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第7話  コータ、アンジェリカとの微妙な温度差を感じる。

 

 晩御飯を食べ終わると、アンジェリカは何を思ったのか僕を抱き上げると急に踊り出した。

 ――楽しくて仕方ないといった感じで。

 余程シンシア嬢の研究が気に入ったのだろう。

 食事中はずっと我慢していたのだと思う。

 侍女のナタリーが食器を持って下がるとすぐだった。

 

≪……あのシンシアって子は凄いこと考えるね≫


 僕は彼女に振り回されながら話しかける。 

 彼女は学年こそアンジェリカと同じだけど、前世を含めれば遥かに僕たちより年上でたくさんの経験をしている。だから見た目に騙されてはいけない。

 僕たちの手に負えない、したたかな女性なのだ。

 利用されるだけ利用されておしまい、という可能性もある。


「うん! やっぱりあの子は凄いね!」


 僕と全く違うテンションで興奮の色を隠さないアンジェリカ。

 そういう意味じゃなかったんだけど……。



 放課後、シンシアに誘われて僕たちは彼女の研究室を訪ねた。

 そこにいたのはゴローと普通の雌猫との間に生まれた子供。

 遺伝子検査とかそういうものは知らないけれど、彼女たちが言うには確かにゴローの魔力を含んでいるらしい。 

 シンシアは間違いなく『マッドサイエンティスト』と呼ばれる領域に足を踏み込んでいる。 

 ただ彼女はアンジェリカの数少ない友達でもあるから、悪い風には言いたくないという気持ちもある。

 微妙なところだ。


≪大丈夫なの? そもそも生まれてくる子供は虚弱かもしれないんでしょ?≫


 まだ調べなくてはいけないことが山程あるらしい。

 まずは同族で健康な子供を産ませることを中心に研究するという。

 最終的に彼女たちが僕たちの子供を産む。

 出来るならば、人間の前世を持った人間の子供を――。

 先は長い。

 

「そうね、少なくともあのゴローの子供は召喚獣ではなかったわ。おそらく毒でも死んでしまうし、ちょっとした怪我でも命取りになると思う。シンシアの命令も届いていなかったわ」


≪でもゴローよりも大きかったよね? その辺りはいいことだよね?≫


「むしろ私たちはそっちが心配ね。そもそもコータもゴローも小さいのは私たちが小さくしているからなの。抱きやすいように、そして生命力を過剰に奪われないように――」


 そんなこと言っていたような記憶がある。

 アンジェリカは踊るのを止めると僕をスッポリと腕の中に抱いてしまう。

 布団の中に入ったみたいに周りが真っ暗になった。


「少なくともコータは私が大きくなれと願えば大きくなれるし、この城程度なら簡単に滅ぼせるぐらいの力だって与えることが出来るわ。……やらないけどね」

 

 彼女は僕の前足を広げて「がおー」と子供の一人遊びのようなことをし始めた。

 ……戦場でうんぬんという話も聞いた気がする。

 ようするに彼女がその気になれば僕は兵器になれるということらしい。


「その点あの子は勝手に大きくなってしまった。シンシアの考えと別のところで成長している。……ということは寿命があるということよ。それがいつになるのか。私だってコータの子供を産むなら丈夫な子供を産みたいわ」


 そう呟いて彼女は僕と一緒にベッドに倒れ込む。

 



 僕はアンジェリカに撫でられながらずっと考えていたことを聞いた。

 

≪――ねぇ、アンジェリカは本当に僕の子供を産みたいの?≫


「当然でしょ? だってコータの子供だよ?」


 彼女は何を今さらと言いたげに口元を歪める。


「赤ちゃんのときのコータってメチャクチャ可愛かったんだよ。ママさんに抱かれておうちに帰ってきたときのことは今でも思い出せるもん」


 アンジェリカは懐かしそうに僕を撫でながら話し出す。


「思う存分赤ちゃんのにおいを嗅がせてくれてから、『ほら、この子だよ。この子がお腹の中にいたんだよ。コータって名前だよ。モモも呼んであげて』って。――だから呼べないっての、犬なんだもん。……コータが私によく無茶ぶりしていたのって絶対ママさん譲りだよね?」


 アンジェリカはクスクスと笑い出す。

 親子揃ってなんか申し訳ない。


「でも私、頑張って呼んだんだよ。『コータ!』って。いつもベビーベッドに寝かされているコータのところまでパパさんが持ち上げてくれてね。その度に何度も何度も『コータ!』って。――どうかこの子に幸多き人生をって願いを込めて、ね」


 自分の知らない話だった。

 僕はこんなにもモモと両親に大事にされていたのか。

 

「今度は私がママになるの。コータの子供のママに」


 彼女はうっとりして表情で呟いた。



 アンジェリカの純粋な思いは嬉しい。

 だけど彼女はモモなのだ。――犬なのだ。

 正直モモを女性と見ることは厳しい。

 もちろん今はアンジェリカという美少女だ。

 きっと成長したら誰もが彼女の心を射止めたいと願うだろう。

 僕だって前世で彼女に出会っていたらきっと心惹かれただろう。

 だけど今度は僕が犬なのだ。

 ある意味、僕たちは人間同士で犬同士。

 これ以上ない程お似合いの組み合わせと言えるかもしれない。

  


 結局僕はいつものように棚上げすることにした。

 今は深く考えない。

 とりあえず、一緒に過ごすうちにに解決されることもあるだろう。

 僕の悪い癖だと知っている。

 でもこればっかりは今決めるべきことではない。

 そもそも研究が成功したわけでもないのに。

 外的要因であっさりと覆されることもあるだろうし。

 そんな感じで僕は考えるのを辞めた。




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