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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
77/107

終着へと向かう旅路

アナザーパーティ編最後です。明後日投稿分から最終パートに入ります!

 その四つ足の獣は猫。灰色の毛のトラ猫、いわゆるサバトラという柄の猫だ。現れた猫はマゼンタの首輪をつけている。


「アビス……こんなところまで……」


 アルセリアは現れた猫――アビスを見ると言った。アビスは足音を立てずにビリーとアルセリアの間に入ると毛を逆立てた。


「フーッ!」


 威嚇(いかく)している。ビリーにはその威嚇も無意味。それでも、アビスは半透明の何かを周囲に浮遊させた。爪のようなもの。

 次の瞬間、ビリーの頬と首筋に傷が入った。


「獣の分際で生意気です。僕はアルセリアと話しをしている」


 ビリーは言った。一方のアビスは本気でビリーを殺すつもりでいる。アビスがビリーにとびかかった。半透明の何かが牙をむく。だが、ビリーは動じない。ビリーもイデアを展開し、その中に半透明の何か――アビスのイデアを封じ込めた。丸腰になったアビスの尾を掴むビリー。


「邪魔だ」


 放り投げられるアビス。アビスは開いていたゴミ回収ボックスにそのまま落ちた。アビスが投げられる光景をはっきりと見ていたアルセリアは声さえ出せなかった。ただ、見ているだけ。彼女に残酷な現実だけが突き付けられた。


「さて、君もなぜ自決しない。手段は与えた。あとは君がやるだけです」


 ビリーは無表情でアルセリアを見下ろしていた。


(私にはいくところがない。もう、死んでもいいよね……ごめんなさい)


 アルセリアは拳銃を手に取った。銃口を口に入れ震える手で引き金を引く。銃声、頭部から飛び散る血液。

 アルセリアの自決を見ていた者はビリー一人ではなかった。銃声を聞き、彼女が引き金を引く瞬間を見ていた杏奈と二コラ。二コラに至っては筆舌に尽くしがたい表情でアルセリアの最期を見届けることとなった。


「嘘だろ。よりによって……」


 二コラの表情筋がぴくぴくと痙攣(けいれん)する。彼は目の前で倒れたアルセリアを見て正気ではいられない。

 杏奈と二コラに気づき、ビリーは振り向いた。


「見ていたのですか。ああ、どうかそのような顔をなさらずに。君たちの敵の一人を処分したというのに」


 ビリーは言った。杏奈は彼の発言の意味をそれとなく理解した。ビリーは彼自身の意思でアルセリアを殺した。違う。アルセリアに自決させた。その証拠にアルセリアの手元に拳銃がある。そもそもアルセリアは自ら引き金を引いていた。


「ここまで胸糞悪いことは初めてだな。杏奈、今こいつを倒すか?」


「いや、今は厳しい。対策がわからない」


 杏奈は異界にたどり着いたばかりの頃を思い出した。冷静に破綻したビリーという男はあのとき何かを隠していた。それが彼自身の立場なのか、彼の持つ能力なのかは定かではない。だが、杏奈はビリーが危険な人物であると確信した。


「君の反応は正解です。さて、タリスマンで待っています」


 高ぶる気持ちを抑え、杏奈と二コラはビリーを見逃した。――いともたやすく人の命を奪おうとするビリーの本性は闇だ。彼には常識が通用しない。


「戻ろう。俺は何も……」





 一週間たった頃、ノエルが退院した。一度ディレインで治療を受けた後、クロックワイズの病院に移動していたとのことだった。

 退院したノエルの顔はどことなく不安を浮かべていた。


「怖い?」


 杏奈は退院したノエルに尋ねた。


「入院しているときよりはマシかも。でも、病院にいる間は熱も出してね……」


 ノエルは答えた。杏奈は熱というワードで思い出す。原因不明の高熱と嘔吐で入院していたとき。イデアが使えるようになるときの副作用とのことだったが、杏奈は異界に突入した後もたびたび高熱を出している。


「とにかく、よくなって何よりだよ」


 杏奈は言った。

 杏奈たちがクロックワイズに来てからの出来事をノエルは知らない。知らせるべきか否か、特に迷っていたのはジョシュア。だが、その迷いを打ち破るように言ったのはシオンだった。


「聞いてくれ、ノエル」


 シオンが言うと、ノエルはシオンの方を向いた。


「何ですか?」


「ルーン石が奪われた。今ここにあるのは最初に杏奈が持っていた『ジェラ』のルーン石とグランツが奪った『ベルカナ』のルーン石」


 ノエルは少し落ち込んだような顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。


「全部奪われなくてよかった。揃えさせてはいけないって二コラは言っていたからね」


「だな……」


 二コラは何かを考えていたかのように目をそらした。





 洋館の奥、日の光が差し込まない一室に彼女――アンジェラはいた。装飾過多の椅子に座り、紅茶を飲んでいる。その前に現れるビリー。


「どうしたの?」


「ルーン石の回収ですが、二つ取り逃してしまいました。申し訳ございません、どうかこの僕に罰を」


 ビリーが言うと、アンジェラは「ふふっ」と笑い声を漏らした。だが、彼女の目は笑ってない。暗い部屋で緑色の照明に照らされた顔がビリーの視界に入る。


「あいにく私にそんな趣味はないわ。行動で示しなさい。今度こそルーン石を回収し、鮮血の夜明団からの刺客を全滅させるのよ」


「はい。必ず彼らの心臓を献上いたしましょう」



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