魔族殺しの男
「様子見てくる」は死亡フラグですね。
「うぐっ……!?
ビリーの吐いた血がジョシュアに降りかかる。ジョシュアはビリーの体から拳を抜いた。ビリーの体に空いた風穴は少しずつ塞がってゆく。
だが、ビリーはこのときもキューブを開封した。
――ジョシュアにスライムが降り注ぐ。
ジョシュアはキューブから出たスライムに溶かされないようにとビリーから距離を取った。自分の使う能力だからこそ危険性を知っていたが、それが命取りとなる。
ビリーの周囲に浮かぶキューブは二つ。いずれも光の魔法が詰められている。それも、高圧ガスをスプレー缶に詰めているように。開封してしまえば高威力の光の魔法がジョシュアを襲うだろう。
「油断したな、吸血鬼」
光が詰まったキューブが一つ開封された。光の魔法はビームとなってジョシュアの足を直撃する。
痛み。片足が失われる感覚。ジョシュアは足を再生することなどかなわず、倒れこんだ。光の魔法によってジョシュアの右足の膝から下は失われた。
「終わりだよ。今度こそ僕の勝ちだ」
片足を失ったに等しいジョシュアはかなり不利な状況に追い込まれていた。
そのとき、彼の後ろに一人の男が。
「吸血鬼退治は俺の仕事だ!」
光と雷を包んだ音波がビリーの頬をかすめ、彼の頬に傷を作った。
シオンだ。吸血鬼となったビリーが最も警戒していた人物が現れる。
シオン・ランバート。イデアという能力を持っていながら伝統的な光の魔法も習得している魔物ハンター。魔族をも倒した男。イデア使いたちの中でかすんでいたものの、彼もまた英雄なのだ。
「よりによってお前か。警戒はしていましたが、目障りなことこの上ない。1対1で戦っていたというのに。そもそもなぜおまえは僕が吸血鬼だということを知っている」
ビリーは新たにキューブを出し、シオンを取り囲むように氷の壁を張った。彼を足止めしているのをいいことに、ビリーはジョシュアに向かってキューブに詰められた光の魔法を放った。
その攻撃は太陽のようだった。強い光の魔法は傷を負ったジョシュアを一瞬で溶かし、灰にした。
「ジョシュアァーッ!!!」
ジョシュアが光の魔法を受けた瞬間、シオンは叫んだ。一行の中で一番の実力があったと言っても過言ではないジョシュアの最期はあまりにもあっけない。
光が消えたとき、ジョシュアの亡骸――灰が空気の流れで散った。
「いずれ死んでいたというのに何を騒ぐのですか。もしかして、救えるとでも思いましたか?」
ビリーは言った。
彼はどこまでもシオンの神経を逆なでする。氷の壁に囲まれたシオンは眉間にしわが寄るほど顔をしかめた。
「そんなに僕が憎いならかかってこればいいのです。それとも、僕に恐れをなしましたか?」
ビリーは言った。すると、シオンはビリーに背を向けることなく後ろ向きに歩き、壁に囲まれていない場所に出た。
「そのつもりはねえよ。できる限り怒らないようにしているだけだ。たかがアンジェラの犬に怒るのも気分が悪いんでな」
と、シオンは言った。
シオンとビリーの間に険悪な空気が立ち込める。それに耐えることを放棄したのか、ビリーはさらに5個のキューブを出した。
そのキューブを無言で放つビリー。中身はすべて氷の針。シオンは体を中心にして氷の針の場所を探る。場所がわかればシオンは氷の針を避けた。
シオンが攻撃を回避する間にビリーの傷は塞がった。これが吸血鬼の再生力。破れた服は元に戻らなくてもビリーはすでにもとに戻っていた。
「……ふむ。次はこいつだ」
ビリーはシオンが次の攻撃に移る前にキューブを出した。その攻撃は緑色のスライム。ジョシュアの能力である。
シオンは一瞬思考が停止する。
「思考が乱れましたね?」
叩き込まれるスライム。シオンはなんとかしてその攻撃を回避した。が、ビリーは次々とキューブを出してはスライムを叩き込んでくる。
スライムが着弾した床は表層が溶かされて床の素材があらわになった。何かの骨が固められているような素材。シオンは戦闘に邪魔だと判断し、それを見なかったことにした。
「くそっ、お前はどれくらい能力の一部をコレクションしているんだ?見たところ相当な数のコレクションがあるみたいだが」
スライムでの攻撃を避けながらシオンは言った。
「さあね。僕も覚えてないんですよ。水を飲んだ回数がわからないのと同じです」
と、ビリーは答え、今度は炎を放つ。
シオンはとても気分が悪かった。仲間を殺された上に、殺した仲間の攻撃を奪ってシオンを殺そうとしている。まるで、シオンに嫌がらせでもしているようだ。
だが、ビリーは確実に消耗しているように見える。シオンは、ビリーが血を吸わずに何度か負った重傷を治したことを予想する。
「ちっ……さすが鮮血の夜明団。うまいごと回避しやがる」
と、ビリーは小声で毒づいた。次の手は、と考えながらビリーはキューブを出す。今度は爆薬。吸血鬼ではないシオンには致命的なものだ。
ビリーはキューブを開封し、解き放たれた爆薬は大爆発を起こす。屋敷の床や壁の素材の一部を吹っ飛ばし、破片が辺りに散らばった。
煙が辺りに立ち込める。煙はシオン、ビリー双方の姿を隠した。お互いの動きが読めないこの状況で、シオンは音波を放った。
「よし」
シオンは煙で周囲が見えない中で動いた。これでシオンは先手を取れる。
シオンの両手の人差し指の先に光の魔法のエネルギーが溜められる。この一撃が勝負を決めるかもしれない。
煙が揺らめく。ビリーの動きをシオンは完全に読んでいた。それから光を撃ち込む。
シオンは右手の人差し指の先から光を放った。
「アアァアァァァァッ!?」
煙の中からビリーの悲鳴が聞こえた。シオンはどこに命中したかどうかわからなくとも、ビリーに光の魔法を当てたことを確認した。
ビリーがこのまま死ぬか、まだ抵抗するのか。シオンはビリーの抵抗を見越して右手の人差し指の先に再び光を溜める。
煙が晴れる。それと同時にシオンは左手の人差し指の先から光を放った。
「ガハッ……」
命中したところは左胸。心臓を貫いていてもおかしくない部位だ。
シオンが目視したビリーはこめかみと左胸を光の魔法によって大きく損傷していた。その傷も徐々に浸食されている。
「シオン……死なばもろともだ!」
ビリーは最後の力を振り絞ってキューブを出す。中身は朱色の薔薇。シオンはすかさず溜めていた光の魔法をビリーの頸動脈付近に撃ち込んだ。
「今死ぬのはお前だけだぜ」
シオンの顔は非情だった。3発目を撃ち込まれたビリーは光の魔法によって浸食されて灰となった。
早く4人と合流しなければならない。シオンは踵を返し、他の4人を残した場所に戻るのだった。ジョシュアが生きた証は残らない。だが、彼は確かにシオンや杏奈たちとともに異界を旅したのだ。
解説
ビリー・クレイ
キューブのイデア
展開範囲:並 密度:低(同時に出せる個数は6が限界) 継続時間:5分(出したままの状態) 操作性:並 隠密性:並
キューブの中に何かを入れて保存する能力。保存するものは物体に限らず、敵の飛び道具による攻撃も保存できる。出し入れすることで戦闘に応用できる。




