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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
97/107

禁じ手

ビリーは性格悪いと散々言いましたが強さの方はどうでしょう。自分の目でお確かめください。

 タリスマンの町が夜の闇に包まれる。二コラはネブリナと戦った地下通路から地上に出た。まずはシオンたちと合流しなければならない。


 血だまりのある街灯の下、シオンとジョシュアは二コラを待っていた。二人は特に変わったところもなく、シオンに至っては意識を失っていたことを感じさせない様子だ。この様子を見た二コラはそっと胸をなでおろす。


「ノエルたちから手紙を受け取った。どうやらあれに入る方法があるみたいだな」


 シオンはそう言って空に浮かぶ洋館を見上げた。夜の空の洋館は怪しげな光を発し、いかにもといった雰囲気だ。

 3人は洋館に向かって歩きだした。




 住宅街を抜けたその先にはクレーターがあった。それは洋館の下の部分がパズルのようにぴったりはまりそうな形をしている。

 クレーターを見たシオンは、ノエルから受け取ったという手紙を広げた。


「クレーターの底らしい。クレーターの底にある魔法陣から洋館に入れるんだと」


 シオンは言った。


「一応入る手段はあるんだな。じゃなきゃアンジェラの手下はどうやって出入りするかって話だけどな」


 と、二コラは言うとクレーターのなだらかになった坂を下りはじめた。クレーターの坂は想像以上に傾斜が急で、二コラはバランスを崩しそうになった。


「ああ、これは面倒な坂だね。シオン、ちょっといいかい?」


 ジョシュアは言った。彼が何をするのか、シオンにはわからなかった。が、ジョシュアはシオンの返事も待たずに彼を抱きかかえた。


「何のつもりなんだ!?俺、そういう趣味は……」


「こうした方が早いだろう?私は吸血鬼だから平気だ」


 ジョシュアはそう言って走り幅跳びのように助走をつけると、クレーターの中へ飛び込んだ。風がシオンとジョシュアの頬を打つ。

 着地。二人は二コラより早くクレーターの底にたどり着いた。


「さて、あとは二コラを待つだけだな。合流したら洋館に殴り込みだ」


 ジョシュアはシオンを下ろしながら言った。シオンからはその顔が死地へ向かう兵士のように見えた。ジョシュアには確かな覚悟がある。


 しばらくして二コラがクレーターの底にたどり着いた。彼は土で汚れているものの、怪我をしていた様子はない。


「いくぜ。早いとこアンジェラを倒さないとな」


 3人はノエルからの手紙に書かれていたとおり、クレーターの底の魔法陣に乗った。ゴゴゴゴ、と地響きがしたと思えば、円形の岩が地面から分離する。それは淡い光を放ちながら洋館へとのぼってゆく。まるでエレベーターだ。足を滑らせて落ちないのだろうか、と考えた二コラは手を伸ばす。が、青緑色の実体のない何かがそれを阻む。どうやら落ちる心配もない、ということだ。

 遠ざかっていく住宅街を見る3人は岩が洋館にたどり着くまで終始無言だった。



 やがて岩は洋館にたどり着く。それは玄関からほど近い場所に空いた穴にすっぽりとはまった。3人は玄関と反対側へ歩いていく。薄暗い廊下にともる緑色のランプは、この洋館に吸血鬼がいることを証明している。

 少し歩いたところで先頭を歩いていた二コラが立ち止まった。死体だ。喉や胸にいくつも穴があけられている。彼を死に追いやったのはグランツだろうと二コラは推察した。


「先に進もうぜ。杏奈たちは先に行っている可能性がある」


 二コラは言った。

 彼の言うとおり、3人は先へ進む。が、3人を狙う者が一人。一つに束ねられた青い髪が揺れる。


「残るは僕一人。心臓をくりぬいて全滅させてやる」




 光の束が二コラの首筋をかすめた。

 二コラはすぐにイデアを展開。周囲を照らすことで襲撃者を見つけ出そうとした。

 ――青色の髪、黒いスーツ。

 鬼のような形相の男がキューブの中から何かの攻撃を放った。


「伏せろ、二コラ!」


 ジョシュアはイデアを展開して攻撃にぶつけた。攻撃は溶かされて消える。


「生きていたか、ビリー。死角からコソコソやったところで意味はないよ」


 と、ジョシュアは言った。


「意味はないか。汚いとか言ってくれるかと思ったのですがね。その返しは想定外です」


 ビリーは言った。二人の間に緊張した空気が流れる。先に動いた方が負ける、という形だ。が、ここで動いたのはビリーでもジョシュアでもない。

 炎がビリーの髪の毛先をジュッと焼いた。


「影からコソコソやるってなら俺たちは2対1だろうが汚くやるぜ。すでに手を汚した存在だからな!」


「ふむ……」


 二コラの放った炎はビリーの出したキューブに閉じ込められた。


「いい炎だ。ですが、その火力が命取りになりますよ」


 ビリーは彼の周囲にいくつもキューブを出した。それらには様々なものが詰められている。光の塊、誰のものとも知れない攻撃。

 ビリーはキューブを二つ投げた。中に詰められていた火薬と光が炸裂する。間髪を入れずキューブが投げ込まれる。今度は二コラの炎。


「やはり生きているでしょう。人でなしめ」


 静観するビリーは言った。

 ビリーの予想どおり、爆風と炎の中で人影が動いた。1秒後に飛びだすジョシュア。


「私は人でなしだよ。だから何だ?」


 ジョシュアはビリーに詰め寄り、彼の首根っこを掴んだ。それから、殴る、蹴る。吸血鬼であるジョシュアの拳や蹴りは人間のそれをはるかに上回るパワーだった。


「我々には時間がない。君が動けなくなれば、それでいい」


 ビリーの顔に叩き込まれる拳。彼の顔は少しずつ変形していく。頭蓋骨が陥没し、顔以外の骨も折られた。仕上げとしてジョシュアはボロボロになったビリー投げて壁にぶつけた。


「行こう。早いとこ合流しないと」


 ジョシュアはシオンと二コラとともに先へ進む。

 ビリーには3人の様子が見えていた。が、動けない。全身の骨を折られたビリーの体は息をするだけで痛む。


「アンジェラ……様……」


 ――生きねば、生きねば、生きねば。ビリーの中で思考が巡る。ビリーは痛む手をスラックスのポケットに突っ込んだ。熱くも冷たい感覚がその中にはある。


 吸血鬼化するアイテム紅石ナイフが、そこにはある。


「アンジェラ様のためなら、僕は人間もやめられる」



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