表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
88/107

洋館とクレーター

しばらくグランツが活躍します。

 「ここは私にしかできないだろう。杏奈とグランツは先に行ってくれるかい?」


 飲食店のテラスに置いてある椅子に座ったジョシュアは言った。彼が対峙している男はネブリナと違って戦士という雰囲気などない。なぜジョシュアが二人を先に行かせるのかは理解しがたいが、二人は先へ進むことにした。




 地図に印をつけた場所はすぐ近く。空中に浮遊する洋館もかなり近くに見える。

 やがて、住宅街を抜けた場所に深いクレーターのようなものが見えてきた。どうやら洋館はクレーターの上に建てられていたものらしい。

 地上からだいたい100メートルほどのところに浮遊している洋館は全く動く様子がない。揺れてもいない。


「すげえな」


 クレーターの上を見上げたグランツは言った。地上から見上げる洋館は迫力がある。どのように浮いているのかは知る由もないが、とにかくすごい。これがグランツの考えること。


「そうだね。どうやって浮かせたのかわからないが、さすが異界というべきか。吐き気以外で異界だということを思い知らされるとは。それと、問題はどうやって侵入するか」


 杏奈も言った。

 ここで問題が一つ浮上した。どうやって洋館に入るのか。洋館から伸びているはしごや階段もなければ、空を飛ぶ手段も杏奈たちにはない。


「俺にいい考えがある。ここに住んでいるのは吸血鬼なんだろ?だったら洋館の壁をぶっ壊せばいい」


 と、グランツは言うと彼の周囲にイデアが展開された。

 彼の考えはこうだ。貫通力の高いダーツのイデアで洋館の壁を破壊。その穴から太陽光を建物の中に入れ、住人を灰にしてしまうという算段だ。

 これは杏奈も考えていなかった。そもそも杏奈は今、アンジェラやドロシーを倒すことよりもノエルを助け出すことばかり考えていた。そんな彼女が今、この旅の本来の目的を思い出す。


「それは考えていなかった!」


「へへ、そうだろ?俺も今おもいついた。いくぜ」


 得意げな顔のグランツはダーツを洋館に向かって撃とうとした。

 そのとき、洋館の下から赤い光が地上に伸びてきた。赤い光の筋の中を一人の青年が魔法陣のようなものに乗って降りてくる。

 そこから飛ばされてくる青と白の薔薇。それに気づいた杏奈とグランツは咄嗟に飛びのいた。地面には斬撃を受けたような跡と小さな穴ができた。


「ヴィダルか……どんな運命だよ」


 グランツは洋館から降りてくる青年を見て言った。


「運命がどうのっていうのは間違いないけれど、あんたが再戦する以上覚悟を決めた方がいい。向こうだって対策をしていないはずがない」


 と、杏奈は言った。

 彼女はヴィダルのことをよくわかっていなかった。グランツと戦って、彼が勝利した相手、接近戦ではナイフを使っていたということくらいしか杏奈は知らない。


 やがて、魔法陣がクレーターの奥底に着き、ヴィダルが地面に飛び降りた。彼は挑発するかのように手招きをした。

 攻撃しようとするグランツを制止し、杏奈がずんずんとクレーターの下へ降りていく。


「おい!俺の方がヴィダルの事を知っている!俺にやらせろ!」


「うるさい!あんたがヴィダルのことを知っていても、ヴィダルだってあんたのことを知っている!」


 杏奈はそのままクレーターの坂を下りる。

 そんな彼女をただ見上げるだけのヴィダル。彼が地上0メートルより下に降りてから、杏奈やグランツに攻撃するそぶりは見せなかった。彼の意図は何なのかと杏奈は気になっていた。その後を追うグランツはただヴィダルを倒すことしか考えていない。


 クレーターの奥底にいるヴィダルは杏奈とグランツに攻撃を加えようとせず、クレーターを上っていた。グランツは攻撃しないヴィダルを不審に思い、攻撃をためらっていた。

 ヴィダルと杏奈のいる場所が同じくらいの高さになったとき、ヴィダルはすぐさまイデアを展開した。


「終わりだ!攻撃をためらったことが仇になったな!」


 薔薇が杏奈とグランツに向かって飛んでくる。

 この瞬間杏奈は理解した。ヴィダルのイデアは自分より高い位置にいる者を攻撃することはできない。杏奈はヴィダルに背を向け、クレーターの坂を上る。


「おい!背を向けるなよ!」


 グランツが叫ぶ。


「別に逃げるとかじゃない。あいつの弱点を見つけた」


「なんだって?」


 グランツは言った。

 今この瞬間、一番危ないのはグランツだ。少しよそ見をしたところに白い薔薇がせまる。グランツは咄嗟にダーツのイデアを薔薇に向かって撃った。二つの攻撃は相殺される。

 ヴィダルは顔をしかめた。


「グランツ。開けた傾斜の急な場所でのあいつはどう戦うと思うか?あいつは上にいる相手に攻撃できない」


 少し坂をのぼった、ヴィダルの攻撃を受ける心配のない安全地帯にいる杏奈は言った。


「そりゃ、自分が上に行くか俺らを下に……そういうことか!」


 グランツが何かに気づく。それと同時に杏奈の足元を狙うヴィダル。

 朱色の薔薇が杏奈の足元の岩盤を破壊した。崩れ落ちる岩とクレーターの下に向かって転がり落ちる杏奈。


「杏奈!」


 既に杏奈はヴィダルの攻撃できる範囲に入っている。それを好機と見たヴィダルは杏奈に向かって青と黒の薔薇を放った。

 杏奈の視界の端に入る青と黒の薔薇。彼女は咄嗟にイデアを最大に展開した。7メートル半径で杏奈を覆う高密度の星空のようなイデア。それを通過しようとした薔薇は軌道を捻じ曲げられ、杏奈は攻撃を回避できた。が、彼女はクレーターを転がり落ちていく。

 杏奈のイデアを目視したヴィダルは何とも言えない表情で彼女を見ていた。ほかの手下からの話とは違う、と。


「アンジェラ様と似ている……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ