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プロローグ
僕は学校の屋上、フェンスを乗り越えて重力に身を委ねた。
恐らく、僕の勝ちだ。話しかけてきた男の残念そうな顔がゆっくりと見える。
五階建ての校舎の屋上から身を委ねた僕の身体は、まるで時がスローモーションになったかのように。ゆっくりと五階、四階と校舎のガラスに僕の姿を映し出す。
死の間際。
時間が延びると言うけれど、それかもしれない。
走馬燈。
それかも知れない。頭の中に今までの記憶がたたき込まれる。
もう忘れていたはずの、生まれたときに見た父の顔と母の顔。母に抱かれて温かかった温もり。幼馴染みだった女の子の笑顔。友人とバカやってた記憶。
全く。
死の間際に優しい記憶だけが過ぎるなんて。
神様が居るので有れば。
こんな時に見せなくてもいいのになんて、恨みをぶつけたくなる。
そして。
僕の身体は、地面に溶けていった。