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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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暗殺者まがい

データが飛んだときのためにデータのバックアップは取っておきましょう。今回に関しては内容まで変えて書き直してしまいましたが。

 タリスマンの町は杏奈たちが思う以上に広い。泊まっていたホテルと例の洋館が地図上ではすぐ近くであるように表記されていても実は離れている。これはよくあることなのかもしれない。

 一行は昼過ぎにはタリスマンの町の中心部にたどり着いた。田舎町というわりには活気があり、人通りも少なくない。この町の雰囲気は吸血鬼がいるとは思えないほど明るかった。


 町を行くシオンは行き交う人々の中に敵が紛れていないかどうかを警戒していた。暗殺者や通り魔はこのような場所で人を殺す。彼らのように、一行を狙う者がここにいても不思議ではない。

 一行の警戒とは裏腹に、人込みの中には殺気がない。これをひときわ不気味に思ったのは杏奈だった。

 ――おかしい。誰かが狙っていてもおかしいのに。敵を見つけられるノエルがいないのがおしい。

 杏奈はため息をついた。


「シオン」


 人込みの中から男の声が聞こえた。この声は杏奈とシオンの耳にも入っていた。


「俺のこと、呼んだか?」


 シオンがふいに振りかえる。声からして二コラとジョシュアではないかとシオンは考えたのだ。


「いや」


「呼んでいないよ」


 二コラとジョシュアは答えた。だが、シオンは確かにあの声を聞き取っていた。いたずらであれば無視したいというのがシオンの正直な気持ちだった。


「シオン・ランバート」


 人込みの中から再び声がした。何者かがシオンを呼び止めたのだ。それがシオンを知る人物なのか、いたずらなのか。


「なんだ?そもそも誰が俺を……」


 シオンの言葉が途中で詰まる。彼の目からは光が失われ、その場に倒れこんだ。

 それだけではなかった。シオンが倒れる瞬間に何かがシオンの胸を貫いていた。


 何が起きたのか、にわかにはわからない。だが、シオンが健康体であること、彼の胸に何か――長い釘のようなものが刺さっていることから、彼が何者かに攻撃されたということは確かである。


「先輩、返事をしてください……といっても無理でしょうか」


 杏奈は倒れたシオンにかけよった。シオンの返事はなく、呼吸はゆっくりで意識のない病人のようだ。杏奈がシオンの体をゆすっても彼は起きない。完全に意識を失っているらしい。


「さてと、どこから攻撃してきたか確かめるぜ。見つけ次第倒す。俺らに危害が及ばないって保証もねえだろ?」


 二コラは言った。

 人々が行き交う中から攻撃した何者かを探し出すのは容易ではない。だが、シオンの胸に刺さっているもののエネルギーをたどれば不可能ではない。

 敵はきっと隠れている。




 杏奈たちの一行を見ている執事の格好の男が二人。そのうちの一人は既にイデアを出し、攻撃した後だった。

 人込みに流れるわずかな風で緑色の髪が揺れる。


「これでいいか?」


 攻撃した男、デュークは言った。彼は殺気を表に出さぬまま杏奈たちを見張っている。杏奈が殺気に気づかなかったのも当然だろう。

 ――あと2時間でシオン・ランバートは死ぬ。今行動を共にしているネブリナと連携を取ればここで5人を全滅させられるだろう。


「問題ない。何かあれば俺が蹴散らしてやる。あんたは後ろからコソコソやっていればいい」


 デュークの相方の男、ネブリナは言った。

 デュークは少し考えすぎている。いくら自分の力と敵の力を知っていたとしても動き出すことができなければ意味がない。


「……そうだな。感謝するぞ、ネブリナ」


 2人は飲食店の中から杏奈たちの様子を監視し続けることにした。だが、二人ともずっと気づかれないとは思っていない。

 いずれ自分たちは気づかれる。気づかれたのなら排除するだけだ。




 人込みがある程度はけた瞬間、グランツがある人物を発見した。一度しか見ていないが印象深い人物、緑色の髪で眼鏡をかけた執事デュークだ。

 グランツの挙動にデュークも気づいたようで、彼は席を立った。


「どうした?」


 二コラはグランツに尋ねた。


「昨日の夜の奴らだよ。あの執事」


 グランツは答えた。

 グランツの視線の先ではデュークが明らかな殺意をこちらに向けている。そして、彼は一人ではない。


「ネブリナ、俺を守れ。2時間確保できればそれでいい」


「了解した」


 もう一人の執事ネブリナが席を立ち、杏奈たちのいる方へと向かってきた。彼には明確な敵意がある。

 戦う事は避けられない。

 杏奈とグランツはイデアを出し、ネブリナの出方をうかがうことにした。


 ネブリナの周りで砂が怪しく渦を巻く。来る。

 砂の塊が魔の手のようになり、杏奈とグランツに襲い掛かる。杏奈もグランツもすぐ近くにいるネブリナを認識できていない。


 ――見えない。視界に頼りすぎていればここまで苦戦するのか。

 一瞬、砂嵐が揺らめいた。そこを突き抜けて杏奈に斬りかかるネブリナ。振り下ろされる鉈。杏奈は鉈など見えておらず、ネブリナの格好の餌食でしかない。

 そのとき、二コラが杏奈とネブリナの間に割って入る。


「姿を見せろよ、砂野郎」


 二コラは杏奈がのけぞったのを見計らい、砂嵐の中に炎を叩き込んだ。

 砂嵐が次第に薄くなる。やがて、砂嵐の中からネブリナが現れた。鉈を持ったネブリナは不服そうな顔で二コラを見る。


「そんなに嫌かよ」


「フン。じきに日光に当てて灰にしてやる」


 ネブリナは二コラとまともに会話するつもりがないらしい。灰にするというのも二コラにはどういうことかよく理解できた。外套を完全に剥ぎ取り、日光にさらすこと。それでも二コラには策がある。吸血鬼であることが足かせとならないために。


 ネブリナは息をつく。二コラの周囲では相変わらず火のついた蝋燭のビジョンと炎が揺らめいている。その炎も牽制だ。

 傍らのジョシュアもイデアを出している。フヨフヨと浮いている緑色のスライムは触れたものを無差別に溶かす。


「ジョシュア。地下にいくぞ。ここでは勝ち目がない」


「そうさせてもらうよ」


 次に動いたのはジョシュアだった。攻撃。と思わせておいて、スライムが撃ち込まれた場所は地面。地面には3メートルほどの穴が開き、その穴は地下道に通じた。

 ジョシュアは穴を確認すると、近くに倒れていたシオンを抱きかかえて言った。


「君はシオンを気絶させた人ではないな?もう一人を出せ」


 ジョシュアは言った。真っ先に攻撃しようとしたグランツは何のことなのかわからなかった。敵はネブリナだけではない。


「出せと言っているんだよ。まあ、出さなくとも杏奈の刃が首を落とすかグランツのダーツが脳天を貫く」


 ジョシュアは言った。黒い外套のフードの下から彼の鋭い目が覗く。



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