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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
93/107

見えない戦況

館に忍び込んだ人間は杏奈とグランツだけではなかった。今回初登場する人物で一応登場人物は出揃います!

 ドリー・フォースターの自死を見届けたノエルはもはや今いる部屋に用などない。ノエルは破られた出入口から部屋を出て来た道を戻る。


 廊下にはドリーが流したものと見られる血がついていた。それはノエルが進むにつれて多くなっている。極めつけはタイツを履いたまま体から引きちぎられた足。とくに右足の方には血だまりができていた。

 ノエルは口を覆う。目の前にある引きちぎられた足は人間ではなくなった吸血鬼だからこそできた結果だろう。少なくとも人間にはできない。



 しばらく歩いているとノエルの視界に170センチは超えているであろう女の姿が見えた。全体的に黒っぽい服装。ノエルを洋館までつれてきたロザリアと似たその姿はノエルの神経を刺激する。戦わなければ乗り切れない。ノエルはイデアを展開した。が、すぐにそれを消す。なぜならば――


「杏奈……!」


 その正体は杏奈だった。ノエルが手紙とともに送ったリボンで髪を結った杏奈がここにいる。もちろんノエルは彼女がどうやってここまでやってきたのか知る由もない。


「無事だったか。よかった。あと、手紙にどう解釈しても死のうとしているって書いてあったけどそれは何だ?」


 杏奈は言った。


「自発的に死ぬってわけじゃない。でも、この洋館を壊してアンジェラを昼間の屋外に引きずり出せばいいんじゃないかって。それで死ぬのは怖くなかったってだけだよ」


 ノエルは答えた。彼女の言葉を聞いた杏奈は一瞬「ふざけるな」と言いそうになったが、それをなんとかして飲み込んだ。そして、杏奈は髪を結っていたリボンを外してノエルに返す。


「やれやれ。あんたも自分を犠牲(ぎせい)にできるタイプの人なんだね。あんたが犠牲(ぎせい)になると今度は私の気分が悪くなりそうだ」


 と、杏奈は言った。何も家族のいるノエルが犠牲(ぎせい)になることはない。家族はいない、クラスメイトとも距離を置く、いつ死んでもおかしくないとの共通認識を持った仲間とのみかかわる自分が犠牲(ぎせい)になるだけでいいと。


 ノエルと合流した杏奈はこれまでのことを淡々と話す。ネブリナ、デュークの二人に襲われたこと、ヴィダルから逃れながらとある装置でこの洋館までのぼってきたこと、シオンと二コラとジョシュアはまだここにきていないということ。洋館までのぼるための装置の存在を知ったノエルは驚いていた。


「まだあの3人は来ていないんだね。そろってからアンジェラに挑むのが一番だし、ちょっと待っておこうか」


 と、ノエルは言った。このとき、二人は忍び寄る何者かの気配に気づいていなかった。




 ヴィダルと戦っていたグランツをあえて見逃したディ・ライト。彼はビリーに教えられた裏口を使ってアンジェラのもとを目指す。

 彼がアンジェラのもとを目指すのは、何も命乞いなどが目的ではない。目的はアンジェラを殺すこと。


『異界出身でなければアンジェラの好き放題にさせると危ない』


 ディ・ライトの脳裏にこの言葉が浮かぶ。この言葉は二コラの残した手紙が由来。ディ・ライトはかつての仲間である二コラを信じてみることにした。もし二コラの言うことが本当であればアンジェラを放っておくことは異界出身でない者にとってデメリットとなる。もちろんディ・ライトも例外ではない。

 アモットやメックスについてはどうでもよかったが、アルセリアの自決がビリーのせいだというあたりもディ・ライトにとって気に食わない事ではあった。その判断を下したのがアンジェラだとディ・ライトは見ている。


「俺にはアビスもいる。ヴィダルにやられていなければアンジェラの暗殺は……」


 ディ・ライトはタリスマンでくすねた刀の(さや)を握りしめる。これもアンジェラを暗殺するためだ。


 通路を進むとディ・ライトの知る「あの」気配が伝わってきた。アンジェラの放つ異様な気配。狂気とカリスマ性を併せ持つような。

 アンジェラはたった今美青年の生き血を(すす)っていたところだった。彼女は嫌な事があれば美青年の生き血を求めるという妙な(くせ)がある。やはり血を(すす)るなら美青年がいいとうことだろうか、もしそうならば5人の執事もいずれ血を吸われるのではないかとディ・ライトはふんでいた。


「やはりイケメンは吸血鬼にして血を(すす)るに限る。テストステロンも相まって強くなる気がするわ」


 アンジェラの独り言がディ・ライトの耳に入る。その瞬間ディ・ライトはぞっとした。だが、ここで止めるわけにはいかないと一歩を踏み出していた。

 振り上げる刀。これで首を落とせば――


「ネズミか?」


 アンジェラの周囲が気持ち悪いほどねじ曲がった。床と天井が入れ替わり、ディ・ライトの三半規管が引っ掻き回される。彼は一瞬で悟る。暗殺は失敗した。それでも彼はあきらめずにイデアを展開した。紫外線を放つ鞭は彼の右手に巻き付いた状態で現れる。鞭の放つ紫外線を当てれば刀でアンジェラを倒すことだって――


 1秒後。ディ・ライトは壁に激突していた。何が起きたのか理解できないディ・ライトは声もでない。


「いい度胸ね、ディ・ライト。どちらかというとアルセリアに生きていてほしかったのだがね」


 ディ・ライトの後ろからアンジェラは語り掛けた。


「お前の血はさぞかしいい味がするでしょうね。だが、紫外線使いの血など吸いたくない。奈落(ならく)に落ちな」


 後ろからせまる殺意。それは赤い物質の(かたまり)となり、中へとディ・ライトを引きずり込んだ。


 気が付けばディ・ライトは得体のしれない空間にいた。いくつもの柱で固定された地下空間。人の気配は感じられないが、そこら中に人骨が転がっている。ここでディ・ライトは悟る。自分は生きて帰ることができないと。ここは死の空間。

 顔をあげたディ・ライトの目の前には大柄な男が鎖でつながれていた。


「誰だ……久しぶりに放り込まれた人間か……?」


 その男は言った。目が充血し、口から牙が覗く。人間ではない。ディ・ライトは直感的にわかった。吸血鬼であれば紫外線を当てて刀で斬ればいい。ディ・ライトは刀を見る。それはいつのまにか折れており、もはや人を斬ることもできそうにはない。

 絶望。ディ・ライトはこれ以上何かを考えることはやめた。自分はここで殺されるほかはない、と。


「まあいいか。どうせおれ、死ねないし」


 男はあえてディ・ライトに手を出さなかった。が、ディ・ライトの状況は依然としてよくない。この空間からどうやって脱出するか。その手掛かりさえ皆無。

 ――一体ここはどこだ。



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