を制し、イノウエ様がやはり強いという事にしたんだろう。
それよりも・・・、イノウエ様が、僕の為に勇者をぶっ飛ばしてくれた事に、胸が震えた。
「勿論、文句などありません。むしろ、・・・その、有難う御座います」
『皆から昔話聞いたんだわ。今はそーでもねーけど、アグリカっちの目、闇に落ちそうだったからな。・・・頑張ったな』
イノウエ様の声に、涙が出そうになる。
僕如きが受けた不幸を、魔王様が慰めてくれるのだから。
『なぁ、アグリカっち。とりま魔族になってみる気ある?黒魔術でパパッ、てさ』
「へ、は、はい?」
『俺さ、アグリカっちの育てる奴ないともう無理そうなんだわ。あと、ヴォラちゃんも胃袋掴まれちまってるようだし?』
『あ、ちょっ、陛下!?なななな、何を!』
何時の間にか僕の横に居たヴォラシャス様が、見た事も無いほどに慌てだす。
・・・ん、つまり、そういう、意味だよね?
僕が失礼にもヴォラシャス様を見つめると、緑色の肌に、青みが濃くなっていく。
・・・いや、もしそれが事実でも、恐れ多いじゃないか!
『まぁ、考えてみてちょーだいな。さーて、あとはこいつ等の後始末だわな』
イノウエ様達が、気を失った勇者と、檻の中の有象無象をめんどくさそうに睨んだ。
「ま、魔王様!私、降伏します!助けてくだ、さい!」
「僕も!魔王様、その、僕の体で良ければ、好きにしていいですから!」
「貴方の奴隷になります!命だけは!命だけはぁぁ!」
『てめーらのせいで大勢の仲間死んじまったから、許すのはねーわ。あと、俺、今のハニー一筋だから』
ふと、バズレーと目が合ってしまった。
ずっとここに居たのに、今頃気付いたようだ。
「ア、アグリカ!お願いよ助けて!私、クズ勇者に騙されてたの!あの時は、ああしないと殺すって脅されてたの!ねぇ!アグリカ!まだ、私の事好きなんでしょ?ちょっと遅くなったけど、一緒になりましょ!その・・・処女じゃないし、体にいろんな彫り物もあるけど、心は貴方だけのモノよ!ね?ね?」
僕はあえて無視し、頭を振った。
こちらを見たヴォラシャス様が眉を顰めているが、大丈夫ですと呟く。
『女共は、元の相手に会わせるか。んで、許して貰ったら条件付きで解放、ダメだったら・・・んー』
『問題はいたって簡単!全員斬り捨てればよいでござる!』
『それは愚策よ。わが主、勇者は殺してしまうと、また新しい勇者が生まれてしまうそうです』
『おで、女共を喰いだい!うまぞぉだぁ~』
『寄生型の部下にも良い養分になりそうですわねぇ』
イノウエ様と四天王が協議するが、どうも結論がでない様だ。
ふと、イノウエ様と目が合う。
『アグリカっち、何か良い案、ねぇ?』
僕が、口を出してもいいんだろうか?
だけど、一応・・・生産者側としての案は浮かんでいる。
「勇者を殺さず、あと、女達を食べたいって事ですよね。でしたら・・・」
僕の案に、魔族の皆さんは若干引き、バズレー達はより深い絶望を張り付けだした。
『はっはっは、アグリカっちマジやべー!でもま、それでいいかな?』
イノウエ様の声に、四天王の方々が同意する。
まぁ自分でも、ちょっとアレだと思ったけど、さ。
「アグリカ・・・冗談だよね?嘘よね?待ってよ!嫌よ私は!ねぇ!」
「バズレーの元恋人さん!私、貴方に尽くしますから!助けて下さい!」
「あの人が許してくれたら生き残れるけど、無理よね・・・あんな事したんだもん」
「私もだけど土下座でも何でもして許して貰わないと!じゃないと、私・・・」
さて、皆さんを歓待する準備に、とりかかろう。




