1 累
「お前、いつ部活くるの?」
俺は帰宅しようと教室をでると、先輩の一人に捕まった。
あれだけ警戒していたのに、だ。
(やっべぇ。)
俺は内心焦っていた。もう二度と部活には行くつもりはなかったからだ。
言い訳を考えているうちに残りの複数の先輩に囲まれてしまった。
「…いや~。最近、親が来年受験年だから今のうちに勉強しとけって言われまして…しばらく行けそうにないっすね。…アハハ。」
嘘である。この後、勉強する予定はない。
「アハハじゃねーよ。成瀬。じゃあなんで中1の頃から来てねーんだよ!バスケ部は週5って決まってんの。やる気がないなら止めちまえ。」
「そもそもお前は…ー」
残りの先輩達に、口々に文句や不満をくどくど言われ続ける。
あんまりに長いものだったので、外から聞こえてくるセミの声と同じに聞こえてきてしまった。
ミーンミーンミーンミーンミーーン。
…うるさい。
「……分かりました。来週はちゃんといきます。」俺はこれ以上面倒くさい事になるのを防ぐために、しぶしぶと承諾した。
すると、
「やっぱ、受験勉強は嘘だったのかよ!」と嫌みったらしく、揚げ足を取ってきた。…どうやらただ単に文句を言いたかっただけだったらしい。
その後、やっとの事でセミ先輩達は帰って行った。
彼等はこれから部活のようだ。
先輩達の姿が完全に見えなくなると俺はため息をついた。
夏の帰り道は、体育館のドアが全開になっているので、中から外の様子が丸わかりになる。
俺は部活が始まる前にとっとと帰ることした。
また胃がキリキリして気がする。
来週は学校を休んでしまおうかと本気で考えしまった。
俺、成瀬 累は林橋高校の二年生だ。
ご覧の通り、部活には中一の冬から全く行かなくなって見事、幽霊入りになった。
そろそろ部活もやめ時なのかも知れない。
(はぁ。なんで俺ってこう、駄目なんだろう。)
いつものように自己嫌悪に陥る。
ピアノ。サッカー。野球。書道。ギター。
ハマっては飽きた数々はほとんど俺の人生に生かされてはいなかった。
部活なんかはいい例だ。楽しそう!面白そう!から始めてみたけど、毎日の筋トレやランニングがどうにも肌に合わなかった。
(ボールは友達?ふざけんな)
いく回数が次第に減り、親や友達に言われてしぶしぶいくものの、当然、周りより上達していないので更に嫌になる。
部活の先輩達に廊下で会うのですら苦痛になってくるものだ。
ハマりやすくて、飽きやすい。
そんな自分が嫌いだった。
「…ーい、累?聞いてるのか?」
「あー…わり。」
「…まぁ、いいけどさ。」
俺の隣に歩いているこの『竹崎 有利』という男は小学校からの良友で、こいつも訳あって部活にはいっていない。
だからこうしてよくこうして一緒に帰っている。
バスケ部の元気の良いランニングのかけ声が聞こえてきた。俺はちょっと小走りになりながら竹に聞いた。
「今日も、バイトか?」
「まぁな。」竹は頷いた。
「大変だなぁ。…いまいくらよ?」
「…200万くらい。」竹は少し考えたあとにいう。
昔聞いたのだが、コイツは独り暮らしをするための資金としてバイトをしているらしい。
「ひぇー…すごいなぁ。それにしてもよくお前、懲りずにまたバイトするな。」
あまり深くはしらないが、竹の母親は何かと融通の利かない所があるそうだ。何度か家に行ったり、会ったりしたことはあるがとてもキビキビしていて、真面目な人だという印象だった。とても過保護で自分の知らないところで子供が隠れて何かをやっているのは母親として嫌らしい。だからバイトをするのも断固として拒否していた。
だけど、コイツは高校生に入った後すぐ、家の近くでバイトをし始めた。
しばらく働いていたのだが、そこに運命のイタズラか。母親が買い物にやってきて強制的に止めさせられたそうだ。
「いや、あそこは家の近くだったら駄目だったんだ。今度はちゃんと考えた場所だから平気だ。」
「懲りねぇな(笑)」
「反抗したい年頃なんで♪」
「…学校の一の優等生が、バイト詰めこんでるなんて…そんなにおまえんちは財政難なのか?」
「いや?バイトは割と楽しいからさ。あー…いってしまえば趣味だな。……家にいても正直、苦痛だかんな…。」
俺は何も言わなかった。
竹の家の話を聞いていると、なんとなく複雑な事情が伝わってくる。
でも、俺は竹の家庭に下手に踏み込む訳にもいかない。だから、何も言えなかった。
緑の木々がゆらゆらと風に揺られている。
しばらく俺達はその様子を静かに見ながら歩いていた。
「なぁ。」竹が先に沈黙を破った。
俺は横目で竹をみる。
「俺、フィリピン行くわ。」
思わず俺は転けかけてしまった。
俺は勢いよく竹の方を見た。
(……え!?初耳だぞ!?つか、なんで?)
「え?い…いつだよ?」
「高校生と卒業と同時に行くつもり。」
「違う。決めたのは、いつだよ。」
「も、つい最近に。ここ行きたい!よし、行こうってな感じで。…まぁ、フィリピンは物価高いからもっと稼がないといけないけどな。」
竹は苦笑いした。
聞くと竹はここ最近。インターネットでフィリピンについてのサイトを見つけて、気になって調べたらしい。
俺も知らなかったのだが、コイツは経営者になるために海外留学をずっと志願していたけれど、あの親が賛成してくれなかったらしい。
だがこの男は、めげずに自腹で行こうとしている様だ。
フィリピンは経営者になるのに最適な場所だと言っていた。
ただ、やはり自腹で稼いぐというものはなかなかシビアだ。
授業料・滞在費・食費だけで、210万円かかる。その他諸々の経費で11.5万円。
それに飛行機代とかも含めて300万は軽く超える。
それでもなお、行きたいと言うコイツに呆れるどころか尊敬してしまう。
「なぁ、お前もフィリピンに来いよ。きっと楽しいぜ?俺さぁ、チョコレートヒルズに行きたいんだよなぁ。季節の変わり目に山の色がチョコレート色になんの。そこの頂上でそれ見ながら二人でチョコ食うんだよ。」
そう楽しそうに話す竹の目はなんだかキラキラして見えた。
ずっとそばにいた俺でも、今まで見たことがないような顔だった。
「野郎と二人でねぇー…。」俺は小さなため息をついた。
「あ。勿論奢るぜ?その頃には社長になってガッポリ儲けてる予定だから。」竹が親指と人差し指をくっつけて輪を作る。
「おっ、言うねぇ。じゃあ俺はゴマのすり方の勉強でもしとくか。」
俺達は、ケタケタと笑い合った。
「……お前、すげぇな。」
気づくと、俺の口からポロリとこぼれた。
ジッと竹を見つめる。
すげぇよ,、ホントに。お前は。
自分のやりたいことがあって。
それに向かってもう歩きだそうとしてて…。
「だろ?」竹がわざとらしく片眉を上げてみせる。
俺は素直に頷いた。
そしてお互い、少し照れくさくなって、ハニカむようにまた笑い合った。
そして「じゃあな」、と別々の道で別れた。
(全然知らなかった。)
そう思いながら、俺は空を見上げた。
なんでそこに行きたいのかはなぜそこまでして行きたいのか正直、分からん。日本でもそーゆー所は沢山あるのだし、わざわざフィリピンまで行く必要はないと思うのだが…。
ただ、竹は案外、抜け目のない奴だ。
そこら辺はしっかり考えての上だろう。
きっとあいつらなどこでも楽しく過ごせるに違いない。
でも…そうか。
「……遠いなぁ。」
また口からポロリとこぼれた。
親友はもう進み始めている。
それに比べて俺はどうだ?立ててすらいなかった。
俺は歩きながら「俺の」将来を想像してみることにした。
竹がフィリピンに行ってしまったときの自分を。
ちゃんとした大人になれているのだろうか。親に迷惑はかけていないか。
やりたいことなんて、ないけどさ。
それなりに幸せになってりゃーいいな。
あと2年で法律上大人。それまでに自分の進む道を決めなくてはならないこの焦り、不安……。
小さい頃に読んだピーターパンはこんな気持ちでネバーランドに行ったのだろうか。
俺みたいにやりたいことがなくて…かといって、無理に望んでもいない仕事につくということも嫌で…。
そんな現実から逃げるためにネバーランドに行ったのだろうか。
……バカげてる。
自分の想像力の豊かさに笑えてきた。
飽きやすくて、ハマりやすくて。
何もかも適当で曖昧で。
別に何かしているわけでもない。
そんな俺の行く先は?
……そんな風に立ち止まって自問自答をしている間はなんだか、楽だ。
まるで俺今、一生懸命頑張っているみたいでさ。
ノロノロ、ノロノロと、歩き出した。
でも、待てよ…。
そうだ。逆に考えてみれば、あいつはああいう環境だったから、『あいつだった』から自分のやりたいことを見つけられ………いや、止めよう。
俺は歩くをスピードを早めた。
なんだか、言い訳みたいだ。
まるでこれじゃあ俺が竹のような環境を持ってなかったから仕方ないって言っているみたいだ。
…こんな風に考えてしまう自分も嫌いだ。
今の俺の心には、紙のグシャグシャのゴミが詰まっているようだった。
息苦しくて、呼吸が荒くなる。
そう、この感情は……
…気がつくと俺は走っていた。もう、何も考えないために、走っていた。
(あの場所に行こう。)
嫌なことがあると、不安な事があるといつも俺はあそこに、向かう。
だから今日もいくんだ。『あのカフェ』に。
カランカラ~ン
もう聞き慣れてしまったベルの音が店の中に響き渡る。
店に入るとすぐ、見慣れた5つのカウンター席がある。ただ、席はそれだけだ。
視線を左にずらせば、101の犬の置物が超特大サイズから超最小サイズまで綺麗に席順で並んでいる。
犬の置物は店の半分を占めており他には何もおいてない。植物は勿論、テーブルまで。
カフェとしてはおかしすぎる点が多いが、それでも潰れてないって事は、それだけ店としては成り立っているんだろうなといつも思う。
そしてそのカウンター席にはいつも通りの面子が揃っていた。
「よう?累君。今日はどんな話を持ってきたんだい?」
群青色のウェーブ髪の男が、眼鏡を光らせタバコを吹かせながら、俺に訊ねた。
あるきっかけから俺はここに出会った。ここに来ている奴は相当変だ。
中でもこの男、『群青 真』は群を抜いている。
なぜなら、本人曰く、自分は占い師で。
(はいここでもうアウト)
本人曰く、神様と通信かできるらしい。
本人曰く、相手と話すだけでその人の人生のカルマ(課題)が見えてくるらしい。
本人曰く、それを何度も解決して今じゃ占い師界のカリスマらしい。
………だが、どうも胡散臭いので、本当かどうかは不明。
(俺は絶対嘘だと思っている。)
「またタバコ持ってきたのか?吸うとき言わないと、また舞さんに怒られるぞー?」
俺は占い師(自称)に言った。
「あのねぇ~累ちゃん?タバコを日本に持ち込んだのは誰だと思う?コロンブスなんだよ。俺じゃないのさ。」
「日本の話をしてるんじゃねーけどなぁ。」俺は頭をぽりぽりかく。
「………ところで累君?タバコはどんな奴が吸っていていてどんなイメージ?」
突然回ってきたので焦ってしまった。
「は、えーと………ヤンキーとか、仕事でストレスが溜まりまくりのオッサンが吸いまくって肺炎になって死ぬイメージ?」
男は苦笑いして、ひどいなぁ、とつぶやいた。
「確かに肺機能の弱って多くの病気のリスクは上がるぅって事は、どっかの偉ーい大きな病院によって証明されてるけどね。
………でも、毒も薬さ。上手く使えば魔法薬になるんだよ?
日本の偉大な伊達政宗先生知ってる?
彼はね、『医大』って言われるくらいの健康マニアでさ。医者も顔負けの知識があったって言われてるらしいのよ。その大先生様でも、薬として『煙草』を使っていたらしいよ。毎日規則正しく3回吸っていたんだってさ。」
「つまり?何が言いたいんスか?」
「つまり!悪い物と称されているが、タバコは使い方によればいいものなのだっ!
それを吸っていて何が悪い!!」
「あんたは吸い過ぎなのよぅ!!」
誰かがメニュー表片手にポコンとこの男を叩いた。
その人はフリッフリのスカートと、高すぎるハイヒールで今日もバッチリファッションを決めていた。何と言ってもその顔はハリウッド映画で出来そうな顔で、とても美人だ。
名を『舞さん』という。この店の看板娘だ。
「んもぉ。そんなデタラメなこといって、それもまた嘘なんでしょ?」
「おいおい。俺が嘘ついたことあるかい?」
「詐欺師の方がまだ信じれるわ。」
俺はすかさずツッコんだ。
「アハハッ。言われてやんのー。」
百人の内百人が美人と言うであろう舞さんは歯並びの良い口を大きくあけてケタケタ笑う。
スタイル良し、顔良し、家事万能で完璧な彼女だが、一つ残念な所が……
「あ!累君、今日は舞ちゃん特性のフワフワのホットケーキでもどうっ?」
……声が異様に低すぎる。まるで男の人のように。
………俺も怖くて触れた事がないのだが、もしかしたら舞さんは……いや、止めておこう。
「……お願いします。」
「まっててね~!フワっフワのやつ焼いてくるぅ!」
そう言ってマスターの方にかけていった。
マスター…はこの一風変わったカフェにもいる。無表情で無愛想な眼鏡をかけている“いかにも”な奴だ。
(なんせ、101匹の犬の置物を客より優先して置くんだもんなー)
こんな変な奴らばっかりが集まっているカフェに、俺は好きで身を置いている。
カバンをあさり、宿題を取り出し、それに手をつけ始める。舞さんはホットケーキの粉と牛乳を鼻歌を歌いながら混ぜ始めた。占い師はマスターに、自分の所に相談にきた迷える子羊の話を披露する。(だが、嘘くさい)
俺はそれに耳を傾けながら、ゆっくり、ゆっくりと宿題を進めた。
…そうだ。ここは時間が止まっているみたいなんだ。いや、実際に止まっている訳じゃないんだが、すごくスローペースで進んでいる。
焦ることもないし、慌てる事もない。
それが俺にとって居心地がいいのだ。
この『ゆるり』とした時間が俺にとって心地よいのだ。
「る~いくん?いつもこんなに毎日のように来ててご両親心配しないの?」
占い師が俺に聞いていた。
「いや帰っても店の方を使いっ走りにされるだけだし………カフェで勉強してるってことにしているので大丈夫。」
「いや、カフェだから!ここ一応!!」
「あ、そっか!」
みんながドッと笑った。
「はいはーい!コーヒーでごさいますぅ!」
明るい声で舞さんはコップいっぱいで1杯のコーヒーを持ってきた。
豆からひいたもので、かつマスター直々のプロデュースで選んだ豆だからものすごく美味い。(入手先は何故か教えてくれない。)
ブラックが苦手な俺に角砂糖とミルクを適量に入れておいてくれている。
何回も来ているうちに完璧に俺の好みの味を把握してくれた。そしてなぜか俺の入れたものを超えるクオリティー。なぜ、こんなちんけな場所で働いてるのか分からない。
「累君。今日は学校どうだった?」
「………。」
そういえば、ここの雰囲気に流されて忘れてたけど、俺はこの心のわだかまりを相談するためにきたんだった。
さっそく占い師に話してみることにした。
「俺の親友がさ、高校卒業と同時にフィリピンに行こうとしてるんだってー。」俺はなんでもない風に話した。
「へぇー。良いじゃん。」
そんな俺に、占い師はいつも通りあいずちをうつ。
「そこで経営の勉強して経営者になりたいんだってー。」
「おぉ、夢があるねぇ。」
「……あいつなら、成功させそうだなぁってさー。」
目を細めながら占い師は頷く。
「……アイツはすげぇんだよ。俺はずっとアイツのそばにいたのに今までもなんにも考えてなかったもん。いや、考えないようにしてたんだよな。………何にもなかったから。」
「………そうか。」
占い師は聞き上手だ。良いタイミングであいずちをいれてくれるので、話していて気持ちが良い。
俺は続ける。
「あと二年で卒業だろ?まぁ、大学に進んでもいいけどさ、大学にも色々あんじゃん。どこに行けばいいのかも分からないんだよな。
………親が色んなものを習わせてくれたし、俺も積極的に色んな物をやってみたつもりなんだけど、………全部だめだったんだよね。
どれも一時期はハマったけど、すぐ飽きちゃって。
だから、これだ!って決めたものに、真っ直ぐ進んでる親友をみると…なんとうか、
…………すごく羨ましくなる。」
そう、つまりは嫉妬だ。
「…確かに。」
俺が話している間、いつもは騒がしいはずのカフェも心なしか、静かに聞こえる。
俺は黙った。もうこれ以上なかったからだ。いつも通り占い師の答えを、待つ。
占い師は少し考えこんだ後…
「良いんじゃない?別にぃ。」
と、のんびりした口調でこう言った。
「………は?」俺は顔をしかめた。
「まぁまぁ、そんなに眉を八の字にしないでよ累くん。でも考えてごらん?君は今までどんな日々を過ごしてきた?」
「え、えーと。すくすく、のんびりと?」
「フフ、んー…じゃあ言い方を変えるね。君は生まれてこのかたどう過ごしてどう生きてきた?」
なんだか、哲学的の授業を受けている気がしたが、俺は思ったままに答えた。
「…んー?山咲小学校行って、山崎中にいって、今は林橋高校に行ってて…ー」
「そう!そうなのだよ!累君。君は山咲小学校、山崎中学校、林橋高校生に行っていたんだよね!言い換えれば、それらに『しか』行ってないってことだよ。そんな中で誰が何と言おうと、夢だの、天職だの見つけることを出来ると思うか?無理だろ。無理に決まっているよ。」
「…えぇ、ムリって…でも、先生とか、親とか、進路は早く決めろってすぐ言うじゃん。俺みたいにまだ何にも考えていない奴もいるのに。」
「そうだねぇ。それが社会のズルイところだよねぇ。だって、何にも考えていない奴ほど、こき使えるもん。」
俺はまた顔をしかめた。(八の字に)
「…じゃあ、そのなんにも考えていない奴らは、こ使われない為にはどうすればいいの?」
「やっぱり、自分の好きなことをやることだよね。誰に何と言われても関係ない、自分だけのものがあれば強い。でも、それはいつ見つかるなんて誰にも分からん。ひょっとしたら50、80歳くらいになるかも知れない。」
「じゃあその見つける瞬間があるまで俺はずっと家畜みたいに社会に使いっ走りにされるのかよ?」
「まぁ………家畜までは言わないけどね(笑)それにそれは待つんじゃなくて『掴むんだよ』累君。」
「どうやって?」
「ハマりやすくて飽きやすい。まさにそれだよ!その性格を逆手に取るんだ。色々やってみればいいじゃないか。自分にあってなければやめる。好きなら続ける。その好き事が何年も続けられるのなら、それがそうなんじゃない?」
「そうそう。何回間違えても良いのよ。人生は楽しんだもの勝ちなんだもん♪」
舞さんも頷く。
「………親友と比べて焦らなくていい。君の人生はまだまだこれからなんだ。ゆっくり、自分なりに見つけていけばいいんだよ。」と占い師は言った。
「…………そっか。」
いつも、不思議と占い師の言葉はストンと心の中に入るのだ。
心がふんわりと温かくなる。軽くなる。
「………それもそうだな。」
ふはっ、と笑った俺に、
占い師は優しげな表情で見つめていた。
気がつけば、俺の近くにホットケーキが置いてあった。(さっきまでなかったのに)きっと、マスターだろう。
彼の心遣いはさすが、一流だ。
俺は温かくなった心で温かいホットケーキを頬張る。
フワフワしていて、口に甘みが広がる。
(うんまっ。)
俺はここが好きだ。どんな悩みも帰るときには消えているから。
大丈夫だと言って貰えるから。
駄目な自分が少し、許された気がするから。
「あ!そうだ!将来不安なら第一志望として占い師なんてやってみるかい?俺の弟子として!」占い師はとんでもないことを言い出した。
ぶっ、とホットケーキを吐き出しそうになった。
「絶っ対嫌だ!!」
ちょっと感動した俺がバカだった。
「ギャハハハハ!良いじゃん!テレビにでたらちゃんと見てあげるからっ!エセ占い師のダブルコント!」
舞さんが腹を抱えて爆笑する。
「俺らMー1にでも出る気かよ!?」
「えぇ、俺は本物の占い師だって言っているだろう!?」占い師は納得できないといった表情で顔をしかめる。
…今日もまた、『アノカフェ』に笑い声響き渡った。