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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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時は停止する

ロザリア戦です。時間停止の描写で悩みました。

 アンジェラの館の執事ロザリア。彼女は執事として、アンジェラの友人として信頼されていた。そのロザリアは今、ルーン石の置いてある小部屋にいる。

 この洋館が浮いたときからルーン石は強い光を放ち続けている。だが、強い光はルーン石の効果の副産物でしかない。ルーン石の本当の効果はいくらアンジェラに信頼されているロザリアであっても教えられてはいない。アンジェラと×××の最高機密だから。

 アンジェラが小部屋を出て30分ほど経った頃、ロザリアは妙な気配を感じ取る。ドロシーことドリー・フォースター、ヴィダルの二人の気配――イデアの反応が消えた。それだけではなく、侵入者が二人やってきたのだ。


 椅子に座っていたロザリアが立ち上がる。

 ――ネブリナとデュークは死んだ。ヴィダルも死んだ。ドリーもいない。

 次は自分だ、と言わんばかりに彼女は小部屋を出る。この館で異常事態が起こっているということを彼女はいち早く察知した。


「私が侵入者を殺す」




「この洋館にいるのは私と杏奈とグランツ。二コラとジョシュアは夜まで来ないのかもね」


「そうなるな。外套を持っているとはいえ、戦闘でなくすことだってありうる」


 洋館の廊下で二人は話していた。ノエルも今の状況はそれとなく理解している。この不透明な状況で――

 ノエルの髪が一束斬られた。それは一瞬のできごと。いや、杏奈もノエルも知覚できないできごと。彼女たちの認識をはるかに上回るできごとがここで起きた。


「時は停止する」


 ある女の声とともにその空間の時が停止する。彼女はどこから持ち出したのかもわからない機関銃を停止した時間の中へ撃ち込んだ。しばしの静寂ののちに弾丸は動きはじめた。

 ――再び時は動き出す。

 弾丸が杏奈とノエルに向かって飛ぶ。遅れて聞こえた銃声に反応したノエル。彼女はふりむきざまにイデアを展開した。


 間に合え。


 間に合え。


 間に合え!!!


 弾丸はノエルの張った防御壁にはじかれて床に落ちた。ノエルの防御は間に合った。杏奈とノエルの周りに展開された防御壁がオレンジ色に光る。二人がひとまずは安心だと油断したときのことだった。


「脱走した上にドロシーまで殺したのかい?やはりアンジェラのもとにおいておくにはちと危険すぎたか」


 その声の主はノエルのすぐ後ろにいた。カラフルなメッシュの入った金髪、黒いスーツ、杏奈と同じくらいだと思われる身長。後ろに立たれたことでノエルはとんでもない圧迫感を覚えた。


「そうだな。ドロシーを倒しているんだから恐れることもないぞ、侵入者。あいにく機関銃も弾切れだ」


 彼女――ロザリアは言った。杏奈が見ても彼女は武器を持っていない。だが、安心するには根拠があまりにも不十分だ。

 杏奈はイデアを(まと)い、ノエルとロザリアの間に割って入った。最大にまで展開しているというわけでもなく、あくまでも様子見の範囲で展開している。しかし、杏奈はいずれそれがばれることを考えていた。力を隠していたヴィダルではあるまいし、と。


「至近距離にまで近寄るんだな。何をされるかわからないと……」


 ロザリアが言いかけたところで杏奈は彼女の首筋に鉄扇(てつせん)をつきつけた。


「至近距離でぶった切りたいからな。これでも伊達に吸血鬼の首は落と――……」



「――していない」


 はっ、と杏奈は気づく。目の前のロザリアが消えている。一瞬の出来事でうろたえる杏奈の後ろから忍び寄るロザリア。彼女の手にはフランベルジュ――刃の波打った剣が握られていた。


「まずはお前だ。さようなら」


 その剣は確実に首をはねようとしていた。杏奈は風圧に気づいて剣を受け止める。刃こぼれしてもおかしくない威力のものを杏奈はイデアを纏った鉄扇(てつせん)だけで受け止めている。鉄扇(てつせん)が壊される心配はないものの、ロザリアの力は強い。まるで吸血鬼。

 杏奈は剣を無理やりいなして距離を取る。

 が、それも意味はない。ロザリアは再び目の前に現れる。刃物と刃物がぶつかる音。杏奈は防御することしかできなかった。


「防いだね?全く、これだから鮮血の夜明団は!」


 ロザリアは杏奈の太ももに回し蹴りを入れた。杏奈はなすすべもなく吹っ飛ぶ。


「これで二人を処刑すれば問題はない。時は停止する」


 壁のそばには杏奈がうずくまっている。彼女の首を切り落とせば、戦力をそぐことができる。ロザリアは止まった時の中を歩き、杏奈に近づく。が、ロザリアは足元に違和感を覚えた。


「動かない……足だけが。一体誰が何を!?」


 ――何かが足に絡みつく感覚。絡みついた「それ」はロザリアの両足をがっちりと固定し、彼女の動きを妨害していた。

 動ける者がいたのか。それとも「得体のしれない能力」と判断せざるを得なかった杏奈の能力か。はたまた別の要因か。ロザリアは時を止めた範囲内で動けるのは自分ひとりであると信じていた。


 時は残酷にも過ぎてゆく。今ロザリアが止めている範囲内であれば1分間持続する時間停止。その効果は範囲に反比例する。

 20秒。


 30秒。


 40秒。


 50秒。


 1分。


 時間停止が解けた。1分の間停止していた空間が動き出す。

 ロザリアの足は固定されたまま。


「何をしたのかわからないけれど、勝手に引っかかってくれたんだね」



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