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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
89/107

アンジェラの館へ

グランツVSヴィダルその②です。

 杏奈はイデアを展開し、まっすぐに飛ぶ薔薇(ばら)の軌道を曲げた。空間に穴でもあけそうな彼女の姿にヴィダルは軽い恐怖を覚えた。


「アンジェラ様と似ている……」


 ヴィダルの視線は杏奈に釘付けだった。それが隙となったのか、ヴィダルはグランツの攻撃を左足のふくらはぎに受ける。


「おっと、よそ見するなよ。俺を倒したいんだろう?だったら、俺を相手にしろよ。お前、負けっぱなしでいたいのか?」


「黙れ!一度作った借りだ。死んでもお前を殺して返す」


 ヴィダルは言った。

 彼はグランツが思う以上に単純だった。自分に中途半端な誇りがあるからこそ貶められることを極端に嫌う。ヴィダルはそのような人物だ。

 ヴィダルは無言でグランツに向かって薔薇(ばら)を放った。

 グランツは薔薇(ばら)をなんとかして避けた。が、彼の周囲の地形が変化する。岩盤が崩れ、グランツもバランスを崩す。ここぞとばかりにヴィダルは薔薇(ばら)を放った。

 グランツの視界に入る白黒の薔薇(ばら)

 ――バランスを崩したからこそ当たらずに済んだ。ヴィダルの薔薇(ばら)はどれであろうとも破壊の力を持っている。


「クソ……これならクレーターの外で戦えばよかったな……」


 グランツは言った。バランスを崩して彼はクレーターの奥底に落ちていく。最後のあがきと言わんばかりにダーツを放つ。せめてこれが当たれば。

 ヴィダルは赤い薔薇(ばら)の花びらでダーツをはじいた。


「今度こそ僕の勝利だ……。結局君はこの程度みたいだな。ルーン石で僕が強化されているとはいえ」


 ヴィダルが勝利を確信したときもグランツはあきらめていなかった。この場所で戦うことが不利であれば場所を移せばいい。敵の本拠地ではあるがあの洋館。クレーターの中に比べたらグランツは有利に戦える。


「杏奈!ヴィダルが降りてきたやつで洋館に行くぞ!」


 転がり落ちながらグランツは叫ぶ。その声を聞いた杏奈は顔を上げた。彼女は今クレーターの底にいる。ヴィダルが降りてきたものはすぐ近くにあるのだ。


「わかった。そうしないと勝ち目はないな」


 グランツがクレーターの底に落ちてきたと同時に飛んでくる薔薇薔薇(ばら)。杏奈はイデアを(まと)った鉄扇(てつせん)薔薇(ばら)を叩き落した。鉄扇(てつせん)は無傷。

 彼女は足元に倒れたグランツを無理に引きずってクレーターの底の魔法陣の上に乗った。

 ゴゴゴゴゴ……と地鳴りのような音が響く。地面から浮き上がる岩盤の一部。杏奈とグランツは円形に切り取られたような岩盤とともに地面を離れた。岩は杏奈とグランツをのせてエレベーターと同じ速さで上昇していく。


「しまった……」


 ヴィダルは言った。が、完全に攻撃できなくなったというわけではない。まだ杏奈たちはヴィダルよりほんの少し下だ。

 ヴィダルは黒と白の薔薇(ばら)を放った。薔薇(ばら)は岩盤をほんの少し削っただけで杏奈とグランツに命中することはない。二人はヴィダルの攻撃を回避することができたのだ。


 ヴィダルは戦いでは勝てた。だが、勝負には勝てなかった。彼が上を見ると、円形の岩の上に立っている杏奈たちが上にあがっていく様子が見えた。


「また勝てなかった」




 円形の岩は洋館の下に空いていた穴を通り、その内部へ到着した。日の光が差し込まず、蝋燭(ろうそく)と緑色のランプが照らす廊下は不気味というにふさわしい。ここがアンジェラ・ストラウスの館。


「重苦しいな」


 杏奈はつぶやいた。円形の岩で上がってきたときの解放感とは打って変わって、これまでにない圧迫感が杏奈を襲う。彼女の頬を一筋の汗が伝った。


「大丈夫か?異界では体調崩すことが多かったみたいだが」


「それとは違う。まるで、ここから先には法律なんて通用しないみたいな重苦しさ。たとえるなら怨念(おんねん)かな」


 杏奈は答えた。冷静さを保とうとしても、彼女の感情は昂っている。隣にいるグランツにもよくわかる。


「落ち着けよ、な?」


 グランツは言った。


「わかっている。これからこの洋館にいる敵全員を倒す。こんなことにならなければ二コラに放火してもらってもよかったのだけど」


 と、杏奈は言った。その言葉には得体のしれない感情が宿っている。杏奈は大丈夫なのだろうか。


「杏奈。くれぐれも気をつけろよ。俺はきっと追ってくるはずのヴィダルを倒す」


「お願い。また合流しよう」


 杏奈は暗い廊下を先に進んでいった。そんな中、洋館の廊下に妙な振動が伝わっているのを杏奈は感じ取る。何かがぶつかる感覚。何者かが戦っているような。杏奈は一度立ち止まった。自分より先にこの館に立ち入った者がいるのか。それともノエルが脱走を試みたのか。杏奈は少し考えたかった。




 円形の岩が再び地上に降りてきた。ヴィダルは機嫌の悪そうな顔でそれに飛び乗った。


「まだ間に合う……二人を確実に殺す。シオンと二コラとジョシュアは後でいい。今は……」


 やがて円形の岩は洋館に着く。閉じられた玄関の見える場所に立つヴィダル。すぐ近くから感じる何者かの気配。味方では無ければ殺すまでだと考え、ヴィダルは攻撃しやすいようにイデアを展開した。青と黒と朱色の薔薇(ばら)を2本ずつ。



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