勇者(笑)
「勇者様!東部方面、押されています!」
「西部方面も抑えきれません!」
「北部方面は均衡を保っていますが、物資が不足しています!」
くそっ!
何で皆頑張って魔族を抑え込まないんだ!
俺だって一所懸命やってるんだ、皆だってそうすべきだろう!?
勇者と言う絶大な力を持つ身であるが、俺はいつだって、努力してきた。
そりゃあ、初戦である赤狼との戦いは完敗だったさ。
でも、「一人ではなく皆の力で立ち向かう」事を学んだんだ。
それからは、父に雇われた傭兵と共に自己鍛錬を始めた。
傭兵達が壁になってくれている間に、勇者である力をドーン、だ!
これだけで、大抵の敵は消えて行ったよ。
傭兵の消耗は激しかったが、勇者である俺の為に死んだんだ。
その名誉を、ぜひ神の下で自慢して欲しい。
そして、運命の日。
勇者として名声を高める俺は、王様と教皇様から招集された。
魔族への侵攻。
魔族の国は資源に溢れてる。
また、獣人等の魔族を奴隷として使役できれば、この王国は永遠の繫栄が約束される。
だけど、魔族は個々の戦闘力が強い上に魔王の下で結束する厄介な奴らだ。
故に、彼らは俺に聞いてきたんだ。
「魔族を殲滅できるか」って。
俺は勿論、できるって答えたよ!
だってそうだろ?
俺は勇者だ!
この勇者の力は、この日の為にあったんだと!
この日から俺の名前が未来永劫語り継がれると!
そう思ったよ!
まぁそれでも俺は慎重だからね。
まずは、魔族の住む小さい村を襲った。
勇者の力がどこまで通じるのか・・・ちょとした不安はあったんだ。
でも、それは杞憂だった。
俺の勇者の力は、魔族なんかあっという間に殲滅できたよ。
あぁその時、魔族の餓鬼が俺に石を投げて来てね、ケガした。
俺達は「魔族から攻撃をして来た」って事にして、戦争をおっぱじめたのさ。
んで、先ほども言ったように、俺は、一人ではなく皆の力で立ち向かうのが大事だと解っている。
その為、有力な兵士・・・特に女性を集めるようにお願いした。
男性と共に戦うより、女性との方がやる気も出るし、華々しい。
戦いで昂った性欲も解消できるから、当たり前だよな。
俺の下に集った女性は、実に素晴らしい連中だった。
聖女、弓姫、剣聖、賢者、寿司職人、盗賊、鍛冶屋・・・勇者である僕に相応しい人材ばかりだったよ。
俺は彼女達を自分のモノにする事を、躊躇わなかった。
金銭や宝石で堕ちる女。
俺の横と言う価値に堕ちる女。
絶倫近い俺との夜の営みに堕ちる女。
ワザとピンチに陥らせ、そこを救い、俺自身へと堕ちる女。
俺の下に集った女は、全員俺の者になった。
まぁ、少しマンネリ化したので、その女達の恋人や旦那に見せつける遊びはやったけどな。
アイツ等の絶望に陥る顔、面白かったなあ。
そんな、勇者である俺の力が疑われている。
原因は、足を引っ張るクソ共だ。
俺が詰めた計画にかかわる貴族や兵士を、政敵という理由で排除しやがった。
計画が失敗するのも当たり前だろう?
しかも・・・しかもだ、その足を引っ張った奴らは、俺が目をかけてやっていた連中だ。
そいつらを罰したら、人を見る目が無いって悪評が付いてしまうだろ?
結果として、前線で戦った兵士が弱かったという事にしたが・・・俺の力に疑問を持つ奴らが増えたのは、頂けない。
俺ならやれたんだ!
俺の足を引っ張る奴らが、邪魔をしたんだ!
「勇者様?」
「ん、いや、何でもない」
参謀の声に俺は苛立ちながらも、表面は穏やかに頷く。
勇者と言うイメージを壊すわけにはいかないからな。
「南部方面は落ち着いてるか。・・・バズレーとメキシの様子はどうだい?」
「はっ!お2人は養生も終え、再度南部へ進軍する意向を見せております!」
バズレーが逃げ出した時は、まぁ一人くらいはいいかと思った。
アイツだけは、金品に執着する度合いが酷かったからな。
だがまぁ、そんな女が俺に媚び諂うという行動は、俺の自尊心を満たしてくれる。
今回の件で許してやろうと考えたが・・・なんてざまだ。
「それで、その・・・バズレー様が、勇者様についてきて欲しい、と」
「ふむ・・・」
たしかバズレーが育った村が、魔族に降伏した、だったな。
魔族に降伏したら酷い目に合う、と公告してる現状で、魔族に下った方が安全と言う話が広がるのは、まずい。
ここは解放するふりをして、口封じの為に村人も殺すか。
そしてそれを魔族のせいにして、魔族の残虐さをアピールするのに丁度いいな!
「解った、明日にでも出発しよう!準備をしてくれ!」
「お、お待ちください勇者様!」
「何だ?」
折角やる気になった俺を止める参謀を、軽く睨みつける。
「南方より、東方か西方で戦って下さい!兵士が皆、疲弊しております!」
「それが兵士の仕事だろう?第一、敵が多い場所に行って俺が負傷したらどうなるんだ?」
「ゆ、勇者様の力を使えば、多くの兵が助かるのです!」
「俺が負傷して戦えなくなった方がより多くの命が失われる!少しでも敵兵を減らせと伝えろ」
別に怖いわけではない。
負けが続いたのは俺のせいではなく、兵士達が使えないからだ。
決して、怖いわけではない!
「それに、魔族に占領された村を解放した事は、多くの兵に希望を与える事だろう」
この状況を打破する為に、少しでも明るい報告は必要だからな!
あの村には四天王の一匹がいるらしいが、寒村一つに籠ってるならば大きな戦力では無いだう。
いつも通り、皆が雑魚を抑えてる間に俺が敵大将を討ち取れば良い。
「・・・解りました、その代わりと言っては何ですが、物資を送らせて下さい」
「物資に余裕はない、何とかしろと伝えろ」
「勇者様、兵だけではありません、民も皆、飢えております」
「ならば借金してでも買えばいい。それか商人から徴収しろ」
「・・・戦後を考えるとやるべきではありません。勇者様、婚約者様方に宝石類を手放すよう、お願いして頂けませんか」
「・・・なんだとぉ?」
「あれらを売れば、多くの物資を購入できます!それだけで、戦線は維持できぐぁっ!?」
俺はとんでもない事を言い出す参謀を、殴りつけた。
血を歯を零しながら、参謀は床へと倒れ込み、痙攣で震えだす。
「馬鹿を言うな!あれらは俺が送ったモノだ!今更返せとか、俺の!勇者である俺の器が疑われるだろ!」
それに、暗に、お前が宝石類を買ったから物資が無いんだと言われた気がした。
ムカつくな!
俺がまるで、後先考えない無能みたいな言い方じゃなか!
「彼女達の士気が下がれば、戦線にも響く!二度と馬鹿な事を言うな!」
「そもそも、戦場にすら行かねーだろ」
ボソリ、と。
参謀を介抱する兵士が呟いた。
俺が殴りかかろうとするも、その声は室内へと広がっていく。
「だったら、あの女達も出撃させろよ」
「皆が命かけて戦ってるのに、ココで食っちゃ寝してるだけじゃないか」
「しかも毎夜毎夜ギシギシアンアンしやがって、うっせーんだよ」
「第一、勇者であるお前が何でここにいるんだ」
「政治とかわかんねーくせに、為政者気どりしやがって」
「お前達の一日の食事で、国民1000人が飢えずに済むんだよタダ飯ぐらいが!」
「てめーの為に死んだ兵士が、可哀そうだ」
「戦場では、優勢の時しか戦わない腰抜けが」
「戦うのが怖いのか?」
うっ・・・。
「っるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!そもそもお前達が無能で使えねーから負けてるんだろうがぁぁぁ!お前達が足引っ張るから勇者である俺の名前に傷がはいりやがるんだよぉ!お前ら全員前線送りだ!全員俺の為に、その身を壁にして死にやがれぇぇぇ!ざまぁぁぁぁぁみろぉぉぉぉぉおおおおお!」
畜生!
どいつもこいつも!
こうなったらあの村で魔族を完膚なきまでに虐殺してやる!
【徒長婦人】を魔族の前で犯してやるのも楽しいかも知れんな!
俺に逆らったらどうなるか、女共にも見せつけねば・・・!
よし、全員出撃だぁぁぁ!