第16話 ダンジョンの意志
「ダンジョンの意志……?」
「冒険者達に伝わる御伽噺みたいな物だよ」
首を傾げているルルに私は簡単に説明を始めた。
「ダンジョンには一体ずつダンジョンを作った大精霊が存在する。それは、ダンジョンの解放とともに消えてしまうので会うことは叶わない。その大精霊の通称がダンジョンの意志」
曰く、ダンジョンの意志とやらは、ダンジョンとダンジョンがある島の創造と支配を司るらしい。
そして、冒険者に試練を与えるため常にダンジョンの扉を開けて待っている。というのがよく聞くダンジョンの意志の内容だ。
ちなみに、何故試練を与えるか? については語る人による部分だったりする。
人類の進化を望んでるとか、試練に敗れた人を喰うためとか、適当なのだと暇つぶしじゃないかとか色々だ。
「ふん、さすがに冒険者達も我らの存在くらいは辿り着いていた。という訳だな」
「そりゃあ、ダンジョンの研究は島の一番人気な研究対象だしね」
誰かに攻略されるために存在する様なダンジョン。それは、どうやって生まれたのか? 冒険者だけではなく島に住む私達にとってダンジョンはいまだ謎の塊だ。
こんなにたくさんのダンジョンが島を囲むようにあるのも。
モンスターや精霊が守護者としてダンジョンの要所に配置されていることも。
何故か拾ってくれと言わんばかりの場所に宝箱やアイテムが落ちてるのか、ということも。
長い島の歴史の中で不思議に思う人が現れるのは当然だ。
ダンジョンの意志の御伽話だって、昔疑問に思った人が考えた答えの一つなんだと思う。
――で、これが?
このよく分からない小箱がダンジョンを動かしていた大精霊? そんなまさか!
「待ってくれ。お前がそのダンジョンの意志だと言うなら極彩色パレス解放の時、一緒に消えてるはずだろう? 何故お前はここにいるんだ?」
そうだ、ログ君の言うう通りレコードはダンジョンが攻略されて自由になったと言っていた。
ダンジョン精霊はダンジョンが攻略されないと自我が持てない。
そして、彼女は間違いなくそれを持っている。
「解放されておらーん!!」
ログ君の指摘に、返ってきたのは極彩色パレスは怒気を込めた反論だった。
「確かに我がダンジョンは踏破され、我が作った守護者達も全て倒された。だが、しかし。それは全く完璧なものでは無かったのだ」
「中途半端に攻略された? 確認した情報によると、ダンジョン最奥の守護者を倒して攻略。と、しっかり書いてあるが……」
極彩色パレスの言葉に、ログ君は手帳を確認しながら首を傾げた。
「そうそう、ダンジョンって言うのは最後の守護者を倒せば攻略完了でしょう? それで中途半端って意味わからないんだけど」
元冒険者の私としては当たり前の疑問。対して、極彩色パレスの方は信じられない! といった様子で立方体の体を震わせはじめた。
「分からないというのか……! なるほど、これでは我がダンジョンを完全踏破できなかったのも理解できるというもの。これは、我らの仕組みから話さねばなるまい」
うんうん。と、なんか勝手に納得している極彩色パレスはそのまま身の上話を語り始めた。
「我らダンジョンの意志は生まれ落ちた時に使命を受ける。我らを作ったナニカ。仮に言うなら神と言うべきか。神に授かった使命を遂げた時、つまりダンジョンを攻略されると我々は使命を終え世界に還る。それが我々の仕組みだ。そして、我が命題。それは、『汝、謎を与えよ』だ」
……あれ、もしかして今目の前で凄い勢いで世界の謎の一つが開示されてない?
これ、中央の学園にいる研究者とかが聞いたら卒倒しそうな話してない??
これ、私達だけで聞いていい物なのかな。なんて、考えてる内に極彩色パレスの話は流れる様に進んでいく。
「本来ならば、我がダンジョンは謎解きをする場。謎を解き、迷宮を踏破して初めて真の解放となる。……それを、あの冒険者どもは!」
荒げる声と、怒りで震える極彩色パレス。その姿は小箱の中に爆弾が入っていて今にも爆発しそうと思う程、怒りに満ち満ちていた。
「あの愚かなる冒険者どもがダンジョンを中途半端に攻略したのだ! そして、その結果が今の我なのだ!」
「良く分からないが、中途半端ってのは具体的にどういう状況だったんだ?」
「あの冒険者どもは……我がダンジョンのあらゆる謎を解かず、通路の壁を壊しながら進みおったのだ!!」
怒っている割には、ログ君の質問に極彩色パレスは律儀に返してくれた。
「え、壁を壊すのってありなんだ!」
「そんな訳あるか! 全く持って完全に無し! ありえない反則だ!」
ルルが素で驚いたのに対し、怒りをあらわにする極彩色パレス。
「奴らめワープの魔法陣も使わず。迷路に迷わず。行く手を阻む謎は無視。ただ階ごとに配置した守護者を倒して、そのまま最奥まで到達してしまったのだ!」
「全ての移動を壁破りで進んだって、どんだけ脆い壁してたのさ?」
まあ、私も冒険者の時あんまりに長い回廊とか横の壁壊せたら楽なのにとか思ったものだけど。
大抵のダンジョンって壁が分厚くて強化の魔術とかかかってたりして壊れにくいはずなんだけどなあ。
「おのれ冒険者ども! まさか、壁を薄めに作ったことでこのようなことが起ころうとは我が一生の不覚」
「いや、何でそもそも壁を薄く作ったの?」
「ええい! こちらにも事情というものがあるのだ。神が与える力とて無限では無い。限られたリソースで作り上げるために犠牲になる物もある!」
「そうですよ! 迷宮を複雑にしすぎて、スペース的に壁を薄くしないと入り切らなかったんです。仕方が無い事なんです。ね、主様」
思ったよりしょうもない理由!
こんな奴が作ったダンジョンにトラウマ植え付けられたのか私は……!?
「とにかく我は許せん! 我が用意した数々を無視し、折角用意したクリア後の宝箱すら見ずに奴らは解放しおった。ダンジョンの主としてこれを解放となぞ絶対に呼ばぬ。そもそも正しく攻略されていないから我という存在が残ってしまったのだ。これを中途半端な攻略と言わずして何と言うのか!」
そう言うと、極彩色パレスはこてん。と、小箱の体を前に倒した。
倒れたことによって、箱の上の部分――文字が刻まれた面が私達に向けられる。
「見よ! この文字は我が考えた最後にして最難関である謎解きの道しるべ。いつかダンジョンを訪れた者が謎を解き明かし、我が使命を全うされることを夢見ていた。しかし、我は中途半端に解放され世界に放り出されてしまった。嗚呼、なんという悲劇!」
言いたいだけ言い放つと極彩色パレスは倒れた体をぐいっと元の位置に戻した。なかなか器用な小箱だ。
「……って、小箱に刻まれた文字、謎じゃなくて謎解き用のヒントなの!?」
「そんな……俺たちの推理は意味が無かったのか!?」
「うう、ごめんなさい。私が小箱に好奇心持ったばっかりに……」
さらりと判明した答えのせいで、三者三様の反応をしまう私達。私と同じで二人の頭の中で徒労の二文字が浮かんでいるに違いない。
「まあ、文字については今は置いておくとして。ダンジョンの解放が中途半端なんて、今まで聞いたことないけど。そんな事って本当にあるの?」
「知るか! 貴様らが知らんと言うことは我が初なのだろう」
私の質問は極彩色パレスに容赦なく切り捨てられた。
「あの、それでダンジョンが中途半端に攻略された事と、島で贋作作る話ってどう繋がるの?」
ルルの質問はもっともだ。
中途半端に解放されて世界に放り出されたっていうのは、ちょっと同情しないでもない。けど、それがなんで島まで来て犯罪行為に手を染めているのか。
「……それは、我の願いのためだ」
ルルの質問に極彩色パレスは先ほどまでのイライラした声を抑えて静かに話し始めた。
「我の願いは使命の真なる達成。つまり、正しく我がダンジョンが攻略されること。しかし、我がダンジョンは人間どもに便宜上攻略された状態。復活は難しいだろう。他の島も駄目だ。ダンジョンの無い島は無いからな。――ただ一つを除いて」
「ちょっと、その言い方。もしかして……」
私は自分の考えた予想の最悪さに顔がひきつるのを感じた。
「まさか、お前達の目的は島自体なのか?」
ログ君も気が付いたようで、小箱を睨みつけながら答えを口にする。
「その通り。我らが目的はガル・アルカデ島だ」
その時、表情の無い小箱がにやりと笑った気がした。
「我はこの島を第二のダンジョン極彩色パレスにするために来たのだ!」
【設定;ダンジョンの意志】
冒険者に昔から伝わるおとぎ話の一つ。
話す人によって細部は違うが、ダンジョンにいる大精霊であること。一つのダンジョンとそのダンジョンがある島の全てを管理していること。その大精霊はダンジョンが攻略され島が解放されると同時に消えてしまうため、冒険者の誰もその姿を見る事は無い。という部分は共通して語られている。
それ以外の部分は語り手によってばらばら。
元は、誰かが入る事を前提として作られている様に見えるダンジョンに疑問を感じた冒険者達の間で囁かれた迷信の類。
だったのが、極彩色パレスの存在で共通部分は大体当たっていた事が判明した。




