(小編)手紙は異界へ届かない
データが飛んでしまい、書き直しが間に合いませんので、81話に変わりまして小編を挿入いたします。大変申し訳ございません。
――もう1ヶ月は経つだろう。君たちはまだ戻らない。生きているのかもわからないが、俺は君たちの帰りを待っているよ。君たちが前会長と同じように死ぬのなら、俺はきっと君たちを許さないだろう。
鮮血の夜明団本部のロビー。
1ヶ月前まではディサイドの町も復興が進んでいただけあって賑わっていた。だが、シオンや杏奈が異界へと旅立ってから、活気は失われていった。
杏奈、シオン、グランツの3人が果たして生きて帰ってくるのか。会長代理を勤めるウォレスはそれが一番の不安だと感じていた。
ウォレスはそっと手帳の日付にバツをつけた。3月29日。翌日は新たな会長が就任する日となっている。
「どうか生きて帰ってきてくれ。3人だけじゃないな」
ふと、ウォレスの脳内に別の支部で行方不明になった4人の魔物ハンターの顔が浮かんだ。
やめてくれ、と言わんばかりにウォレスは目を左手で覆った。
「ウォレスさん、どうしたんですか?」
差し入れとして飲み物を買ってきた彰が言った。彼の手には缶入りのホットコーヒーと緑茶が握られている。
「君はシオンたちが帰ってくると思うかい?」
ウォレスは彰に目を合わせることができなかった。
「やめてくださいよ、そんなことを聞くのは。あのシオンさんですよ。何日間か瓦礫に埋まっていて生還した。他二人もきっと帰ってきますよ」
「そうだといいな……」
彰が明るくふるまってもウォレスの不安は消えなかった。
残される者はこうも辛いのか。
ウォレスが不安を募らせたまま、新たな鮮血の夜明団の会長が就任した。新しい会長はネイサン・ジョエル。元はスリップノット支部の責任者だった。
「はじめまして、ウォレス君と彰君。シド・ファーネル元会長の話はよく聞いております」
ジョエルは言った。
「はじめまして。そうでしたら話が早くて助かります。主力が今不在でして」
と、ウォレスは返した。
ジョエルは信用できるのだろうか。数年たてば、また会長が変わるのではないだろうか。
ウォレスも彰もただ不安だった。
――最も懸念すべきことは鮮血の夜明団を乗っ取られること。今はジョエルを受け入れてシオンたちの帰りを待つしかない。




