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第10話  王子フィリップ、じいやに相談する。


 オレは帰国すると、父王やら大臣やらにチャッチャと報告を済ませて自室へと戻った。


「作戦を練りたい、じいやを呼んでくれないか?」


 部屋付き侍女に指示を与えて、自分はこの堅苦しい王子服を脱ぎ捨てる。

 準備されていたコーヒーを飲んでいると、やがてノックが聞こえてきた。

 応じると背筋を伸ばした老爺が扉を開ける。

 彼は侍女に「ここまでで、結構です」と言い残し、後ろ手で扉を閉めた。

 そして一呼吸おいてから、その真面目腐った顔を崩す。 


「……で、どうだったんだよ、にいちゃん?」


 じいやが人懐っこい笑みで聞いてくる。

 ――別にボケている訳じゃない。

 いっそボケてくれたら、と思うことは度々あるが。

 

 

 オレは現世で高校・大学と勉強して一角(ひとかど)の実業家になることが出来た。

 ちなみ兄は医者。優秀だった姉も結婚して家に入り、立派な子供を育て上げた。

 オレたちは戦後のあの貧しい時代を生きてきたので、最悪食えりゃいいの精神で生きてきた。だから余計な蓄財などに興味を持たず、出来るだけ従業員や地域に利益を再分配していた。

 そのこともあって、有難いことに勲章や地域の名誉賞も頂いた。

 そういう意味で、オレは地位も金も名誉も全て手に入れたといえる。

 そして何より家族に見送られて畳の上で死ねた。

 やり残したことが無い訳ではなかったが、戦争で死ななかっただけ儲けモノ。

 ――疎開しなかった五歳の弟と両親はあの日、東京大空襲で死んでしまったのだから。

 そしてオレは一国の王子としてこのセカイに招き入れられた訳だ。

 システムやら何やら、そういったセカイの仕組みを知ると納得した。

 能力を買って貰えたのだ、と。

 前世での功績を高く評価して貰えたのだ、と。

 当然ながら前世で後ろ指差されるようなことは一切していない。

 死んだ両親や弟の顔に泥を塗ることだけはしないと兄姉と誓いあったのだ。



 生まれ変わって数年後のある日、オレはこの国の有力貴族の爺さんと面会した。

 彼は優秀な人間だとして知られていた。

 すでに隠居して、後は再び現世に生まれ変わるのを待っているという状態らしく、適当にフラフラしていた。

 だから彼はオレの『養育係』として目を付けられた訳だ。

 じいやと二言三言話すだけで十分だった。

 オレは彼を自分の側近に据えると即決した。

 そして話の流れで前世のことを教えあったのだ。



 彼は幼少の頃、東京大空襲に遭ったそうだ。

 父と母にかばってもらったけど結局焼け死んだらしい。

 そしてこのセカイにやってきたそうだ。

 常識なども一切分からず、一から覚えなければならないので大変だったが、一生懸命勉強して仕事をこなして名を挙げたのだという。

 メチャクチャ感動した。

 前世の知識こそがモノをいうこのセカイで有力貴族にまで上り詰めるとは!

 歯を食いしばって頑張ったに違いない。 

 オレにも大空襲で死んでしまった弟がいたのだと伝えた。

 するとじいやにも上に三人の兄姉がいたのだという。

 何という偶然の一致! 

 他人のような気がしなかった。

 オレたちはすぐ意気投合した。

 だが、その日は何故か何も確認せずそのまま別れてしまった。

 その夜どうも気になって眠れず、翌日思い切って自己紹介しあう。

 ――やっぱり弟だった、と。




「――はぁッ!? ……あの犬姫様に一目惚れって!?」


 話を聞くなり、じいやは爆笑する。

 一方オレは憮然とした顔で彼を睨みつけた。


「しかも、仔犬を抱いていたって!?」


 腹を抱えるじいや。目に涙が滲んでいる。

 ――もう、いいだろ!?

 オレの精神力がガリガリと削られていく。

 コイツと話をしていると、いつもこんな感じになる。

 

「おまけにその場で振られるって! ――イタイ、痛いって、殴るな。年寄りを大事にしろっての!」


 堪忍袋の緒が切れて殴り掛かるオレから、軽やかな動きで逃げ回るじいや。

 ちなみにこの程度の殴る蹴るでケガをする程、このセカイの住人はヤワではない。

 それを知ってお互いじゃれているだけだ。



 ひとしきり暴れたあと、オレ達は落ち着いて椅子に座る。


「……しかしまさか、本当に犬姫っていたんだな。いったいどんな功徳を積んだら王女になんて生まれ変われるんだか?」


 じいやが首をひねる。

 そう。

 王族に生まれるのにはそれなりの理由がある。 

 ある一定以上の教養、実務能力、誇りの高さ。

 彼女と同時期に死んだ人間の中にもそれなりの人物はいたはず。

 なのにそれらをゴボウ抜きにして、王女に生まれ変わるだけの資質を備えた犬ってどんなのだ?


「……忠犬ハチ公、とか、かな?」


「……ん? 何だ、それ?」


「そっか、知らないか。……まぁ有名になったのは戦後だし、な」


 怪訝そうな顔をするじいやに、「気にするな」手を振って笑いかける。




「だが、これからの時代、そんな前世の王族もありえるかもしれねぇな。人間の質が下がって犬猫の方がよっぽど立派な生き方をするってのは十分ありえる話だ」


 オレが死んだのは二十一世紀に入ってすぐだったが、すでにその予兆はあった気がする。

 無責任な飼い主とそんな主人に尽くすペット。

 どちらが上かは明らかだ。


「……あの清らかな日本が、か。……何とも世知辛いねぇ」


「あぁ、全くだ」


 二人して溜め息をつく。




「――で、何かいい案はないか?」


 オレが切り出すとじいやが目を丸くして驚いた。


「本気かよ?」


「あぁ、本気も本気。メチャクチャ好みだ」


「確かロリコンっていうんだっけ?」


 じいやが正気を疑うかのような目でオレを見てくる。

 まさかコイツにそんな目をされる日が来るとは……。 


「うるせぇ、そんなんじゃねぇよ!」


「はいはい、それなりの手を用意しておくよ。……思いつくだけで何手かはあるから」


 オレたちの弟だけあって、じいやもそれなりに使える頭脳を持っていたようだ。

 もし戦争を生き抜いていたら、オレを軽々と超えていくような人間になれただろうに。


「しかし、にいちゃんにそんな趣味があったとはね」


 ニヤニヤするじいや。


「だからロリ――」


「いやいや、まぁそっちも大概なんだけど、()も大丈夫なんだなって思ってさ。……いやいやホント日本も随分と変わったモンだなぁ」


 じいやがしみじみと呟く。


「……ッ! ……ちがっ! てめぇ!」


 じいやはひとしきりオレをからかってから、そそくさと部屋を後にした。

 そしてオレはいつものように憮然とした顔でじいやを見送るハメになってしまった、と。 

 これがオレたち兄弟の日常だった。




これで一章が終了です。

一章十話編成は前作「2周目は鬼畜プレイで」と同じですが、何章で終わらせるかは決めていません。

前作の目標は完走することでした。何を置いても完走。

その為に12章完結と決めて、起承転結を決めて、序破急を決めて、とガチガチの構成でやりました。

その結果としてストーリーカット、シーンカット、キャラカットの嵐となってしまった次第です。

番外編で幾らか供養したつもりですが。



ですので今回の目標は「出来るだけカットせず、思いついたストーリー、キャラなどを反映していく」ことです。

蛇足、ダラダラ、グダグダになる可能性が十分考えられますが、そう決めました。

終わりから話を作っていくタイプの人間なのですが、今回は明確にどう終えるか決めていません。

一応候補は3つ程用意していますが……。



おそらく今まで私が書いた作品とは一線を画することは間違いないでしょう。

でも、ちょっとやってみたかったんです。

ということで、これからもよろしくお願いします。

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