それぞれの戦い方
大変お待たせいたしました。
地面に空いた穴から地下道へ容赦なく光が差し込んでいる。ジョシュアは太陽光を割けるために地下へ行く目的で地面に穴をあけたが、この状況ではよく考えて戦わなくてはならない。
穴を挟んだ向こう側にはネブリナと二コラがいる。ジョシュアは向こう側の二人に対して睨みをきかせていた。二コラが自滅することのないよう、ネブリナが変な動きを見せないよう。
――変な動きを見せれば自分も加勢する。
その傍らで杏奈もシオンを攻撃した人物についてのめぼしがついた。ネブリナのイデアはシオンに刺さっているものとは全く違う。シオンを攻撃した人物はまた別にいる。そいつは――
穴の向こう側で再び動きがあった。二コラの炎の勢いが強くなる。彼は自らを傷つけようともネブリナを倒すつもりでいる。
二コラはネブリナに向かって炎の塊を放った。それに対抗するネブリナ。
「炎で砂は燃やせないだろう?」
ネブリナも二コラの激情に呼応するかのように砂のイデアを出した。
激しく渦を巻く砂、広がる炎。炎は砂によってかき消された。二コラにふりかかる小規模で高密度の砂嵐。砂嵐が二コラを包んだとき、二コラはネブリナに詰め寄って腕をつかんだ。
「お前も地下に行くんだよ」
二コラはネブリナの腕を引き、穴に飛び込んだ。
ジョシュアからは二コラとネブリナの様子がよく見えなかった。砂嵐が炎をかき消した後、何があったのか。徐々に砂嵐が晴れ、状況が明確になった。
二コラとネブリナはいない。その光景を見たジョシュアはため息をついた。
「やれやれ。勝手なことをするな」
ジョシュアはあきれながらもシオンの顔を見た。閉じられた目。眠っているのと変わらないが、彼は何かしらの攻撃を受けている。早く敵を探さねばならない。
そんな中、杏奈が何かに気づく。
「あいつだ。飲食店で新聞を開いている男」
杏奈は言った。
彼女の視線の先には目的の人物がいた。飲食店のテラスで新聞を広げてこちらの様子をうかがっている男。杏奈はその男を知っている。昨夜、杏奈たちの前に立ちふさがった者たちの一人。
「あいつか?そういえば昨日いたな」
グランツは言った。
シオンに攻撃してきた男は杏奈の視線に気づいたようで、彼の放つ殺気が変わった。
「私に任せるんだ。遠距離で確実に仕留めるならば私で十分だ」
と、ジョシュアが言うとシオンを地面に寝かせて再びイデアを展開する。
スライム状のイデアの塊が放たれた。イデアの塊は飲食店のテラスに向かって飛び、座っている男デュークからほんの少しそれる。いや、避けられたと言った方が正しい。
デュークはジョシュアの方を向いた。
「やれやれ、君は周囲を気にしないタイプの男だったか」
デュークはゆっくりとジョシュアの方を向いた。彼の手には釘のようなイデアが刺さっている。
「ああ。私は悪人と呼ばれてもいい。実際そういう者だからな」
ここからが本番だと言わんばかりにジョシュアはデュークを睨みつけた。ジョシュアとデュークの戦いは決められていたかのように避けられない。
ジョシュアは自分で地面に開けた穴を飛び越え、デュークに近寄った。その間6秒。デュークも身の危険を感じ取ったのか、立ち上がる。
「甘い。私を殺したところで彼を救えると思わない事です」
ジョシュアの考えはデュークに筒抜けだった。
「それ」を刺した人物を殺せばシオンを救い出せるという考えはあまりにも安直だった。イデアでの攻撃に対処することは一筋縄ではいかない。
「だったらどうすればいいか?無条件に人を殺すイデアなんてそうそう見かけない。そもそも無条件に人を殺すイデアでそこまでまどろっこしい事をするかい?」
ジョシュアは言った。すると、デュークの口角が上がる。
「この中にシオン・ランバートの魂は閉じ込められています。私が死ねばシオンの魂も消失する」
デュークは立ったままトランプのカードの束をポケットから出した。そのトランプすべてには右上と左下に釘で開けられたような穴が開いており、そこからはデュークと同じ気配がする。呪いでもかけられていると言うにふさわしいほどの気持ち悪さだ。
「それで、何が言いたい。私はカードゲームをするほどの時間などないぞ」
「シオンの魂が込められたカードを貴方が見破ることができればシオンは助かります。回数に制限は設けないが、タイムリミットは1時間半程度。シオンをこちらに連れてきてくれれば始めてもいいのですよ」
デュークは誘っているかのように言った。ジョシュアとしてもこの誘いに乗らないわけにはいかない。
「いいだろう。シオンは連れてくる」
穴の下。二コラは日陰に着地した。穴からは地上が見えている。そして二コラの目の前にはネブリナがいる。
「やれやれ、引き離すことが正解って理解していたんだな」
服についた砂をはらったネブリナは言った。絶妙な光の当たり方で彼の顔の陰影がはっきりとわかる。
「挟まれたくはねえからな」
と、二コラは言ってイデアを再び展開した。激しい炎のともる蝋燭が彼の闘志に呼応するように光を放つ。
「そうか。ただ、引き離したところであいつが簡単にくたばると思うな。むしろ俺の方が楽だったりするもんだ」




