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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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命の保証

本日のパートは残酷描写があります(直接と言えるかは微妙ですが)。

 タリスマンの町の地下道に光が差し込んでいる。ネブリナが巻き上げた砂に光があたり、それは(ほこり)っぽい部屋のよう。

 二コラとネブリナは光が当たるか当たらないかのところでにらみ合っている。


「話をしよう、二コラ・ディドロ。曲がりなりにも一時的に仲間だっただろう?」


 ネブリナは言った。

 二コラはかつてアンジェラの血で洗脳されていた。その時には監視役としてヴィダルやネブリナが見張っていたが、それをすり抜けて二コラはアンジェラを裏切ることとなる。

 その裏切り者にネブリナが仲間だったと言うのだから、二コラは余計に怪しんだ。


「もう一度こちら側に来るのなら歓迎するぞ。少なくともアンジェラ様は受け入れてくださる」


「断る」


 二コラは即座に言った。


「そうか。命も保証されているというのに。吸血鬼であればなおさらだ」


 ネブリナはどこか二コラをあざ笑うような口調だった。肝心な事を知らない者をバカにしているように。


「命の保証などいらねえ。俺は本来であれば43年前に死んだはずの人間だったぜ」


 二コラは言った。43年前。二コラが犯罪者として死刑執行されるときに死ぬはずだった。だが、二コラはそのときすでに人間ではなかった。

 ――吸血鬼になっていなければあのとき確実に死んでいた存在。それが二コラだ。

 二コラはネブリナの提案を退け、彼に詰め寄った。


「聞く相手を間違えたみたいだな。俺は指図されるのも敵から提案されるのも嫌いだ」


 紅い炎がネブリナに降りかかる。対するネブリナも砂のイデアで対抗する。吸血鬼でないネブリナは炎で焼かれれば死ぬ。中途半端に焼かれても後遺症は確実に残る。

 燃えない砂によって炎はかき消された。熱は伝わってもネブリナが直接燃やされることはない。だが、一瞬の安堵(あんど)は場合によっては命取りになる。

 砂の壁から二コラが飛び出してきた。


「そんな……」


 ネブリナの顔に拳が叩き込まれる。人間を超越した存在の二コラは人間であるネブリナをいともたやすく吹っ飛ばした。

 ダメ押しのように二コラは吹っ飛ばされたネブリナに詰め寄り、炎を叩き込む。人間の皮が焼ける臭いが鼻を突く。抵抗することさえできなかったネブリナ。彼は地下道の壁に背中からぶつかった。

 二コラはネブリナを見下ろした。


「よくもやりやがったな……」


 ネブリナは咳き込んで顔をあげた。彼の目に映る吸血鬼二コラ。その姿は吸血鬼の体温のごとく冷たく見えた。

 まだ動ける様子のネブリナを見た二コラ。今度はネブリナだけを焼き尽くさんと炎を放った。火の粉が辺りに散った。

 一方のネブリナは立ち上がる暇さえ与えられなかった。せめてもの抵抗として砂のイデアを展開する。砂の塊で炎をガードする。


(砂では前が見えないが炎が直撃するよりは……)


 砂に遮られて見えない炎。じんわりと炎の熱が空気からネブリナの体に伝わる。サウナのような熱気。その熱気はさらに熱くなる。熱風。

 砂の壁が破られ、二コラが突っ込んできた。彼はネブリナの首を掴む。無防備なネブリナは再び壁にたたきつけられた。吸血鬼の力は伊達ではない。二コラはネブリナの首から手を放す。


「勝ったか……?」


 二コラはつぶやいた。彼の(まと)う黒い外套(がいとう)は大半が燃え、その顔が露になる。ほんの少し燃えカスが付いていても様になる顔だ。そのギラギラとした瞳はネブリナの方を見る。

 壁に寄りかかったネブリナはまだ生きている。殺すべきかこのままにするか。どちらにしろ、ネブリナは立ち上がることで精一杯、二コラと戦うことができる状態ではない。

 ネブリナは咳き込み、口の中にたまっていた血を吐き出した。火傷と傷を負ったネブリナは見るも無惨な姿だ。それでも彼は屈しない。

 ネブリナの傍らで砂が渦を巻き始めていた。


「これでも俺は……デュークほど面倒な相手じゃない。運がよかったな……」


 ネブリナはつぶやいた。

 砂嵐が濃くなった。二コラはこれがチャンスだと判断する。


 二コラは一歩を踏み出す。二歩目、砂嵐が激しさを増す。三歩目、砂嵐が二コラに襲い掛かる。二コラは砂嵐の中に飛び込んだ。

 心臓を貫かれることがなければ傷を負っても関係ない。砂嵐を抜け、二コラはネブリナに近づいた。

 首根っこを掴む。投げる。体重が軽くないはずのネブリナを二コラはいともたやすく投げ飛ばした。


 穴を抜けて飛ばされるネブリナ。その先には先のとがった街灯がある。ネブリナの中に恐怖が巣食う。「あれ」に刺されば自分は死ぬという恐怖。ネブリナの顔はひきつっていた。

 彼の中で、街灯に体が刺さるまでの時間は長く感じられていた。


 10秒後。街灯の下には赤黒い血が滴り、地面は黒く汚れていった。




 地下道。

 二コラの外套(がいとう)は半分以上燃え、太陽光を防ぐことはできなくなった。二コラはため息をつく。


「俺が人間だったらネブリナに勝てたかどうか……だが、俺が吸血鬼だから外には出られねえな。残念ながら」


 二コラは地下道の天井に空いた穴を見た。決してあの穴から出られない。出てしまえば30分も持たないうえに、体の再生すらできない。

 厄介な存在である、と二コラは考え込んで壁に寄りかかった。



解説

ネブリナ

砂のイデア

展開範囲:広 密度:並 継続時間:30分 操作性:超良 隠密性:並

砂のような見た目をしている。不定形。砂そのものを操って攻撃や防御を行うことができる。シンプルで使いづらくないものの、ニコラ戦は相手が悪かった。

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