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ルーンと異界の旅日記  作者: 墨崎游弥
アナザーパーティ編
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風の中のアルセリア2

杏奈VSアルセリア後半部分です。

アルセリアの脳がぐわんと揺れる感覚がした。そのまま彼女はのけぞり、ビルの壁に手をついた。


「あんたも馬鹿の一つ覚えみたいな戦い方をするんだな」


アルセリアの耳に杏奈の声が入る。


「……あ……それは……」


杏奈にはアルセリアがひどく動揺していることがわかる。いくら有能だ、強いといわれている彼女でも精神は驚くほど脆い。これをチャンスと見た杏奈はアルセリアにとどめを刺そうとした。

だが、アルセリアは動揺していたとはいえ杏奈にとどめを刺させることはなかった。


「あんたはタリスマンにたどり着けない」


下から突き上げられたような空気の刃が杏奈の頬を切り裂いた。アルセリアはまだあきらめていない。杏奈が一瞬怯んだすきを見逃さず、アルセリアは杏奈の腹に蹴りを入れた。


「……!?」


アルセリアの蹴りは風を纏っていた。それが杏奈の体感だった。杏奈はふんばるも、風の勢いに吹き飛ばされた。一方にアルセリア。彼女は息を荒げながらも冷静に戻りつつあった。


「いい度胸だね。嫌いじゃない」


そう言ったアルセリアは一気に杏奈との距離を詰め、風を纏った拳と蹴りを叩き込む。杏奈はこれを、イデアを纏って防ぐ。勢いのあるアルセリアがどちらかというと押している。


(これをなんとかいなさなければね。せめて大砲を撃ってくれれば楽だよ)


ビルの近くにまで杏奈を追い込んだアルセリア。彼女は杏奈に抵抗するチャンスがないと判断し、あの技を使う。

空気が妙な流れを見せる風の大砲とは違う。だが、杏奈は嫌な予感がした。

突如渦巻く空気。それは徐々に激しさを増していき、杏奈はそれにとらわれた。


「大砲だけじゃないから。あんたは私に火をつけた」


抑揚のない声でアルセリアは言った。暴風の渦の中ビルは破壊され、植木は根こそぎ空中に吹き上げられる。その破壊力は桁違いだった。

少しずつ風が収まる。吹き上げられた瓦礫がガラガラと音を立てて地面に落ちる。本来であればその中に杏奈もいるはずだった。だが、杏奈はそこにいない。暴風の渦に巻き込まれて姿を消した人はどこかに引っかかっていることが多い。だが、上に杏奈の気配はない。


「……!?どこだ!?杏奈!?」


アルセリアは攻撃から索敵に転じる。


(杏奈がいるのは……路地裏?一体何を……なかなか斜め上の事を)


路地裏に杏奈の存在を確認したアルセリアは路地裏へと忍び寄る。彼女はいつでも風の大砲や暴風の渦を撃てる。いつでも杏奈を葬り去ることはできると考えていた。



暴風に包まれたとき、杏奈は一か八かで暴風の渦からの脱出を試みていた。ビルが破壊される前に出なければ危ない。杏奈は風の勢いが強くなった瞬間を狙った。水に落ちた時と同じようにイデアを限界まで濃くし、路地裏に向かって風の壁に突っ込んだ。空気の渦にも適用できるのではないかと踏んだのだ。

試行は成功だった。飛ばされかけたものの、杏奈は路地裏に着地した。


(さて、どうするか。むこうの攻撃の攻略法はある。だけど、決定打はない)


杏奈にとって決定打がないことは非常にきつい。アルセリアの顔に傷を入れることができたとはいえ、彼女の周囲を風のバリアが守っていた。それが杏奈の斬撃のダメージを減らしていた。

周囲の状況を確認する杏奈。路地裏にはゴミ回収ボックスが二つ。可燃ゴミと不燃ゴミのふたつ。その近くにはライターが転がっている。杏奈はそのライターを手に取った。ガスは残っている。さらに、杏奈は不燃ゴミ回収ボックスを開けた。中にはスプレー缶がいくつか捨てられている。杏奈は片っ端からスプレー缶を振り中身が残っている中型のものを持ち出すことにした。彼女が考えていたことは簡易的な火炎放射器を使う事だった。杏奈はすぐに使えるようにと、スプレーの吹き出し口近くにネクタイを結び、火をつけた。


「見つけた、神守杏奈」


ふと、後ろから声がした。アルセリアは杏奈の存在に気づいたらしい。


「これで終わりだよ……!」


杏奈が振り向くと同時にアルセリアは風の大砲を撃ち込んだ。いくら敵が炎を投げ込もうとも消してしまえばいい。アルセリアはそう考える。杏奈は狭い路地裏でもアルセリアの隙をみつけた。ゴミ回収ボックスに飛び乗り、上からアルセリアを狙う。案の定、風の大砲の上もアルセリアに向かって空気が流れている。杏奈はスプレーを噴射した。これが杏奈の賭け、火炎放射器。即席の火炎放射器はアルセリアに吸い込まれるように火を吹いた。


「!?」


アルセリアはその瞬間に気づいたが、もはや止めることはできなかった。火炎放射器の炎はアルセリアに吸い込まれるようにして彼女を包む。風が止む。杏奈は引火したリボンとスプレー缶を手放し、素早く下がる。その4秒後スプレー缶は爆発した。


「どうだ……?」


煙の中、杏奈はスプレー缶の破片をよけながらアルセリアの方を見る。風はすでにおさまっていた。


「まだ……私は……」


炎の中、アルセリアは生きていた。服は燃え、全身にひどい火傷を負い、見るも無残な様子だ。さらに破片が当たったのかところどころ出血しているところもあった。


「負けるわけにはいかない……せめて刺し違えてでも!」


喉が焼けたことで声がかすれ、息が乱れたアルセリアは無理に立ち上がる。だが、痛みが激しいのか動くことはできないらしい。満身創痍のアルセリアの起こす風はもはやそよ風にすぎなかった。


「もうあんたに私は倒せない。残念だけど」


「そう……」


何か言いたげなアルセリア。だが、彼女は自分の状態を、身をもって知ってしまった。


「私はあんたを道連れにすることさえできなかったんだね……いいよ。廃棄所育ちの私にはこんな最期がお似合いなのかもね」


がくん、とアルセリアは膝から崩れ落ちた。甘美なる絶望がアルセリアを襲い、彼女は笑みを浮かべながら涙を流す。


「私は幸せを許されなかったんだね」


「どうだろうね。二コラ次第ではあんたを助ける。あんたが無事ならね」


杏奈は路地裏を抜け、アモットと二コラが戦っている方を向いた。

――想像以上に激しい。



解説

アルセリア

旋風のイデア

密度:低 展開範囲:狭 継続時間:最大3日 操作性:悪 隠密性:高

空気の流れを操る。イデアの形状は伝承の風妖精の翅に近い。限られた範囲で暴風や竜巻を発生させることができる。

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