第6話:幼馴染ズとカオスな朝食
翌日、真吾はズキッと腹に走る痛みで目が覚めた
見ると上半身に巻かれた包帯が見える
その痛みが昨日の出来事が本当の事だったと教えてくれる
時間を見ると、7時半、そろそろ起きなければならない時間だ
「うぅ・・・いてぇ」
昨日結局帰ってきたのは午前2時
家では太陽と秀吉が待っていてくれた
沙耶と姫は猫の無事を安心したのか寝てしまっていた
2人は真吾と棗の怪我には心配していたが
棗の素性まではわかっていないようなので黙っていた
その後、皆それぞれの家に帰っていった
とりあえず自室の2階から台所のある1階に降りる
いつもは自分で簡単な朝食を作っているのだが
今日は気力、体力共に作る気はしない
とりあえずパンとジャムでも塗ってしのぐしかない
ジャムは何があったっけと探していると
ピンポーンと家のチャイムが鳴る
こんな朝早くに誰だ・・・
と寝ぼけた頭のまま玄関に向かった
ドアを開けながら
「はーい、どなたーーって、沙耶ちゃんか・・・おはよう」
目の前には既に制服に着替えた沙耶が立っていた
「おは・・・・真吾にい!?」
沙耶は目の前の俺の姿に目を見開いた
「どうしたの、その怪我!?もしかして昨日チビの事で何かあったの!?」
昨日と同じ調子で心配してくれる沙耶
何だか、妹に心配されているようで心が温かくなってしまう
「ははは、大したことはないよ、ちょっと医者に大げさに巻かれただけだから」
全治2ヶ月だなんて言うと、また沙耶を心配させてしまう
そう思い、あまり大事っぽくないようにいった
「ゴメンなさい、本当に・・・」
でもそれでも凹んでしまった
話題変換しなければ
「そっそれより今日はどうしたの?こんな朝早くに?」
「あっいけない、本題なんだけど、真吾にいはご飯もう食べてないよね?
昨日迷惑もかけたし、今日はウチで朝ごはん食べていかないかなって・・・」
これは願ってもない話だ
何もしないで飯が出てくるありがたさはここ最近の一人暮らしで身にしみている
「ホント?今日は朝、パンで我慢するところだったから嬉しいよ!!」
「では行くぞ、真吾」
後ろからヌッと太陽が現れた
「うぉををう!太陽!?居るなら居るって言ってよ!!」
こいつの突然現れるのはクセになっているようだ
「「「「「いっただきまーーーーす!!!!」」」」」
「みんな、いっぱい食べてね〜〜〜」
秀吉と沙耶のお母さん、沙希さんがニコニコとそう言った
現在浜田家の食卓には沙希さん、猫、秀吉、沙耶、真吾、太陽、姫と幼馴染が勢ぞろいしていた
どうやら姫は浜田家に泊まったらしいし
太陽の両親は朝が早いらしく、金だけおいて両親は勤めにでかけたらしい
まぁ真吾も両親も妹に付いて海外へ行き、1人暮らしなので朝はキツイ
今日朝ごはん用意してくれたのは素直に嬉しかった
「沙希さん、この煮物うまい!!」
一人暮らしじゃ作らない、煮物に久々に感動した
「うふふ、ありがとう」
ちなみに沙希さんと呼ばないとお玉で殴られるので、ここに居る全員は皆おばさんとは言わない
「ん、味噌汁もいけるな」
「太陽君、それは沙耶が作ったのよ」
「ほぅ、沙耶これはうまいな、いい嫁になる」
「えへへ、ありがとう、陽にい」
ポッと照れて赤くなる沙耶
うん、懐いてる
「お袋ーーお茶ーーー!!」
「バカヒデ・・・自分で動け・・」
ゴスっと隣の沙耶が肘打ちを直撃させる
沙耶は空手部に所属しており、喧嘩は秀吉より強い
「さっ沙耶・・わき腹はキツイぞ・・・ってチビ助!俺の魚食うんじゃねーーー!!」
「にゃぅーーー(早い者勝ちだぜーーー)」
ピクピクしながらツッコむが沙耶はもう食事を進めている
猫にも舐められたら人間終わりだぞ
うん、家族なのに懐かれてない
血の繋がりを考えさせない2人であった
「・・・モグモグ」
一人だけ黙々と飯を食べる姫
基本コイツは朝が弱いのだ
そのため、半分寝たまま飯を食べる技術を身につけたようだ
コイツ、食い意地は張っているからな
よし、イタズラしてみよう
今、目の前にある煮物の位置をずらして見る
そっと10cm
すると、姫はそれに追尾して煮物に箸を伸ばす
そして大根を口の中へ
「おおすげぇ」
軽く動かすからいけないのか、
では煮物自体を俺のテリトリーへ
しかも姫からは俺をまたがないと届かない位置
さあどうする?
一瞬、手が止まる姫
「・・・」
すると、何事もなかったかのように食を進める
煮物は真吾の物をつつき始めたが・・・
「ををぃ!!」
絶対、コイツ起きてるだろ・・・
ぺシィと姫を軽くこづく
「ふにゃぁ?」
と声をあげるが、食べるのは止めない
恐るべき食い意地である
「「「「「ごちそうさまでしたーーー!!」」」」」
一斉にご飯を終える
「はいはい、おそまつさま、やっぱりたくさんいるといいわね〜
作りがいがあるわ、太陽君、真吾君、朝食食べたければいつでも来なさい
沙耶も待ってるから」
「母さん!!」
沙耶が顔を赤くさせたまま余計なこと言うなという顔をしている
「うふふ、沙耶はうれしくないの?」
「いや、その、にいたちがくるのは嬉しいけど、その」
思いっきりドモっているぞ、沙耶ちゃんよ
いくら大人びていても子供である
「決まりね、いつでも来なさいな」
沙希さんの大人の余裕ってやつであった
一度、家に帰り、制服へと着替える
ここの住宅街から学校まで歩いて20分
だから、いつもは30分前には家を出ることにしている
玄関を開けると残暑の残る日差しが遠慮なく降りかかってくる
台風明けで溜まった熱さを吐き出そうとしているかのごとくだった
家を出ると太陽が既に待機していた
自宅の前の通りで幼馴染が出てくるのを待つ
それが真吾らのグループの慣習である
そして、25分前になるとそれぞれの家で呼び出し、来ない奴を置いていく
それがいつもの朝である
だいたい来ないのは秀吉となるのだが、今日は起きていたので問題はあるまい
2分後、沙耶、秀吉が出てきた
「バカヒデ急げ!にいたちもう待っているんだからね!!」
「いてて、なら朝からハイキックで、意識を根こそぎ刈り取ろうとするんじゃねぇよ!!」
これがこの兄妹の日常なので誰もつっこまない
「あとは姫か・・・」
太陽が姫の家を見上げる
時計を見ると25分前
「25分前〜、太陽ゴ〜!!」
秀吉が太陽をせかす
「姫のときはいつも俺だな・・・」
太陽がはぁとため息を付き、インターフォンを押す
「あら、サンちゃん、ちょっと待ってね〜今来るから〜ひめちゃーん、お迎えさんが来たわよーー」
童顔の姫ママが姫を急かす
姫ママはいつも太陽=サン、ということでサンちゃんと呼ぶ
ドダダダ 「はーい、待ってぇーーー」
ドダダダ 「姫、ハンカチ持ったか!?チリ紙は!?」
ドダダダ 「ほら、寝癖がまだ付いてるぞ!!靴下が左右柄が違うぞ」
綺麗な階段下りの三重奏
姫とそのシスコン兄貴2人組
それがいつも厳格で頼りになる太陽に任せる理由である
「ごめーーん、遅れたーーー!!」
「太陽ぅーーー!貴様、姫のパジャマ姿見たのか、そうなのか!?そうだな!許さんぞ貴様!!」
「貴様、今日俺らが姫がいないせいでどれだけ精神的に貧困な飯を食ったかわかるか、いやわかるまい!!」
かなり、2人とも可哀想な大人である
「姫、おはよう、隆一さん、隆二さん、おはようございます」
軽く2人をスルー
唯一、その光景を見て動じないのが太陽だからである
隆一は27歳で某有名企業の研究所の主任研究員、、隆二は25歳で警察官のキャリア官僚
それぞれ勉強ができるのだが、頭が弱い
姫が関わってないときは本当に尊敬できる大人なのだが
そう太陽はいつも思ってため息を心の中でつくのであった