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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
98/107

人間の弱さ

前回までのあらすじ

頑張っても勝てないからビリーは人間をやめたいようです。

 血だまりの上に横たわるビリー。彼の手には紅石(こうせき)ナイフが握られている。


「能力が珍しいが僕は弱い……ロザリアのように吸血鬼とのハーフでもなければデュークのように頭がいいわけでもない。ネブリナやヴィダルよりも弱いさ……。頑張っても僕は勝てなかったから僕は戦いを()けた。我ながら良い選択だったと思う」


 歯のかけた口がにっと笑う。


「いくら強がっても人間って弱すぎるなあ……アンジェラ様のために満足に戦う力もない……やっぱり僕は人間をやめる」


 ビリーは紅石(こうせき)ナイフを手首に当て、それを引いた。傷口からナイフの成分がビリーの体内に入り込む。

 ――心拍数が上がる。息が荒くなる。ビリーの体細胞が別のものにつくりかえられてゆく。未知なる遺伝子がビリーを変容させてゆく。

 吸血鬼の力を得たビリーは傷も治り、立ち上がった。


「この力だ。やっとアンジェラ様のために戦える」


 ビリーの赤い双眸(そうぼう)が廊下の向こう側を睨む。まずすることは、ジョシュア達を片付けること。

 今夜のビリーは血に飢えていた。




「先輩、こっちです」


 小部屋から杏奈の声がした。シオン達は小部屋に足を踏み入れる。

 小部屋の中にいたのは杏奈だけではない。ノエルとグランツもここに隠れていたらしい。グランツは足を骨折しているようだが他二人はほぼ無傷らしい。杏奈の服に付いた血もどうやら返り血のようだ。


「とにかく無事でなによりだ。で、この洋館にいる敵はあと何人だ?」


 シオンは尋ねた。

 ノエルはすぐさま探知の文字列を展開する。屋敷を示す長い長い文字列の中に、敵の状態が表示される。


「ええと、アンジェラを含めて4人ですね。地下の隔離された場所に2人、あとはアンジェラと……シオンさんたちを追っている人です。誰かわからないけれどこっちに向かってきます!」


 ノエルは答えた。

 シオンたちを追っている人物と聞いてジョシュアははっとした。ジョシュアはビリーを完全に殺してはいなかったのだ。


「見てくる」


 ジョシュアは言った。


「大丈夫ですか?」


「問題ないよ。さっき再起不能にしたつもりだったが私たちを追ってきたのなら気分が悪い。自分の尻ぬぐいくらい自分でできなくてはね」


 ジョシュアはそう答えて来た道を戻っていった。

 小部屋にいる誰もが、ジョシュアであれば大丈夫だと確信していた。だから、彼を一人で行かせたのだ。

 ジョシュアが小部屋を離れた後、杏奈ただ一人だけが顔をしかめていた。直前に再起不能にしたはずの敵がこちらへ向かってくることに対して引っかかるものがあったのだ。



 うす暗い廊下の照明に照らされて吸血鬼の紅い目が光る。アンジェラか、とジョシュアは予想をつけた。が、その目の主はアンジェラでもない。

 キューブから放たれる爆薬。それはジョシュアの足元で炸裂した。


「どうやって傷を治した……いや、聞くまでもないな」


 ジョシュアは言った。

 対するビリーは無言でジョシュアに近づく。そして、キューブから光の魔法を放つ。光の魔法はジョシュアの左腕を貫いた。光の魔法が貫通したところからシュウシュウと煙が上がる。


「これでどうだ、僕と同じ吸血鬼。痛いか?」


 ジョシュアはその質問に答えるような真似をしなかった。ただイデアを展開し、ビリーの足を狙ってスライムで攻撃する。ジョシュアの展開するイデアは触れたものすべてを溶かす。

 だが、ビリーのイデアだけは溶かせなかった。ビリーの展開したイデアはジョシュアのイデアを捕捉した。


「相性が悪い……せめて接近戦で片をつけねば」


 ジョシュアはイデアの展開を止め、ビリーとの距離を詰めた。狙うは頭。ビリーのキューブの間を縫って彼の体に蹴りを入れる。態勢を崩したビリーに対して、ジョシュアは即座にイデアを展開しスライムの塊を叩き込んだ。ビリーの体のうち、スライムが触れた両足の膝から下が溶かされた。ビリーはそのまま床にたたきつけられた。


「これで最後だ、覚悟しろ」


 ジョシュアは攻撃をやめない。ビリーを生かしておく理由がないからだ。

 ジョシュアが展開したスライムの大半を一つにまとめ、ビリーに向けて放った。触れたものを無差別に溶かすスライムがビリーの視界に飛び込む。ビリーはまた別のキューブを出してスライムにぶつけた。爆薬、爆発、そして防ぎきれなかったスライムはすべてキューブに吸収された。

 爆発によって発生した煙が辺りを包む。


 ビリーの息はあがっていた。ジョシュアに敗北したときの傷を再生し、溶かされた足を生やしたことで血の生命力が失われているのだ。

 煙の中でジョシュアの影が見えた。ビリーは立ち上がってキューブをいくつか出す。その中には彼が今までに閉じ込めた中でも対処が難しいとされる「攻撃」だった。自傷しながらも敵を焼き尽くす炎、不可視である上に刺さったそばから対象を凍結させる氷の針、当たったものを木端微塵(こっぱみじん)に破壊する朱色の薔薇(ばら)、触れたものを溶かす緑色のスライム、そして吸血鬼の弱点である光の魔法。


「これより、僕がたちの悪い攻撃だと判断したものをお前に叩き込む」


 ビリーは言った。


 煙が晴れる。それと同時にビリーは一つ目のキューブを開封した。


「くるか」


 ジョシュアもキューブが開封される瞬間が目に入る。まずはは氷の針だ。ビリーのキューブから出された氷の針はジョシュアに向かってまっすぐに飛んでくる。

 ジョシュアはそれにイデアをぶつけて防いだ。スライム状のイデアは氷の針を受けて凍結した。もはやそれはジョシュアの意思で操ることなどできない。ジョシュアのイデアの半分以上が効果を失った。

 イデアを操ることができなくなったジョシュアに対し、ビリーはさらに攻撃を仕掛ける。

 炎と薔薇(ばら)がキューブから放たれた。


「ヴィダルと二コラの攻撃か……!」


 ジョシュアは投げ込まれる二つの攻撃のうち、炎の方へ突っ込んだ。薔薇(ばら)の効果ならグランツから聞いていた。薔薇(ばら)の攻撃は基本的に危ないということをジョシュアは知っている。

 炎を抜けてジョシュアはビリーの目の前に飛び込んだ。


「どう足掻いても勝てないから人間をやめたんだな、君は」


 ジョシュアが全力を込めて叩き込んだ拳はビリーの胸部を貫通した。ビリーは血を吐き、その血はジョシュアの体にもかかる。



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