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回想日記  作者: Re:over
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運命の日


 少し寝坊した。本当ならば、二時間くらい早く起きて、余裕を持って準備を進めようと思っていた。なんせ、今日は運命の日なのだから。


 少しの失敗も許されない。次回はおそらくない。


 朝から風呂に入って、爪を切り、服を選んで……。準備が終わっても、自分の状態が完全である確信がないせいで落ち着かない。若干の緊張もあっただろうか。しかし、一番怖かったのは再会してあの熱意を思い出すかどうかだ。


 大学に入ってたくさん心が揺らいだ。他の誰かに恋してもおかしくなかったが、『この人ではない』という不思議な抵抗が働いた。そのおかげで、なんとか彼女のことを想い続けることができた。それでも、その熱意は薄れてきているのも気がついていた。


 また会えば熱が復活するなんて妄想話ではないかと疑い始めたのだ。たくさんの不安と気持ちを抱えて集合場所へ着いた。そして、彼女の車へ乗り込んだ。


「久しぶり。元気だった?」


「俺はいつでも元気だよ」


 四ヶ月ぶりの再会。何一つ変わらない雰囲気にとりあえず一安心し、同時に自分の好意を改めて確認することができた。


「……本当に行くの?」


 彼女は言う。何か意味ありげな一言だった。しかし、今更退くことはできずに「行こう」と返した。


 目的地へ向かう途中、大学の話をした。彼女は看護学校へ通っていて、課題やら授業やら大変だと話した。他にも、一人暮らしだから自由で楽しいだとか、趣味の話だとか、たくさん話してくれた。


 ホテルへ到着し、中へ入った。中は思っていたよりも綺麗で、俺も彼女も設備を見て楽しんだ。


 そして、彼女は設置されている大きなテレビの電源を入れた。二人でベッドに座り、ただ流れる映像を見た。


 しばらくして彼女はテレビを消し、疲れたと言って横になった。部屋は暗く、カーテンから漏れる光だけが頼り。俺は彼女を寝かせるつもりは一切なく、頭を撫でた。


 すると、彼女は驚いた顔をした気がした。思わず手を引いて、謝った。


「その……言い難いんだけど、何というか、私のこと諦めてほしい」


 数十分、悩みに悩んで彼女はその一言を放った。


「わかった」


 そう言うしかなかった。ひたすら胸の奥に溜まる何かを吐き出せずに倒れた。真っ暗で、薄い光がぼやけた輪郭を作り出す。そこに現れる彼女の顔と香り。


 俺の上にまたがり、顔を近づけた。


「目は開ける派? 閉じる派?」


 そうか。キスされるのか、俺は。ファーストキスを奪われるのか。


「開ける派」


 少しばかりの強がりだった。彼女に何かしらの余裕を見せつけたかったのだ。


「わかった」


 いたずらに時は流れる。永遠かとも思ってしまうほどの長い時間。じわりじわりと記憶に焼き付き、心音と手汗が酷くなる。


 わずかな光が返って彼女の魅力を引き立たせる。美しくて美しくて……恥ずかしいとはいえ彼女から目が離せなかった。そして、今か今かと待ち続け、焦らされる。


 何度か顔が近づいては遠のきを繰り返す。なのに、俺の顔の隣にある彼女の腕は震えている様子がない。むしろ、俺の体が震えていた。


 何かの拍子に、彼女は顔を一気に近づけた。そして、唇同士が触れた。たった一瞬の出来事であった。


 もっと彼女を感じていたかった。もっと深いところまで知りたかった。もっと、もっと、もっと。


 俺は「諦めてほしい」という言葉を忘れ、彼女を逆に押し返した。何の抵抗もなかった。


 そして唇を重ねた――刹那。


 彼女は俺の肩を押して笑い始めた。


「キス下手かよ」


「ちょ、一応ファーストキスなんだよ? 上手いわけがないでしょ。てか、なんで上手いかどうかわかるんだよ」


「……相手がいるから」


 彼女がノンセクシャルであることに変わりはなかった。しかし、それが彼氏がいない理由にはなり得なかった。


 俺はこの瞬間、二年前の恋が今さら本当の失恋へと変わったのだ。


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