表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

聖女1

<ホーロビル王国聖女 バズレー=ビッチァ 視点>




輝く宝石。

最先端のドレス。

薫る、文化。

美味しくも食べきれない程の料理。


今の私は、幸せだ!

ううん、今、では無いわね、ずっとずっと幸せじゃ無きゃダメ。



「このネックレスは地味ね、ルビーが多めのを持ってきて頂戴」


「畏まりました」



ふふふっ、一流のメイドを顎で使う権力。

これも聖属性魔法を極めた、私の努力があったからこそ!

ケガや病気を治して貰う為に、平民や貴族が私に媚び諂う・・・素敵よね。



「聖女様、本日のお手紙で御座います」



あらっ、こんなタイミングで。

パーティー会場で私を待つゼッゲンの下に急がなくちゃいけないのに。


でも、手紙のやり取りも貴族の嗜みだ。

私を養子としてくれたビッチァ夫妻の顔に、泥を塗る行為は避けなくてはいけない。


手紙の群れを見ると、思い出したくもない名前が目についた。



(アグリカ・・・)



すっかり思い出す事も無くなった、元幼馴染。

しぶとく生きていた、昔の男。


そりゃ、あの時見捨てたのは悪いと思ったわ。

でも、私の回復魔法は数多の金貨が動くのよ?

借金背負わされなくて良かったじゃない、というか、助かったからいいじゃない。



「貴女、これ捨てといて。今後、この差出人からの手紙は、私に来る前に燃やすよう徹底して」


「畏まりました」



ったく、女々しいわね。

中身はどうせ金の無心とかでしょ。

さすがに寄りを戻そう等では無いと思うけど、私が得する事は無いはず。

なら、捨てても問題ないわね。



私は新しいドレスとアクセサリで着飾り、急いでゼッゲンの下へ行く。

ゼッゲンは勇者だ。

彼は力強くも温かい力で、皆を守っているのだ。

あのなよなよした田舎者とは全然違うというか、比べる事さえ失礼よ。



オーケストラが奏でる重厚な音の中。ゼッゲンは有力貴族に囲まれていた。

その後ろには、一緒に死地で戦う女性メンバー。


皆、ゼッゲンの事を愛しているし、ゼッゲンもまた、私達を愛してくれる。

彼は勇者なのだから、その血は一人が独占するものではない。

最初は嫌だったが、皆との時間が、その蟠りを解消してくれた。


私は姿勢を正し、彼の影に隠れるように寄り添う。

今回の主役は彼だ、彼より目立っちゃいけないのだから。



「はははっ、しかし勇者様はホントにお強いですな!実に羨ましい!」


「いえ、俺にも弱い頃がありましたよ。最初の相手は赤狼でした」


「ほぅ、それで結果は?」


「惨敗ですよ。群れとなった赤狼に敵わず、泣きながら逃げ出したもんです」



(・・・あれ?)



ゼッゲンの昔話で、私の中で何かが引っかかった。

どこかで聞いた事ある話・・・、経験した事が・・・。



「それはそれは、群れとなった赤狼は脅威ですからな!」


「痛感しましたよ。近くに騒がしい村があったので、そちらへ誘導して助かりました」


「まぁそのお陰で今の勇者様がいるのであれば、死んだ連中も本望でしょう」



周りの笑い声が、どこか遠くに聞こえだす。

ちょっと待って、父さん母さんが死んだのって、もしかして・・・?

ううん、でも赤狼で滅びる村は多いから、違うかも知れない!

でも・・・。



思考の海に陥る所、私の体、いや、ゼッゲンと私の体に、冷たいモノがかかった。

見ると、赤ワインが、仕立て上げのドレスに下品な染みを作り出している。



「何が本望だ!前線の兵士は、今もなお死んでいるんだぞ!何故勇者であるお前が戦わない!私の、息子も・・・!」



ワインをかけたのは、下級貴族達だった。

クソッ!私のドレスが!

いくらすると思ってるのよ!

あんた達の命より高いのに・・・!



私達は、常に前線で戦ってきた。

救った命は多く、皆私達に感謝してるはずだ。

だから、少しくらい休暇を楽しんでもいいじゃない?

むしろ私達の休暇の為に、肉壁となって前線を維持すべきなのよ!


勇者の力頼りな弱者が、勝手に怨嗟の声をあげてるだけ。

悔しかったら、私みたいに努力して力を掴めばいい。



「取り押さえろ」



ゼッゲンの言葉で、周りの兵が下級貴族達を捕縛する。

中には抵抗して怪我した人も居るけど、私は回復なんてしてあげないわよ。



「ゼッゲン、大丈夫?」


「ああ、問題ない。だが確かに、そろそろ俺達の力を見せるべきだな」



いつもの様に、ゼッゲンが不敵な笑みを浮かべる。

私もいつも通り、彼のその素敵な・・・あれ?



(ときめかない・・・?どうして?)



多分、先程抱いた疑問が原因だろうか?

バカね私、私の両親が死んだのがゼッゲンのせいなわけ無いじゃない!

考え過ぎよ。


仮にそうだとしても、もうどうしようもない、じゃない。

復讐なんて色んな意味で無理だし、私の栄光は彼が一緒じゃ無いと得られないのだから。



「今から一月後、私達が東部戦線より魔族を追い出して見せましょう!」



周りから、建物が壊れんばかりの声と拍手が響く。

そう、私達が周到に準備した作戦が、始まるの。

これで私達の名声はさらに高まり、今まで以上の暮らしができるようになる!



「皆、よろしく頼むよ!」



・・・うん、昔の事は今は置いておこう。

今は目の前にある栄誉だけを追い求めるべき。



ゼッゲンが見せる白い歯に、私達は何度も、頷いた。






□ □ □ ■ ■ ■






「ねぇ、もっと早くできないの?急いでよ!」


「これ以上は無理でさぁ!馬がへばって逆に速度が落ちちまう!」



使えない御者ね!と心の中で罵りながら、私は薄暗い空を見る。

この空が、あんなに赤く光っていたのだ。

そしてその下で、沢山の命が失われた。



(なんで・・・!なんで上手く行かなかったのよ!ばっかじゃないのクソ貴族が!)



東部戦線からの魔族一掃計画。

貴族や軍と周到に計画した一大決戦だったが、それはこちらの大敗で幕を下ろした。

王国軍の損害4割。

しかも、ゼッゲンを囲む優秀な女性メンバーも27人戦死した。


原因は、クソ貴族達だ。

私達が色々とお願いしていた貴族や軍人を、自分達の政治的都合で消したり追い出したりしてたのだ。

お陰で武器も無い、連携できる兵がいない、補給も無いの無いない尽くしで、負けたのよ!


ゼッゲンがクソ貴族を粛清しようとしてるけど、どいつもこいつもゼッゲンお気に入りの奴らでグダグダ。

王様も教会もゼッゲンの言いなりで、秩序ってのが失われてる。

このままじゃ負ける、って事で・・・今、私は逃げている。


早朝、未だ混乱が収まらない王都を逃げ出すのは簡単だったわ。

金で動く御者がいたのも、運が良かったわね。



(命さえあれば、ううん、この聖属性魔法があれば、私はどこででも成り上がれる!)



目指すは、生まれ育った村だ。

本当は嫌だけど、身を隠すには丁度良い。


そして戦争が終わった頃に、別の国にでも逃げればいいや。



正直アグリカと会うのは嫌なんだけど・・・あ、アグリカ追い出せばいいじゃん。

今持ってるお金や私の魔法の価値を解らせば、あんな引き籠った連中を操るなんて簡単だ!


よし、そうと決まったのなら、急がなきゃ!


ごめんね、ゼッゲン。

貴方の事は好きだったけど、私、まだ死にたくないの。

私も貴方に不信感抱いちゃったし、丁度良い時期かなって思ったのよ。

でも、恋人が一杯いるから、私が居なくても大丈夫よね?




空が、オレンジに染まり出す。

遠くに、二度と戻る事は無いと思っていた故郷が、小さく見え始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ゴミ馬鹿女www
[一言] この元婚約者が魅了とか脅しとかで無理矢理…とかだったならともかくここまでクソだと不幸になっても何も心が痛まなそうでいいですね 逆に彼には幸せになって欲しいですなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ