毒を盛る料理人
いやあ、書いていてすごく笑っていました。精神的ダメージを与える方法を私なりに書いたのですが楽しくて楽しくて。
宿の名前はエソテリア。これは元いたスリップノットのドミトリーと同じ名前だ。
シオンがチェックインを済ませ、杏奈とグランツが部屋のベッドに横になる。
「なんで俺と杏奈だけなんだろうな。わけわからねえよ」
横になった状態でグランツは言った。
「さあ。せめて特効薬があればいいのだけどね」
二人は今同じ部屋のベッドに寝ている。その傍らでノエルが様子を見ている。
ノエルはノエルで熱を冷ますために氷を貰い、杏奈が酷い吐き気に襲われた時に背中をさする。
そして、シオンは4人分の弁当を宿の一階にある弁当屋に買いにいっている。
「ノエル。私の予想だけど、これは異界の霧と関係があるのではないかと思う」
杏奈は横になった状態で言った。それはあくまでも彼女の予想でしかない。
「それもあり得る話なのかもね。いかんせん私は何もわからないけれど」
と、ノエルが答える。
「そうか。いずれ分かるよね」
杏奈は息を吐く。少し横になったお陰か、かなり体が楽になった。
暫くすると、シオンが戻る。
「弁当買ってきたぜ。ここの名物らしい。パンもここで焼いてるってよ!」
シオンは弁当の入った袋を近くのテーブルに置いた。袋の中身の弁当の匂いが部屋中に広がる。元気な人であれば「良い匂い」であるといえるその匂い。しかし、当然ながら病人二人にとっては心地よいものではなく。
「そんなのがあるんですね。私、今はいいです。楽になりましたが食べたら吐きます」
「俺も今はいいや。体がしんどくて食欲が出ねえ」
杏奈とグランツは体調のこともあって、ひとまずは断った。そして、急に眠気が杏奈とグランツを襲い、二人は眠り込んだ。
杏奈が目を覚ました時の時間は午後9時。弁当を食べたのが午後2時だったので7時間眠っていたことになる。すっかり気分はよくなっていたのだが、杏奈はあることに気付く。シオンとノエルが倒れている。
杏奈はベッドから出ると、二人の呼吸と脈拍を確認する。どちらも呼吸、脈拍はある。だが、二人は揺すっても起きない。
「グランツ!シオンとノエルが!」
「んあ?起きたばかりなのに……」
あくびをしながらグランツは起き上がる。そして、倒れているシオンとノエルを見て表情が一変する。
「おい!これ絶対何かあったよなぁ!?俺らが寝てる間によ!」
「多分。呼吸と脈拍はあるけれど、揺すっても起きない。まさか……」
杏奈は袋の中の弁当を見た。入っていたパンが青く変色し明らかに危ない匂いを放っている。これは毒の可能性も考えられる。
「毒を盛られたかもしれない。グランツ、ちょっと行ってくる。毒には解毒剤を作っておくものだからね」
「待てよ、俺も行く。相手がどんな奴か分からねえだろ」
グランツが言うと、杏奈は鉄扇と弁当を取り、部屋を出た。1階に降りると、弁当屋はまだ開いていたことが確認できる。杏奈はすぐに店員を呼ぶ。
「すみません、この弁当に入っていたパンが青く変色したのですが……何か分かりますか?」
杏奈は弁当を店員に見せる。
「解らないとは言わせません。だって、この弁当はここで作っているという話ですからね!パンもここで焼いているって聞きました。逃れることなんてできません。」
「え?知らないよ。お嬢ちゃん、阿玉いかれてるの?それとも職業クレーマー?」
店員は杏奈をバカにするように嘲笑い、決して相手にしようとはしなかった。するとその店員の顔をダーツが掠める。店員の頬が裂け、出血する。
「おい、頭いかれてんのお前だろうが。こちとら仲間が二人も倒れて困ってんだよ!原因くらいわかるぞ、ゴラァ!」
いつもおちゃらけているグランツだが、この時はきっぱりと言った。杏奈としても非常に心強い限りだ。彼のオールバックの髪型も相まって迫力がある。
「あのなぁ、杏奈はこういいたいんだよ。この青いパンは何だ」
「……ぁ……ひぃ……なんで藻ございません!本当に何も!!!」
しゅん。
ダーツが再び店員の頬を掠めた。店員の喉元に突き立てられる鉄扇。その鉄扇は杏奈が持っている。
「本当に?だったら料理長を呼んできて。できないなら今ここでお前の首をはねる」
杏奈の目は本気だ。明確に殺意を向けられた店員は店長の名前を呼ぶ。
「アル店長!お客様が……!助けて汲田さい!」
すると、店の中から大柄な中年男性が出てきた。威圧感はバッチリだ。
「お客様、何か我々に落ち度でも?」
アル店長は言った。
「……あ、ん?なんで二人は無傷なんだ?在れには……」
と、アルは首をかしげた。そして、杏奈は見逃さず、聞き逃しもしなかった。「なんで二人は無傷なんだ?」という言葉であり得る可能性をすべて導き出す。
その答え、弁当に毒を盛って杏奈たちを殺そうとしているから。アル店長は簡単にボロを出していた。
「聞いていましたよ、アル店長。我々を殺そうとしている、ということでいいのでしょうか?」
と、杏奈は尋ねた。
「……そんな歯ずはないだろう。飲食店の不祥事は……」
アルは言う。そのアルの左手には確かにオーラ、つまりイデアが見えた。それは毒。アルは次の瞬間に毒の瓶を杏奈に投げつけた。咄嗟に杏奈はオーラを纏った鉄扇で瓶を弾く。
「正体を現したな。私が普通の女の子なら今ので確実に殺せていたよ。でも、生憎普通とは程遠い」
杏奈は星空のようなオーラを纏うと鉄扇でカウンターを破壊。手始めにアルの頭髪を『アホ』の形に残るように剃り落とした。
「な、何をする!」
「決まってる!お前から解毒剤なり血清なりを奪い取る!」
杏奈はアホ……もといアルの顔面に飛び蹴りを入れた。倒れるアル。
「そんなものはない……あの獨はイデアだ!」
やはりか、と感じ取った杏奈。毒の瓶もイデア。そして、杏奈はある仮説にたどり着く。イデアを解除すれば解毒できるのではないか?
「そうか。力づくでもイデアを解除させてやる。そうすれば、解毒できると読んだのでね。私はやると言ったらやる」
杏奈は再びアルに近づき、小指を切り落とした。
「ウワアアアアアア!!!」
更に杏奈は鉄扇に星空のようなオーラを纏う。そのまま杏奈はアルの服を剥ぎ取った。
「未知の力は悪用厳禁だっ!」
鉄扇の一閃が止めとなった。命までは取られなかったものの、『アホ』禿げと露になったメタボ体型によるアルの精神的ダメージは相当なものだった。いつ解除したのか、イデアも消えていた。
「はー、やれやれ。食料は自分で料理した方がいいね。初っぱなから毒盛られるなんて」
杏奈はそう言って鉄扇を閉じた。
「シオン達の様子見てくるか」
「そうだね。ついでに弁当も捨てよう。二度と弁当屋の弁当は食べたくない。不味いとかそんなレベルじゃない。殺される」
異界の人間感を出すために、異界の人間の言葉はわざと誤変換を入れる予定です。