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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
タリスマンの町編
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魔術の手筈

少し遅くなりましたが更新です。モチベーションを保つのは簡単ではないですね。

 魔境タリスマンを駆け抜ける5人の執事たち。そのうちの一人がノエルを抱きかかえていた。


「で、そいつをどうするんだ?」


 ヴィダルがロザリアに尋ねた。


「まあ、監禁するかな。アンジェラ様の好みに合えば別だけど。とりあえずアンジェラ様に会わせてみるかな」


 ロザリアは答えた。

 夜の町にたたずむ赤煉瓦の洋館。住人を見かけることがほとんどないことから「幽霊屋敷」とも呼ばれている。だが、その実態は「幽霊屋敷」ではなく「吸血鬼屋敷」。5人の執事は洋館に入っていった。




「おろして!こんなところに連れてきて何をする気!?」


 ロザリアの腕の上でノエルは暴れる。ノエルを抱きかかえたロザリアは人間の女性では考えられない力でノエルの首を押さえつけた。


「会わせたい人がいる。お前は有能だからね」


 ロザリアはこれ以上のことを話さず、ノエルを抱きかかえて重いドアを蹴り開けた。

 扉の向こうは夜と同じく暗い空間。ごてごてとした装飾の施された椅子に彼女、アンジェラは座っていた。

 赤と黒のグラデーションの髪。憂いを帯びながらも確固たる意志をたたえた目。絶世の美女とはいかないが色気を隠し切れない彼女は視界に入ったロザリアとノエルを認識した。


「そいつは何者?」


「異界調査隊御一行様の一人、千早ノエルだってさ。ちょっと邪魔だったから連れてきてみた。ここで殺せというなら殺してもいいけど」


「ふうん……」


 地面に下ろされたノエルはふとした瞬間にアンジェラと目が合った。彼女はその瞬間、にこりと微笑む。それはまるで、すべてを受け入れる闇のように暖かい微笑み。彼女の微笑みを見たノエルは背筋にぞっとするものを感じた。

 恐怖。違う。ノエルの感じたものは禁忌への畏怖だ。禁忌ははみ出したものであるからこそ、すべてに寛容だ。

 アンジェラはそっと手を伸ばし、ノエルの頬に触れた。ノエルの頬に冷え切ったアンジェラの体温が伝わった。

 ぞくり。

 怯えたノエルの双眸はアンジェラの顔を直視せざるをえなかった。


「怖がらなくていいのよ。かわいらしい顔が台無しになってしまうわ」


 頬に触れたままアンジェラは言った。


「いいわ、ロザリア。この娘は私のそばに侍らせる価値がある。きっと6年前からの私の心の空白を埋めてくれる……」


 艶かしい狂気。今のアンジェラを言い表すのにこれほど適した言葉はない。きっと彼女は多くの人間を虜にしてきたのだろう。

 それでも彼女の心は満たされない。ロザリアにもアルセリアにもこちら側のドロシーにも心の穴は埋められなかった。だからこそ、次に心の空白を埋める者を探していた。

 ロザリアはこのアンジェラに対してどこかよくないものを見出していたが、口にしようとはできなかった。よくないものこそがロザリアやほかの執事たちを生かす理由だったから。


「ノエル。まずは私と付き合いましょう?ほら、何もしないわ」


 アンジェラの声は優しかった。ノエルはもはや目の前の女が敵であることさえも疑うこととなる。そしてアンジェラの手はノエルの首筋に触れる。



「厄介な千早ノエルもアンジェラの手にかかればなすすべもないのかい。安心した」


 アンジェラとノエルの間を裂くようにロザリアは口を挟んだ。


「何?要件があるならば手早く頼むわ」


 アンジェラはノエルに語り掛けるときから声色を一変させた。


「あの、悪いんだけどさ。千早ノエルに聞かせるのも酷だから別の場所でできないかな?」


「ええ。そのかわり、ノエルに最高の寝床を用意してあげなさい。侵入者とはわけが違うわ」


「はいはい」


 ロザリアは部屋の奥へ進むと大きなウォークインクローゼットを開け、置かれていたベッドを片手で持ち上げてその場に置いた。ベッドそのものも豪華なものであったが、ロザリアはその横に小さなテーブルと黄色の間接照明も置く。それらはまさに貴族が使うようなもの。彼女たちはそのようなものを一体どこで仕入れてきたのだろうか。


「あんたはある意味招かれたんだ。本当に運がいいよ」


 アンジェラとともに部屋を出るときに言った。

 部屋に残されるノエル。暗い部屋にはベッドの横の間接照明以外に明かりはなかった。暗い部屋はノエルの恐怖心をも煽る。

 思い出すティアマットでの出来事。銃で撃たれたこと。ノエルは自分の命が危険にさらされていたことを再び自覚した。




 アンジェラとロザリアは洋館の廊下を歩き、玄関近くの小部屋に入った。例にもれずその部屋も暗い。


「ここでいいかな」


 アンジェラの前を歩いていたロザリアは立ち止まる。さらに彼女はポケットから何かを取り出した。水色の石と黒の石。ルーン石だ。


「私が出れば早かった。ルーン石なら確保してきたさ」


 暗闇の中ロザリアの顔は笑っていた。何かをあざ笑うような顔。ルーン石を持っていた杏奈たちをあざ笑っているのか、ルーン石を回収できなかった手下たちをあざ笑っているのか。それはアンジェラにもわかることではないが、今彼女にとってそれはどうでもいい。


「よくやったわ。あとはヴィダルの帰りを待つだけ。残り一つ」


 小部屋に置かれたテーブルにルーン石が一つずつ並べられてゆく。かつて魔術に使われたともいわれるルーン石。文字と石が共鳴してパワーを秘める石。

 フェイヒュー、スリサズ、ライゾ、ハガラズ、イサ、エイワズ、アルジズ、ティワズ、エオー、ラグズ、オシラ、ウィアド、ウルズ、アンスズ、カノ、ウンジョー、ナウシズ、ジェラ、パース、ソウイェル、ベルカナ、マンナズ、イングス、ダガズ。ここに24のルーン石がそろった。


「楽しみね」



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