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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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不正アクセス

何に不正アクセスしたのかは読めばわかります。多分!

「何をしたのかわからないけれど、勝手に引っかかってくれたんだね」


 ロザリアにノエルの冷たい声が浴びせられた。壁際で杏奈はうずくまっているが、ノエルは無傷。彼女はロザリアの死角にいた。

 それでもロザリアは冷静さを失わない。ロザリアは持っていたフランベルジュをノエルに向けた。


「私は時間を止められる。その止まった時間の中でお前を殺す手段はゼロというわけではない。それが嫌なら解きな、足元の術を」


 ロザリアは言った。彼女が何をするのか、杏奈やノエルには読めなかった。が、今杏奈にロザリアの殺意は直接向けられていない。

 立ち上がった杏奈はイデアを最大に展開し、ロザリアに斬りかかった。


 ギィン、という金属のぶつかる音が廊下に響いた。ロザリアの首を狙った杏奈の鉄扇。即座に首をフランベルジュでガードしたロザリア。

 2人の獣のような瞳がにらみ合う。

 杏奈がフランベルジュを振り払って距離を取る。その瞬間に時が止まった。


「残念だが、止まった時を認識できる者はいないらしいな。ひとまずそいつを……」


 ロザリアは体の向きだけを変え、ロザリアに向かってフランベルジュを投げようとした。このとき、ノエルの顔がロザリアの方を向く。


「殺そうって話でしょ。でも私は動ける。あなたも動けるはずだから、動いてみれば?」


 困惑するロザリアを前にしてノエルは言った。はめられている気がする、とロザリアの直感は叫んでいる。ここでノエルの話に乗るか乗らないか。ロザリアはすぐに決断した。

 地面を蹴る。ノエルとの距離を詰める。彼女の脇腹に蹴りを入れる。ロザリアの足に衝撃が走る。

 ノエルの体は文字の防御壁で包まれていた。


「それがあるから攻撃を受け付けないってことかい。ひょっとして、それを解除すれば止まった時の中では動けなくなるのかな?」


 ノエルは答えない。


「ま、敵に手の内を明かすのは相当自信があるときだけだ」


「あなたは止まった時の中で行動する私を前にしてまだ自信があるっていうの?」


 ノエルは言った。

 ここでロザリアはノエルより先に動いていた。感情のままに。

 ふっ、とノエルは笑う。

 ロザリアが降りぬいた剣はノエルを切り裂かない。防御壁に阻まれ、剣が盾に当たるときの音が廊下に響く。


「で、あなたが時を止めていられるのは何秒?それほど長い時間止められないと見たのだけど」


「目安は30秒。あるファクター次第で変動はするがね」


 ロザリアは答えた。


 ――時は動きはじめた。

 杏奈は素早く体勢を立て直してロザリアに近づく。鉄扇で首を狙い、一閃。ロザリアはまたしても剣で受け止める。


「くそ……!」


 杏奈は剣を振り払い、さらに距離を詰める。

 見ているノエルは杏奈を見ていられなかった。いずれ時を止められて、下手すれば負ける。そしてノエルには新たな考えが浮かぶ。

 杏奈だけをガードする防御壁を張って、ロザリアを倒すのは彼女に任せる。それがノエルの出せた答えだった。

 ロザリアの視線がノエルからそれたとき、ノエルは賭けに出た。攻撃用の文字と同じように、文字の防御壁を杏奈に向かって撃ちこんだ。

 ――止まった時の中へ入り込むために。


「杏奈!ロザリアは時を止める!それがロザリアの能力!」


 ノエルは叫ぶ。杏奈が聞いていようがいまいが伝えなければならない。

 ロザリアとの距離を詰めた杏奈。対するロザリアは左手で杏奈の首根っこを掴んだ。

 ロザリアの力は強い。首根っこを掴まれた杏奈も、ロザリアの力が自分よりはるかに強いことを悟る。人間の力にしては強すぎるのだ。


「私が時を止められなかったらあんたは確実に勝っていた。相手が悪かったな」


 ロザリアは杏奈を少し離れた地面にたたきつけた。

 杏奈の体に鈍い痛みが走る。杏奈は震えながら状態を起こした。


「止まった時に入り込まなくては、勝ち目は――」


「時は停止する」


 ノエルが叫ぶ中、ロザリアは非情にも時を止めた。彼女の周囲に時計の文字盤とホロスコープのようなビジョンが現れる。文字盤の中央の光はその一番上を指していた。


「3分か二人を始末するのにはこれで十分かな?」


 ロザリアはまずノエルに近づく。誰がこの止まった時間を認識してもいいようにと、足音は立てない。

 ロザリアがノエルの首を斬ろうとしたとき、彼女は後ろに気配を感じた。首筋に突き付けられた鉄扇。冷たい殺意は確かに杏奈のものだ。


「私の勝ちだね。ノエルのおかげでアクセスできたみたいだ」


 ノエルの声は杏奈に聞こえていた。杏奈にとってにわかに理解しがたいことであったが、かろうじて理解していた。

 杏奈はロザリアの首を落とそうと鉄扇を振りぬいた。

 ガギン、と金属同士がぶつかる音が響いた。傍らにいるノエルにはその音は聞こえない。ロザリアは人間とは思えない反応の速さで杏奈の方を向いた。


「不正アクセスってわけかい」


 ロザリアは言った。


「この時間に入り込めないとあんたを倒せないらしいからね」


 杏奈は答えた。二人の間にピリピリとした空気が流れる中、1秒、また1秒と時間は過ぎてゆく。

 しびれを切らしたロザリアが先に動いた。


 お互いの刃がぶつかる。ロザリアは鉄扇ごと杏奈を振り払った。バランスを崩した杏奈にさらに斬撃を加える。もちろん防御壁に阻まれてロザリアの剣が刃こぼれする音が聞こえる。

 ――まるで千日手だ。止まった時の中、ロザリアがノエルを倒そうとすれば杏奈が立ちふさがる。杏奈を倒そうとすればノエルの能力で阻まれる。杏奈も首を落とそうとすればロザリアの反応速度にはかなわない。


 ロザリアは距離を取り、一度闇の中へ消えた。依然として時は止まっている。


「あいつは一体何を……?」


 残り2分。



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