聖女2
<ホーロビル王国聖女 バズレー=ビッチァ 視点>
ショキノ村。
数年ぶりの故郷ではあるが、嬉しくもなんとも無い。
土臭い空気。
センスの欠片も無い掘っ立て小屋。
質の低い文化。
距離感を考えない人々。
そして、過去の私を知る存在。
ほんと、嫌なモノばかりだ。
私は御者に口止め料込みのお金を渡し、村へと入る。
すると、まるで待っていたかのように懐かしい人が姿を現した。
「本当に来おったか」
「神父、様・・・?」
カッパヘア神父様は、無表情に私を見下ろす。
ううん、神父様だけじゃない。
デスゼ先生他、老若男女な村の人全員が、私を囲みだした。
「な、何よ・・・」
皆の不気味さに、少しだけ気圧されてしまう。
だけど、この位、死地をかいくぐってきた私なら!
「見捨てた村に、何しに来た?」
「見捨てたって、何です・・・、何よ!」
デスゼ先生が私を睨みつけ、言葉を零した。
だけど、言ってる意味が解らない。
「我々からの手紙、読んだであろう?」
「毎日のように鳥便で送ったのに、なぜ助けてくれなかった?」
手紙・・・?
あ、あぁ、アレの事か!
でも、あれは・・・。
「アグリカからのならあったけど、神父様達のはありませんでしたよ?」
侍女には、アグリカからのだけを始末するように言っていたはず。
彼らの言う事が、ますます解らない。
私が言葉を返すと、無表情に近かった皆の顔が、怒りに歪みだした。
「そうだ、アグリカが送ってくれてたのだ」
「読んだんだろ?ならどうして、何の反応も無かったんだ?」
「そ、それは・・・」
読まずに捨ててました、と言えるわけが無い。
皆の態度を見るに、とても重要な事が書いてあったと思う。
そ、そうだ、侍女が捨ててたって事にすればいいわね!
「実は、侍女が・・・」
「どうせ読まずに捨てていたんだろ?」
新しい足音。
目を向けると、見たくもない顔・・・アグリカが、いた。
って、あら、筋骨隆々で、少し、いや、かなり格好良くなってる!
・・・って、何こいつにときめいてるのよ、私!
「違・・・」
私は否定しようとする。
だけど、無表情のアグリカの目がとても暗くて、唇が、動かない。
「・・・思えば、僕の名前で出したのがダメだったのかな。村の名前で出すべきだったよ」
「だがよアグリカ、結果は変わらなかったと思うぜ」
「・・・かも、知れませんね」
デスゼ先生とアグリカが、深い溜息を吐いた。
何となく馬鹿にされた気がして、頭がカッとなる。
「何よ!手紙手紙って、どうせくだらない内容だったんでしょ?」
・・・ホント、何よ!
アグリカ以外の皆の顔が、一気に憎悪へと歪んだ。
歓迎は無理でも、少しくらいおかえりって言ってくれるのだと思ってたのに・・・ヒドイ!
「まぁ、そのお陰で今があるのだと思えばいいか。・・・聖女様、続きは集会所で」
「・・・大丈夫か?アグリカ。同席した方が良いか?」
「皆さんがいるので大丈夫ですよ、有難う御座います、神父様。皆は作業に戻って下さい」
村人が解散する中、アグリカが無言でついて来いと促す。
ついて行く義理は無いが、村の現状を知りたいから・・・ついて行くしかないか。
「・・・ ・・・ ・・・」
「・・・ ・・・ ・・・」
会話は、無い。
てっきり根掘り葉掘り聞いてくるもんだと思ってたのに、肩透かしだ。
(すっごく緑溢れてるわねぇ)
昔は土気色だった村内が、緑一色になっている。
ってか、規模がすっごく広がってる!
濃緑の木々、見た事も無い実を付けた果樹、葉に覆われた畑、正方形の田に詰まった黄金色の・・・麦?
風が吹けば、土よりもむせる様な青臭さが鼻腔を刺激する。
どっちにしろ、田舎臭くて嫌いな匂いだけどね。
あ、そうだった。
「ねぇアグリカ、あの時はごめんなさいね、こっちにも事情があったのよ」
「・・・ ・・・ ・・・」
とりあえず、傷を癒さなかった事は謝っておこう。
だけどアグリカは私からの謝罪を無視し、ただ歩くだけだ。
何よコイツ、陰湿になったわね。
「もう昔の事じゃない、なのにまだ根に持ってるの?もっと前向いて行きましょうよ」
「・・・ ・・・ ・・・」
相変わらず無視、か。
ほんと、女々しいわね。
こんなんじゃあ未だに童貞なんでしょうね、あーヤダヤダ。
まぁ、私も好き好んで会話したいわけじゃないし、いいか。
会話も無いまま進んでいくと、以前は村の敷地でなかった辺りに、大きな屋敷が出来ていた。
代官屋敷かしら?
レンガ造りなんだろうけど、蔦にびっしりと覆われている。
周りには・・・戦争用の物資があるけど、どこかの村と土地や水源めぐって戦ったのかしら?
あぁ、だから手紙をだしたのかな?
手伝ってとか、怪我人を癒してとか、そんなくだらない事が書いてあってのかな。
私達は魔族と命懸けで戦ってるのに、ほんと小さい奴ら。
「失礼します、ヴォラシャス様」
アグリカが先に入り、私を中へと促す。
何この家、中も蔦だらけ・・・。
『手間をかけさせて悪かったわね、アグリカ。その御方が聖女かしら?』
「えっ、・・・はぁ?ま、魔族!?」
妖艶な声。
目の前の壁に這っていた蔦がゾゾゾと動き、人型へとなっていく。
蔦が幕のように頭部へ上がると、薄緑色の女性が現れた。
蔦はそこからグルグル状態になり、腰まで伸びた縦ロールの様相を成す。
『お初にお目にかかりますわ、聖女様。私、ヴォラシャスと申します』
赤い瞳で、植物人間・・・ヴォラシャスが、私へ優雅なカーテシーを披露する。
って、それどころじゃない!
ヴォラシャスと言えば、【徒長婦人】の二つ名を持つ魔族四天王の一匹じゃない!
「なんで、ここに、魔族がいるのよ・・・!」
逃げるべきだ。
なのに、体中から汗が噴き出て、足が動かない。
「アグリカ!ほんっと陰湿ね!魔族に魂売って私に復讐なんて!」
その為に私をここまで連れて来るなんて、その労力を何か別のに使えばいいのに!
だが、当のアグリカは無表情だ。
私を見る黒い双眸に、ゾクリとしてしまう。
「聖女様に復讐などするつもりはありません。ですが、こうなったのは聖女様の責任でもあります」
「は、はぁっ?どういう事よ!?」
「手紙、何度も送りましたよね?この村に魔族が近づいてるので助けて欲しいという内容です」
「嘘よ!南方方面は魔族の影無しって報告受けてたわよ!」
「そうですか。聖女様が手紙を読んでいない事は理解しました」
くそっ!南方司令の貴族め、嘘ばっかりつきやがって!
きっと偵察すらしてないんだわ、それか以前のように現場の人間をどうにかしたか・・・!
ってか、うざっ!敬語うざっ!
「ねぇ、アグリカ。話し方、どうにかならない?以前のように話すの許してあげるから」
「・・・とにかく、国や聖女様がこの村を見捨てたと考えたので、魔族に降伏したのです」
無視かよ。
・・・手紙の事は、解ったわ。
でも、助けが来ないから降伏って、あまりに腰抜け過ぎない?
「アグリカ、恥ずかしいと思わないの?皆が命を賭して戦ってるのに、自分達だけ助かろうだなんて」
「では聖女様は、我々は鍬や鎌を手に取り無駄に死ねば良かった、とおっしゃるのですね?」
「そういう訳じゃないけど、あぁもう面倒くさいなアンタは!」
ほんっと陰険!
いちいち口答えしやがって!
私は聖女なのよ?
もっと敬意を払って私の言葉に賛同すべきでしょ!
うぅ、【徒長婦人】がいなけりゃ魔法でぶっ飛ばしてやるのに。
当の魔族は、不気味に微笑んでいるだけだし・・・。
「そもそも魔族に降伏しても凄惨な結末しかないわよ!終わりよ、アンタ達は!」
そう、戦場で嫌というほど見て来た。
魔族は降伏した無抵抗の兵も、無慈悲に蹂躙する。
こんな何の価値も無い村を、魔族が欲しがるはず無いじゃない!
『お話に混ざってもよろしいかしら?』
【徒長婦人】の響くような声が、私達の会話に混ざった。
どうせ断っても話すくせに。
『まず、私達は無抵抗かつ従順な者は、殺めませんわ。この村の方々が良い例ですわね』
「嘘よ!現に私は見て来た!降伏した人達を魔族は・・・」
『一度でも殺意を向けた相手であれば、それは当然ではありませんこと?それに、貴女方も同じ事をしていますわよね?』
それはそうよ!
今までこっちの兵士殺してた連中よ?
降伏なんかしても許せるはず無いじゃない!
正義はこっちにあるんだから、許されるのよ!
『あと、アグリカ含むこの村は、もはや我々魔族軍に無くてはならない存在ですの』
「はぁ?こんな何もない田舎が?嘘ばっかり!」
『私達植物系の魔族には、この村で育った農作物が一番のごちそうですのよ?それに新しく栽培し始めたコメという穀物。陛下・・・貴女達の言う魔王イノウエ様の大のお気に入りですの!』
【徒長婦人】はうざったいほど目を輝かせ、人類の敵を賛美しだす。
『それに、村を救う為に1人交渉しに来た勇気あるアグリカを邪険にするなどできませんわ!1人で逃げてきたどこかの聖女とは大違いですわねぇ?ふふふ』
「っ!くっ!」
痛い所を!
・・・と、そこで、私は気付く。
(あれ?じゃあここが一番安全では?)
魔族の庇護下にある。
戦わなくていい。
最高じゃない!
「【徒長婦人】、確かに私は逃げてきました。もうあの王国にはついていけないのです!降伏します!この村で、貴女達の為に働きます!」
ふふっ、これで安泰だわ。
あとは時期を見て逃げ出せば・・・いや、待って?
私の魔法を売り込んでもいいのでは?
『ふふふ、これはまた面白い事を。しかし村の事はアグリカに任せておりますの。アグリカ、どうかしら?』
「不要です。この方は組織を内側から腐らせていく毒草、かと」
ちょっ、何言ってるのコイツ!
私がタダで力になってやるっていってるのに!
「アグリカ、その、お互い昔の事は水に流さない?そ、そうだ!結婚してあげるわ!私の事、まだ好きでしょ?」
「どうでもいいですし、何とも思っておりません。貴女は国民の血税で贅沢を尽くした、ならば国民の為に最後まで戦うのが筋でしょう。・・・まぁ僕達はもはや王国の者ではありませんが」
ムカツク奴ね!
と、そこで再びゾクリと来る。
原因は・・・アグリカの目!
な、何よ!
見ないでよ!
そんな、夜より暗い目で・・・!
『あら、残念ですわね聖女様。では、苦しまずに殺して差し上げますわ、ふふふ』
【徒長婦人】から伸びる蔦が、私の手足を拘束し始める。
待って、待ってよ!
私まだ死にたくない!
死んでいい存在じゃない!
「ヴォラシャス様、お待ち頂けますか?」
蔦が口内を覆った時、アグリカの声が聞こえた。
ふふっ、なーんだ。
やっぱ私の事、諦めきれてないじゃん!
上手く転がせば、この村での生活で楽できそうね、うふふ。




