理性なき化け物
アモット戦後半部分。今回もよろしくお願いします!
「心配いらねえ……だてに66年生きていねえよ」
二コラは話しかける杏奈にそう返した。今の二コラはかつて彼が死刑囚だったときと同じ。
二コラ・ディドロ、本名ニックス・ディオン。かつてとある町で悪評の高かったという会社の社長と重役を殺害したことで死刑となるはずだった人物。彼の死刑は表向きには執行されたことになっていた。だが、彼は獄中で人間をやめていた。故に彼は絞首刑だけでは死ななかった。のちに彼は脱獄し、かつての名を捨てて魔物ハンターとなる。彼が本当に66年生きているのかどうかは彼のみぞ知る。
二コラは自らの心臓の高鳴りを感じていた。もう止めることはできない。
「来いよ、アモット。俺は今43年ぶりにハイになっている!」
二コラは言った。彼の心の高まりにしたがって、放り投げていた丸太が燃える。
今度はアモットが先に動いた。黒いイデアの塊を二コラに向かって放った。爆発。二コラはそれすらものともせず、アモットに迫る。
「ちっ……」
「おおおおおおおっ!燃え尽きろ!!!」
爆発と炎が二人を包んだ。炎を抜けた先、アモットはイデアの塊を出して待ち受けていた。二コラは吸血鬼であるがゆえに気にしていなかったが、それがあだとなる。
――その瞬間、激しい爆発が二コラを包んだ。不敵な表情のアモット。彼は無言で煙の奥を見据えている。そして、いかなる状況であろうとも二コラを確実に仕留めるという意志があった。
二コラは爆発の勢いで両足を吹き飛ばされた。瓦礫や砂で覆われた地面が彼の血でじっとりと濡れる。その様子を見つめるアモット。彼はかすり傷ひとつない。
「確かに吸血鬼は恐ろしいな。だが、相性が悪かったようだ。もし俺とアルセリアの相手が逆ならよかったな」
アモットは言った。
服と皮膚が燃え、傷口からは血が滴る。今は両足も吹き飛ばされている。二コラは身体に感じる痛みを甘受するほかはなかった。少なくとも今は。身体は傷だらけでも精神的には負けてなどいない二コラはアモットを倒す方法を考えていた。
一方のアモットは二コラをひとまず放置することに決めた。攻撃を受けなくとも吸血鬼の特性が厄介なのだ。
(ひとまず杭だ。杭をアイツの心臓に撃ち込めば)
二コラを置いてアモットはその場を去ろうとした。だが、そこに立ちふさがる相手が一人。アルセリアとの戦闘で傷を負った杏奈。
「どこに行く?」
「答える必要はないだろう。敵に手の内を明かす馬鹿ではないぞ」
アモットは杏奈の問いに答えた。すると、杏奈は鉄扇を開く。ここでアモットを倒さねばならないと彼女の本能が訴えてきたのだ。それから斬りかかる。人を殺してもいい、自分が未来を失ってもいいという程度に腹をくくった杏奈だからできたことだ。
爆発が起きる。アモットはそれで牽制になったと思っていたが二コラと同じく杏奈にもそれは無意味なことだった。杏奈の纏ったイデアの周囲の空間がねじ曲がったかのように爆発を防ぎ、彼女は一切爆発の影響を受けなかった。そして杏奈は彼女自身の間合いに入る。
斬る。
深紅の鮮血が空中に飛び散った。杏奈がはじめてアモットに傷を入れた。その傷は決して浅いものではない。
「報告に聞く能力と違うぞ……!?」
動揺するアモット。彼の目の前に入り込んだ杏奈もどこか戸惑っている様子を見せていた。それが好機と読んだのか、アモットはイデアの塊で小規模な爆発を起こした。吹っ飛ばされる杏奈。彼女は一度倒れるもすぐに立ち上がる。
(二コラが戦えない以上私がやらないと)
杏奈は再びアモットに切り込もうとするが、その必要はなかった。
アモットの後ろに二コラが立っている。足は再生したようで、ふらついている様子はない。だが、二コラは裸足で服もボロボロに破れていた。
「手を貸すんじゃねえぞ」
二コラは言った。
彼はすぐさまアモットに突撃する。自分自身を焼き尽くしかねない炎を放ち、炎はアモットを包む。アモットも油断していたのか、炎を正面から受けることとなった。さらに追い打ちをかけるように二コラは炎を放つ。
「ハハハ……てめえも焼き殺されるのがお似合いだな」
二コラは狂気を含んだ笑みをアモットに向けた。その時の彼の右手にも炎の塊が浮いている。炎をアモットに叩き込む二コラは理性なき化け物のよう。ただ彼自身の感情の赴くままに炎を叩き込むのだった。その間にアモットも無理やり体制を立て直す。彼の肌は既に炎によって焼かれていた。アモットがイデアで防がなければ二コラが彼に炎を叩き込むことは難しくないらしい。
「……くっ。死なばもろとも。これでお前も死ぬんだよ」
二コラの一撃が決定打となったことを察したアモットは手にイデアの塊を集中させた。彼はすでに自分自身の死を悟っていた。その時の彼はもはや命への執着などなかったのだ。それは二コラも同じ。炎を伴った激しい爆発の中へ二人の姿は消えた。
「二コラ!」
杏奈の叫び。火の粉と煙があたりに漂う。肉が焼けただれる臭いが杏奈の鼻を突く。
煙が晴れた。その先には倒れたアモットと、彼を見下ろす二コラの姿が。怒りが収まったあとのような表情をした二コラはハアハアと息を荒げていた。その目の前に転がるアモットは動かない。
「やった……まだ近づくなよ」
二コラは自分の感情を抑えるような口調で言った。
暫くアモットの燃える遺体を見ていた二コラは杏奈の方を向きなおる。
「そっちはどうだ?アルセリアは生きているか?」
「一応死なない程度にとどめておいた。見たところアルセリアには迷いがあったからね」
二人はアルセリアの倒れている場所に向かおうとしていた。
「負けてしまいましたか。やはり無様なものです」
路地裏で倒れているアルセリアの前に現れたビリー・クレイ。彼は嘲笑するような顔でアルセリアを見下ろしていた。「もうお前は用済みだ」と言わんばかりに。
「何しに来た……」
アルセリアは声を振り絞った。
「決まっているでしょう。お前の最期を見届けるためです。感染症に罹った家畜は殺処分するではないですか」
直面する現実は残酷だ。動けないアルセリアの前に拳銃が放り投げられた。その拳銃には6発の弾が込められている。
「単刀直入に言う。自決しろ。いずれお前とディ・ライトは殺すつもりだったが」
その言葉はアルセリアの心に皹を入れた。
「自決しろと言っている。僕は汚れ仕事はしても部下殺しはできない。だから、君が自決してくれなければねえ……」
ビリーはため息交じりに言った。だが、何かがビリーの前に現れた。――四つ足の獣。
解説
アモット
火薬のイデア
密度:やや低 展開範囲:やや広 継続時間:2時間 操作性:良 隠密性:並
黒い火薬のようなイデア。熱と衝撃で爆発する。




